2015/4/28

バラはバラになろうと望んでいる。岩は岩になろうとしている。何を笑う?  MOVIE

本日の映画
「太秦ライムライト」

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です。

タイトルからもお判りのように
チャールズ・チャップリンの名作「ライムライト」の
ストーリーを下敷きに
舞台を日本の京都太秦撮影所に移した作品となっております。

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ということで冒頭にはこのような文章が…。

「ライムライト」というと
私たちの世代では英語の教科書にテキストとして
ストーリーが載っていたほどの
名画中の名画ですが、実際には見たことはありません。

ふつう、教科書に出てきた段階で教師が気を利かして
ビデオなりLD(=レーザーディスク)なりを買い込んで
生徒のために視聴覚室で映写会を開いてくれても
よさそうなものですが、
そこまで粋な校風でなかったことが悔やまれます。

さて、本家「ライムライト」の主人公は
演じるチャップリンを彷彿させる老コメディアンと
なっておりましたが、
こちらでは
「日本一の斬られ役」との声も名高い福本清三先生が
初主演に挑まれております。

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御年72歳。北大路欣也さんと同い年。

福本清三先生はあのトム・クルーズ主演「ラストサムライ」で
寡黙な侍(the Silent Samurai)役として
ハリウッドレビューされておられるので
お若い方でもご存知の方は多いと思います。


稽古の様子を少年(池松壮亮)と見護っている老剣士が福本清三先生です。

とは云え、今や「日本一の斬られ役」も
かつては「時代劇でちょいちょい顔を見るけれども
エンドクレジットの配役を見ても端役過ぎて名前が判らない」
ような大部屋俳優でした。

私が福本清三先生を知ったのは、御多分に漏れず、
1992年6月5日に放送された
バラエティ番組「探偵!ナイトスクープ」(テレビ朝日)
のおかげです。


この回です。今見るとむしろ「この人」の方が気になります。

もちろん、それ以前から
時代劇で何度もお顔を拝見していたものの
名前までは存じ上げておりませんでした。

それでもこの回の依頼文の冒頭
私に依頼はある人物についてのお願いなのですが、その人は俳優さんで、所謂痩せ浪人やうらぶれて用心棒等の役が多くいつも悪徳商人に『先生、お願いします。』と煽てられ正義の味方に斬りかかっていき必ず無念の形相で殺されてしまう脇役です。
と聞いただけで
「これはあのお方に違いない!!」
とパッと顔が頭に思い浮かんだ福本清三先生。

翌日、同じく年少の頃から時代劇に慣れ親しんでいる友人と
「『先生』は福本清三と云う名前だったのか。」
と語りあったものも今ではいい思い出です。

そんな福本清三先生が世間一般に認知されてから
20余年の歳月が流れ、1992年当時には
NHK、TBS、テレ朝、テレ東に
それぞれ週1で放送されていたテレビ時代劇は
現在、誰もが認める絶滅危惧種となっており
NHK総合「木曜時代劇」の枠だけが
かろうじて現存していると云う有様です。

ここで云っている時代劇とは
時代劇の中でも「チャンバラ」と呼ばれる痛快時代劇のことで
ドラマ性を重視した大河ドラマでさえ
視聴率が10%に届かなくなってきているというではないですか。

このままでは日本の時代劇がお茶の間から
本当に消えてしまう日もそう遠くありません。

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それはチャンバラ時代劇と云うジャンルにおいても同じこと。

そのため
本作は、福本清三先生演じる主人公の境遇ばかりではなく
時代劇が凋落していく様を描いた作品となっておりますが、



子供の頃から時代劇を見ていたとは云え
時代劇そのものについては詳しい知識を持ち合わせていない私が
何かと物申すのは大変烏滸がましいので
そのへんのところはまるっと割愛させていただきます。

時代劇の現場について詳しいことを知りたい方は
新潮新書から「なぜ時代劇は滅びるのか(春日太一著)」という
新書本が発売されていますので
そちらの方を読まれると大変ためになります。

