2015/2/10

最悪だぜ…時代って奴の犬にはなるな  MOVIE

本日の映画は
今年の1月までにアメリカで公開された戦争映画史上
最高の興行収入額を打ち出し、社会現象ともなった
クリント・イーストウッド監督最新作
「アメリカン・スナイパー」

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です。

TOHOシネマズの劇場試写会に当選して
一足早く鑑賞いたしました。

巨匠クリント・イーストウッド監督作品ということもあり
第87回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞を含む6部門に
当然のようにノミネートされ
さらには実話ベースと云うで
よその国の人間が余計な口を挟みにくい
ましてや茶々など入れにくい作品となっております。

というのも
神さまの作ったシナリオだけに
現実は小説より奇なり、現実は映画よりドラマティック
だったのです。







テキサス州に生まれた
クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー )は
少年の頃、暴力を伴ういじめに遭った弟ジェフを
暴力で対抗することで助け、そのことを知った父親から
「人間は
羊(世の中に邪悪なことなどないと信じている人)

狼(邪悪な捕食者)

牧羊犬(正義の刃を持って邪悪なものから世の中を護る人)
の3種類に分けられる。
弱い羊達を守る牧羊犬(シープドッグ)になれ。
狼にはなるな。」と、諭されます。
素直で信仰心の熱いクリスは
父親の言葉をしかと心に受け止めます。

それから歳月が流れ
成長したクリスとジェフはその父の教え通り
人を守る職業(警察・消防等)に就いたかと云うと
そんなことはなく、
兄弟揃って稼業の農家をやりながら
週末にはロデオショーで賞金を稼ぐ毎日を送っていました。

何の情報も入れずに映画を見ているこちらとしては
クリスもジェフも父親の教えを守り
さぞかし立派な職種に就いているものだとばかり
思っていたのでちょっと拍子抜けしましたが、
そこは実話ですから仕方ありません。

そもそも父親の「牧羊犬になれ」と云う言葉を
額面通り
「カウボーイになる」
と、受け取ってしまうこの短絡思考素直さこそが
この主人公の人生を左右することになるのです。

ある夜、いつものようにロデオで暴れ馬を制し
賞品のベルトを手に意気揚揚と我が家に帰った
クリスは仰天します。

というのも彼の帰りを持っているはずの恋人が
あろうことか間男をベッドルームに
引っ張り込んでいるではないですか!

馬に乗ってご満悦になっている場合ではなかったのです。

当然怒り狂い間男ともども恋人を家から放り出すクリス。

それ以前にベルトを持って帰れば
恋人が喜ぶと素直に信じているところが
いかにもクリスです。

この時点でのクリスはどうも
日本でのキャッチコピー
「米軍史上最多、160人を射殺した、ひとりの優しい父親」
から受ける主人公像とはややかけ離れているようです。

まだ序盤ですが、どちらかと云うと
「世界で一つだけのプレイブック」の主人公を彷彿させます。

怒りに任せ恋人を追い出したクリスでしたが、
我に返ると一つ屋根の下実弟と2人きり。
未だ何一つ護るものを持っていない自分に対して
後悔の念が渦巻いてきます。

こんなはずじゃなかった…。

30と云えば所帯を持って家族を養ってい手もおかしくないはず
それなのに現実は家庭どころか恋人に逃げられ
いい年してカウボーイごっこに明け暮れる毎日…。

折しもつけっぱなしだったテレビに
アメリカ大使館爆破事件(1998)の模様が流れ
それを見た素直なクリスは
「これだ!!これから俺は祖国を護るのだ!!」
と、脊髄反射的に地元の米軍に入隊する決意をします。

ここまでの流れだけを見ると、
戦争を風刺したコメディー映画にでも出てきそうな志願理由です。

しかし、これは実話ベースのストーリーです。

固い意志を買われてか
海軍のエリート部隊「ネイビー・シールズ」に
配属されたクリスは厳しい訓練も素直に耐え、
幼い頃から父親に教え込まれた狩猟の才能を存分に発揮します。

と、ここで出てくる海軍の訓練風景なのですが、
新兵は日常的にこのような訓練をさせられております。
(「基礎水中爆破訓練」と云います。)

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コンクリートの上で腹筋中上官がホースで水を浴びせてきます。

それ以外にも極寒の波打ち際で寒さに震えながら長座させられたり
泥水化した道を這いつくばるように走らされたりもします。
(この期間は「地獄週間(ヘル・ウィーク)」と呼ばれます)

その後彼らが派遣されることになるイラクは
全土が砂漠気候に当たり、
赴任しても海岸での戦闘はおろか
雨すら彼らを襲うことはありません。
襲ってくるのはもっぱら銃弾の雨です。
また、突発的なサンドストームで
砂まみれになることはあっても泥まみれになることもありません。

何のためにこんな水浸しな訓練を?
ちょっと首をかしげてしまいますが、
しかし、これは実話ですから、
この一見(水道代が)無駄に見える訓練も
理にかなっているのです。

海軍では真剣にこのような水と戯れる訓練を随時行っており
この時点で志願者の約8割程度が脱落するそうです。

勿論素直が取り柄のクリスは
この辛く厳しい訓練を無事に終え
2001年のアメリカ同時多発テロ事件発生後には
予てよりお付き合いのあったタヤ・レナエ(シエナ・ミラー)と
結婚します。

