その日は朝から寒さも厳しく、氷雨の降る日だった。
そんな中を、母の最後の別れに 沢山の人が来てくれた。
式の始まる前、遠くから私の友人も駆けつけてくれた。
「○ちゃん、今まで大変やったのぉ」 と、私の肩を抱いて言った。
私は何か言おうとしたのだが、それは嗚咽となって涙に変わった。
何か・・・今まで堪えていた物が一気に吹き出したかのように
親や兄弟の前でも泣かなかったのに・・・いや、泣けなかった?
気丈に振る舞うことで 自分を保っていたのかもしれない。
式が始まる。
参列してくれた人々が、涙にくれる。
私は? もう涙は止まっていた。 ただぼんやりと母の位牌を見つめる。
式が終わり、斎場へと向かう。
道筋大回りをして、実家の前で暫く止まる。
再び走り出し、雨の中車は進む。
斎場に着けば
暮れだと言うのに、そこは順番待ちの列が出来ていた。
あらぁ〜〜 なんて事? 車から降りることも出来ないのね
でも、悲しい気持ちはみんな一緒。
ようやく順番が来て、別れの時が来た。
むせび泣く人々・・・
私は車椅子の父を押しながら、母の側へ近づく
愛おしそうに母の顔を見る父。
母の顔を間近で見るのは もうこれが本当の最後。
眉間にしわ出来て、顔が悲しみにゆがむ。
お母さん、今までありがとう!元気でね
最後まで辛い思いさせて ごめんね! ごめんね!
どうか、空の上では 毎日笑顔ですごせますように・・・
切に祈りを込めながら 母を見送った。
その後、私と弟と父は 帰らずに待っていて欲しいと言われ
後のことを姉と嫁さんに任し 控え室へ向かった。
姉達から後で聞いた話し。
帰り道 斎場から自宅近くへと向かったとき、それはそれは綺麗な虹が出たそうだ
しっかりとした虹の橋は まるで母を空へと導いていたようだった と。
私達はそれを見ることは出来なかったけど・・・
煙となって空に向かい、虹の橋を渡っていったんだねぇ
本当に・・・もう、此処には居ないんだね
1時間ほどして、私ら3人は 母の遺骨と共に帰宅した。
すでに、みんなはもう食事を終えて、バタバタと片付けをしていた。
なんだか慌ただしいねぇ〜 しんみりともしていられないね
でも、今日はこれでいいのかな
まだ実感の伴わない私が取り残されないように・・・
徐々に解ってくるのかな
夜・・・小さくなった母を父に任せ、私達は家に帰った。
ぼ〜〜っと、力が抜けて・・・
この日、数日ぶりにゆっくりお風呂に入り
一週間ぶりに 布団をひいて
ぼんやりと・・・
あぁぁ・・・そっか・・・もう病院に行かなくていいんだ
もう、介護のために実家へ通うこともないんだ
と改めて思った。
涙が 声もなく静かに流れた・・・