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私はこのドラマに時代劇の終焉を見ました。昔だったら北大路欣也主演時代劇だよ。

では、まずはストーリーをざっくりと…。


京都太秦「日映撮影所」に所属する
香美山清一(福本清三)は斬られ役一筋のベテラン大部屋俳優。

大部屋俳優と一口で云えども
多くの大物俳優から次回作での共演を望まれるほど
周りからの評価も高く演技力において他の追従を赦しません。

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知る人ぞ知る土方歳三俳優栗塚旭も認めるベテラン大部屋俳優です。

しかし、テレビ界における時代劇の衰退とともに仕事も激減し
唯一40年近く続いていたテレビ時代劇「江戸桜風雲録」も
今シーズンのクランクアップと共に
シリーズ全体の終了が発表されます。

それが、視聴率の低迷と
時代劇嫌いで有名なプロデューサー川島明彦(合田雅吏)
の意向による打ち切りなのは見え見えだと云うのに
「40年間続いた国民的人気を誇る番組だからこそ
好評のまま有終の美を飾りたかった」
と尤もらしい理由を並び立てる現場スタッフ。

ベテランとは云えただの大部屋俳優でしかない
香美山とその仲間たちは、会社の方針に楯突くこともできず
行きつけの飲み屋で愚痴を溢すのが精いっぱいです。

殺陣シーンが作品のハイライトとも云える
チャンバラ時代劇があってこその「斬られ役」。

しかし、チャンバラ時代劇は
勧善懲悪で構成がワンパターン、
製作費ばかりがやたらかかるうえ
購買力の低い老人が視るものと決めつけられ
スポンサーがなかなかつかないのが現状です。

見かねた撮影所のスタッフ長沼兼一(本田博太郎)が
気を効かせ、
大部屋俳優に2時間サスペンスドラマの仕出し(エキストラ)
の仕事を用意しますが、

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本田博太郎さんが実に味わい深い演技を見せてくれます。

人間、「使ってやっている」と思うと扱いが雑になるもので
現場スタッフの仕出しに対する扱いはブラック企業並み。

炎天下で焼け付く地面に
長時間微動だにせず横たわるよう指示する演出家に
無言で抗議した香美山は恨みを買って一日で馘になってしまいます。

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どういうわけかこの映画に出てくる映画監督はもれなく人間ができていません。

現代劇での仕事もなくなった香美山は仲間とともに
撮影所が運営する太秦パーク(京都太秦映画村)で
観光客相手のチャンバラショーで食いつなぐことに…。

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時代劇不振の今このような仕事しか回ってきません。

昔ながらの役者が生きにくくなったように
時代劇のスタイルにも変化の時が訪れます。

「江戸桜風雲録」終了からしばらく経ち
古い形の時代劇を嫌う川島プロデューサーによる
新感覚時代劇「ODANOBU」の製作発表が行われ
久しぶりに活気立つ太秦の撮影所。

しかし、主演に時代劇の所作の基本も知らない
アイドル出身の若手俳優、工藤淳(尚玄)を迎えたことで
「ODANOBU」は波乱のスタートを切ります。

工藤は「月代」すら知らず
「(こんな髪型)ありえないっしょ。」の一言で
床山に歌舞伎の連獅子のようなカツラを容易させるわ
自分の恋人メグ(中村静香)をヒロイン役に抜擢するわ
と勝手し放題。
それでも若者の視聴者獲得にアイドル出身の工藤の出演が
不可欠なため、誰も口を挟むことができません。

さらに監督は監督で
俳優に刀は柄だけ持たせ刃はCGに描き足す斬新な演出を
自画自賛するような若手監督ときています。

話を聞いているだけで、嫌な予感しかしない新感覚時代劇。

プロデューサーは
「これまでの時代劇は一度完全に忘れてください。」
と云っていますが、
そうでもしないと見られた代物ではないような
「ODANOBU」です。

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新感覚の織田信長と濃姫。これを見た時は流石の川島Pの顔も一瞬固まりました。

