2007/5/18

『功夫ジョン』ネタばれ覚書 改訂版10  STAGE


ここからは新規追加です。

改訂版10は、ある解釈なので、特に気になさらないでください。
これはひとつの見解であって、何の参考にもなりません。




☆港生の事故(113P)
この事故がきっかけでジョンはシルバーハーベストの仲間の前から姿を消してしまうわけですが、この事故は単に体勢を崩した港生の喉をジョンが誤って突いたためではなく、その前に大河が真一を突き飛ばし、よろけた真一が港生にぶつかったため、港生の体制が崩れて起こった事故となり、多少とも真一が事故に対して責任を感じる科白が挿入されています。
本来であれば、港生は大河に協力しているので、事故を起こすにしても真一を間に挟む必要は特にありません。
なのに何故真一までが巻き込まれたのか?
それに関して
一つの考えを出してみました。

この「功夫ジョン」は、ジョンが主人公である一方で、真一もまた主人公である。
そのため真一はジョンとはジョンとは対称的な人物として描かれている。
故に、このシーンは、港生の事故に対して同じように負い目を持つことになる2人の主人公のうち、強いはずのジョンが事故の重さに耐え切れずシルバーハーベスト社から逃げてしまうのに対し、弱いはずの真一が事故は事故として受け止め前向きにシルバーハーベスト社に残るという対比を描くための重要なシーンなのでは?

もちろん、事故の重みは、長年弟のように港生を可愛がっていたジョンと、この日シルバーハーベスト社に入社したばかりの真一とでは全然違います。
ただ、事故後、監督に説得されるまで、一度も港生に会うこともなくじかに謝罪することもなく、手紙ひとつ残して事故そのものから簡単に逃げてしまったジョンは、それまで役者としての苦労はあってもこのシルバーハーベストでは、アクション以外のことは自分の手を煩わせることなく常にスタッフの誰かがやってくれ、正に蝶よ花よといった扱いを長年受けてきています。
だからこそ、自分はおろか、会社でも処理しきれない事故を目の当たりにしたとき、ジョンは港生からも、港生にしなくてはならない償いからも、事故そのものからも、強いては事故を起こした自分からもあわくって逃げたような感じもします。
直接的には「港生だったから」と云う思いがいちばん強いのでしょう。
その理由がもっとも単純明快ですし。

でも、そのままジョンに逃げられた港生にしてみたらどうなんでしょう。
ミスとは云え重症を負わせておきながら、一度も病院にも来ないでそのまま何も告げず逃走しまうジョン。
港生にしてみれば肉体的に傷つけた上に精神的にも追い討ちをかけているわけですから、ずいぶんな話です。もし、港生の方にに大河の策略という負い目がなかったら、ジョンのこの仕打ちに対して港生はどういう気持ちを抱くんでしょうか?
「逢わす顔がない」なんて、自分勝手過ぎます。でも、ジョンならありうるんですよね。この逃げ方。

そして、事故から4年後、ジョンは監督に説得されて口が利けなくなった港生のいるシルバーハーベストに戻ってきますが、そのときにジョンが逃げているのはもう「港生」ではないようです。戻ってきて真っ先になにか云わなければならない港生を前にしても項垂れたまま何も云わないジョン。ジョンが港生にとっている態度は、悦子や真一に対するものとそう変わらないように見えます。
港生が自ら口を利かなかったのは、ジョンがいなくなったことへの贖罪だったのでこの再会が港生にとっては、真相を話すチャンスだったと思うのですが、このジョンの様子ではいくらなんでも切り出しにくいですよね。ジョンが立ち直らない以上、港生も真相が話せないようです。これが、また悪循環を生んでいます。
誰もジョンを責めないのも良くないですね。傷口に触れないよう触れないようにしていますからね。特に昔からのスタッフ。
シルバーハーベスト社の雰囲気からしてどうしようもなくなまぬるいですし。4年後、帰ってきたジョンが難なく受け入れられたのもこの会社だからこそですよね。
アクション映画は不慮の事故が起こりうる可能性は高いことや拳を使うと云う事は、相手を傷つけること、悪くすれば命を奪うことすらありうることをそれまでのジョンは、その強さゆえか、全く考えていなかったようです。
スターだからなのか天性のものなのか、それとも、会社の居心地が良いためなのかジョンという人物は、どこかぬくぬくとしているイメージがあります。
だから、港生の事故という窮地に立たされた時、本来なら被らなくてはならない重責や会社が被る損害からもジョンは逃げてしまったのかもしれません。
まあ、この時のジョンの頭には、自分がいなくなった後の会社や監督のことを考える余裕はなかったとは思いますが、それにしても考えなさすぎです。そういうところがジョンがぬくぬくしてるように見えてしまう原因の1つでもあります。(そして、そのジョンを4年後温かく迎え入れる会社…)