大先輩たちの凋落ぶりや
ここにきての時代劇の変貌に
時代劇俳優を目指して太秦に集まってきた若い世代も
ドン引きです。

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若い世代も会社には意見できないので居酒屋で愚痴大会です。

殆どの若手仕出し俳優が、時代劇を見捨てて行く中
新人の伊賀さつき(山本千尋)は
現場でなんらかの成果を出すため香美山の弟子に志願します。

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「ライムライト」のテリーにあたるさつき。ただしあくまで師弟関係です。

最初は渋ったもののさつきの熱意に押され
香美山も培った殺陣の技術を彼女に伝授しはじめます。

来る日も来る日も時間を見つけては組稽古をする1人。

その甲斐があってさつきは
「ODANOBU」のヒロイン濃姫の吹替に
択ばれます。

その後はとんとん拍子で出世していくさつき。

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遂には東京でも認められテレビ出演も。

一方、師匠の香美山は長年の立ち回りの影響で
手首に激痛が走るようになり引退を余儀なくされます。

他の大部屋俳優も転職や引退、病気で一人欠け二人欠け
太秦パークの「チャンバラー学園辻指南!」ショーもなくなり
かつての稽古場は撮影所の物置となってしまいます。

そんななか「江戸桜風雲録」の劇場版の制作が決定し
ヒロインを演じるさつきや
主演の大スター尾上清十郎(松方弘樹)の強い要望で
香美山は当時の仲間とともに斬られ役を演じることに
なるのですが…。


という流れで「江戸桜風雲録」のラストシーンの撮影が
そのままこの映画のラストシーンとなります。

見ていてふと思ったのですが、
この作品と同じ年に公開された「イン・ザ・ヒーロー」も
時代劇と特撮とジャンルは違えども
表舞台に立つことのないその道のベテラン俳優が
新人俳優を鍛え導き、
自身も一花咲かせるストーリーの映画でした。

どちらの映画もベテラン俳優にスポットが当たる場面での
撮影シーンがクライマックスとなっています。

「イン・ザ・ヒーロー」の方は
「ワイヤーなし、CGなしの8.5m落下、
炎にまみれての100人斬り大立ち回りをワンカットで撮る」
と云う触れ込みのクライマックスシーンが
実際はワイヤー、CG使用した映像となってしまったため
評価を著しく堕としてしまいましたが、
本作は一切手を抜いておりません。

様々な人々の期待を背負い
一世一代の死にざまを見せる香美山。

ファンタジア国際映画祭にて
シュバル・ノワール賞(最優秀作品賞)
並びに最優秀主演男優賞を受賞したのも納得です。

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全力をもってことを成し遂げた男の姿に男泣きです。

「イン・ザ・ヒーロー」でもこういう本城渉(主人公)の姿が
見たかったんですよ、観客は。
「映画を愛する全ての人に贈る奇跡の物語(*)」とは
こういうのを云うんですよ。

本作のクライマックスで香美山はさつきと共演し
剣を交わすことになるのですが、
「イン・ザ・ヒーロー」にはそんな師弟対決すらないのです。

また、「イン・ザ・ヒーロー」の本城渉も
首を痛めていると云う設定になっていますが、
それは一世一代の演技のシーンでは
使われることがありませんでした。

撮影中左手首の痛みでNGを出し
監督から降ろされそうになった香美山を助けたのが、
他の誰でもなく川島Pというのも粋で好きです。

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時代劇が嫌いと公言しつつも時代劇を捨てきれない川島P。

「イン・ザ・ヒーロー」もこんな映画だったら良かったのに…。

比べるのは無粋と判っていてもどちらの映画にも
時代劇の大御所役で松方弘樹が出演しているせいか
つい比べてしまいます。

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松方弘樹御大もいろいろ思うところがおありになったでしょう。

結局、今回のレビューは
「イン・ザ・ヒーロー」の苦言になってしまいましたが、
「イン・ザ・ヒーロー」もクライマックスのがっかり感に
目を瞑れば面白い映画です。
私、試写会で見ていながら未だレビューは書いていませんが…。



(*)
「イン・ザ・ヒーロー」のキャッチコピー。
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