そう云うジョンを見ていると、大河がみんなにちやほやされて迷惑をかけるだけかけて逃げ出してもまだ慕われるようなジョンのことを執拗に憎むのも判るような気がします。
まあ、大河が、ジョンを蹴落として自分が日本のアクションスターの頂点に立ちたいがため、入念に計画した上で、入社当初からスタッフとしてシルバーハーベストに潜り込んでいたのでしたら話は、別ですが、それにしたって、養成所から苦楽を共にしてきた仲間であるジョンや港生や豊三が黙って彼を助監督とにしておくのも変な話です。
まあ、ジョンは、監督にそれとなく「一つ下の後輩で自分以上の使い手がいる」ことを仄めかしていますが、監督によると名前までは教えていないようです。それを監督から聞かされた大河は、「ジョンさんがそんなことを。」と、一瞬喜んでいますが、よくよく考えてみるとこれまた随分な話ですよね。そこまで云うなら、はっきり名前も云えよ!!です。まあ、ジョンの自叙伝を読んでいた真一が1日で「大河」の実力と正体に気がつくくらいですから、アクションスターとしての大河の資質を無視しているのはむしろ会社ぐるみなのかもしれませんが。
ともあれ、養成所時代の大河を見る限り、彼らの仲は決して悪くありません。4人で協力しながら特訓に耐えています。それが社会に出た途端、何故、大河だけが違う道に進んでしまったのか不思議です。悪役スターとしてジョンとともにシルバーハーベスト2本柱になりえたはずなのに。

そんな大河にとって、この事故で潰しておきたいのは大スタージョンと今人気急上昇中の港生でなくてはならなかったのでしょう。この2人がいる限り、自分の番は回ってきませんから。

それにしても事故直後にジョンに「ジョンさんは悪くないです!あれは僕のせいです!(舞台では確か僕が全部悪いんです!だったような?)」と、謝っていた真一が、その事故で会社の看板俳優が行方をくらましたのに、会社に残り、会社を存続されるためにがんばるというのもなかなかできることじゃないと思います。
ジョンと共演できるだけでアレだけ狂喜乱舞していた真一が、本当に「あれは僕のせいです!」と、思っているなら、自分のせいで好きな俳優を2人も傷つけ(一人は病院送り、1人は行方不明)、映画を撮影不能にし、入社させてもらったばかりの会社にこれだけの迷惑をかけておきながら、それでも何とかしようとするのは、はっきり云ってバカか図太いのかのどちらかです。
(ただし、「ジョンさんは悪くないです!あれは僕のせいです!」は、真一がその場の勢いで云ったことで本気で云っていなかったとも考えられますし、ジョンがいなくなったとしてもただただ憧れのシルバーハーベスト社に残っていたいだけなのかもしれませんが。)

力は強いけれどもこれまで誰からも好かれ自分が必要とされる世界に身を置いてきたジョンと、力はないけれども死まで考えるほどきつい高校生活を生き長らえてきた真一の違いは、こういう土壇場にも出てきているのかもしれません。

ジョンが「港生のために」逃げた後の始末を全部負うことになったのが、尊敬する監督であり、真一であり、そして当の港生だったことを考えていると、ジョンは逃げている場合じゃないんですが…。
それだけ、ジョンのおかげで迷惑を被っておきながら、誰もジョンを責めないし、ジョンが逃げたことを本気で怒らないですけどね。(悦子は怒るというより拗ねているようなので除外。ようやく真一がまっすぐ怒りとジョンへの思いをぶつけたことでジョンは「功夫ジョン」に出演することを決意することを見ても、他のスタッフはジョンに気を遣いすぎのところがあります。)
同じように大河の悪事が発覚した時でさえ、撮影を優先してしまい、大河を責めたり、降板させないのも、みんなちょっと人が良すぎ……いや、そういう程度ではないです。ここの会社、大丈夫?

ただし、ジョンが、シルバーハーベストにそのまま留まれば、ジョン自身がどんなに自分を責めようとも監督もシルビアも他のスタッフも会社ぐるみでジョンを守るはずですし、会社の人間は誰一人ジョン責めることがないのをジョン自身がいちばん知っていたからこそ逃げ出したのかもしれません。
声を失った港生でさえ、ジョンをまず恨むことがないのは、ジョンも判っていたと思います。
ただ、そういうゆるま湯のような状態で、事故後もちやほやされることがそのときのジョンには絶えられなかったとも考えられます。
事故直後のジョンは残っても地獄、逃げても地獄の心境だったし、それに比べ、シルバーハーベスト以外の世界は自分に優しくないことを知っている真一は、シルバーハーベスト社に残らずにはいられなかったのかも。
そう考えると、シルバーハーベストという全面的に自分の味方になってくれる存在を捨て、敢えて先の見えない道を択んだジョンが果たして弱い人物なのか判りませんし、いじめられっこだった真一が唯一自分を受け入れてくれる存在であるシルバーハーベストに残ることを択んだのは、やはり真一の弱さとも云えます。
結局「強さ」と「弱さ」は表裏一体で見方によっては簡単に逆転してしまいます。

ほんと、大河や真一に比べれば、「ジョンも少しは痛い目にあえよ。」です。

というわけで、ジョンが4年も逃げた理由をつらつらと書いてみました。

実際にこの作品で強い存在であるジョンの弱さと弱い存在である真一の強さの対比を描くのであれば、もう少し踏み込めるはずですし、そこまでやっていないのは、ただ、私の思い込みに過ぎないんでしょう。
それでも、港生の事故にジョンだけでなく、真一も関わらせてしまったのも「あれは僕のせいです!」と云う科白を真一に言わせたのも、作家にそれなりの意図があったからであればいいなあ、と思います。
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