常に死の危険が伴う軍人と結婚することに躊躇があったタヤですが、
クリスの方は「アメリカを護る」ことしか頭になく
一つ間違えば戦場で自分が死ぬ可能性があることを
考えてないように見えます。

そして、新婚早々イラクに派遣されたクリスの最初の仕事は
米軍のコンボイに近づく幼い子供と母親の射殺でした。

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軍人としての初仕事がこれです。

2人が手榴弾を所持していることを報告すると
上官は発砲の判断を報告した
当の本人であるクリスに任せてしまいます。

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遠距離からスコープで狙っているため標的に警告することすらできません。

結果、任務に就いたばかりのペーペーであるクリスは
躊躇うことなく2人を射殺しコンボイは破壊を免れました。

それを機に戦場の英雄として祭り上げられるクリス。
彼のことを「レジェント」と呼び沸き立つ同僚を見ながら
複雑な表情を見せるもの
「お国のため」多くのアメリカ兵を護ったことに
誇りを感じるクリスでした。

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これ、「パニッシャースカル」っぽいマークだなと思っていたらそのものでした。
「レジェンド」と云う綽名の由来にもなっているそうです。


以降、敵兵ばかりではなくアルカイダに協力する民間人の命までを
奪う日々が続きます。

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戦場では子どもであろうと兵器を手にし構えた時点で狙撃されます。
自衛であろうが兵器を所持すると云うことはそういうことです。


やがて、驚異的な命中率を誇るクリスの存在は
アルカイダ側からも「ラマディの悪魔」と怖れられるようになり
21,000ドルの懸賞金が懸けられます。

一方、アルカイダ側も
元オリンピック金メダリストであるムスタファ(サミー・シーク)
と云う百発百中を誇るスナイパーが頭角を現し
クリスとムスタファはお互いを意識するようになります。

クリスとムスタファはいわば鏡像のようなものです。

それゆえ、イーストウッド監督は、スクリーンに
ムスタファの妻と生まれて間もない子供をちらっと
登場させます。

アメリカ軍から怖れられるムスタファも
また「ひとりの優しい父親」だったのですと云いたいのでしょう。

4度目のイラク派遣で見事ムスタファの射殺に成功した
クリスは潔く海軍を除隊し、
キャッチコピー通り「ひとりの優しい父親」に戻ります。

「味方兵を護ることこそが国をも護ること」
と云う信念の下、これまで数えられるだけで
160人もの人間を容赦なく撃ち殺してきたクリス。

そんなクリスの姿を見ていると
どうもちょうど20年前のアカデミー賞で作品賞を獲った
「フォレスト・ガンプ/一期一会」の主人公を
思い起こさせます。

イラクの兵は「野蛮人」と疑わず
「牧羊犬」として悪い「狼」を悪びれることなく
片っ端から殺してきた
クリスもまたフォレスト・ガンプのように
純真で素直(今で云う思考停止?)すぎて
アメリカという国にとっては
都合の良い「優等生」的な人物に見えます。

「牧羊犬になれ」と云う教えは
「弱い人を護れ」である一方で
「飼い主(この場合はアメリカ国家)の命令には忠実たれ」
ってことですからね。

日本でも「犬になる」と云う言葉がありますが、
決していい意味ではありません。
(犬になる=人の意のままに動く存在になること)

ただし、クリスは
「人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない」
と信じる真にイノセントなフォレスト・ガンプとは違い
「チョコレートの箱には何にせよチョコレートが入っている」
と信じ込んでいる頭の固いアメリカ男性ですので
帰国後重いPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し
長く苦しむことになります。

無理やり「黒いカラスも白くなる」なんて生き方をすれば
心も多少は壊れるもの。

何と云ってもアメリカが戦場になっているわけではないので
戦いの前も後も故郷はいつも同じ顔で彼を迎えてくれます。
これでは護っている実感が湧きません。

一体クリスが命を賭してまで護っているものは何だったのか?

PTSDの治療の一環として医者からの勧めに従って
クリスは自分と同じ傷痍軍人達との交流を始めます。

この傷痍軍人の描写は監督が最も見せたかった映像でないか
と思われるほど
目に見える肉体の欠損も
目に見えない心の傷も
生々しく描かれています。

傷痍軍人たちに射撃を教えることによって
時間をかけ自分の心の傷も癒していたクリスは
やがて、同じようにイラクに派遣され心を病んだ
一人の退役兵に射殺されます。

戦場から遠く離れた平和で安全な祖国の地で
アメリカを脅かすアルカイダの兵士ではなく
彼がその銃で護ってきたアメリカ兵の手で殺されると云う
これ以外考え付かない程しっくりくる結末を
神様が用意していたことに驚きを隠せません。
(神様がいて人の運命を司っているならばの話です)

アメリカに滅私奉公しアメリカに殉する
「アメリカン・スナイパー」
とは上手いタイトルを付けたものです。

まあ、「実話」なんですけど…。

…「実話」なんですよ。


アカデミー作品賞と監督賞を2度受賞し
むしろこの人こそが「レジェンド」の称号にふさわしい
クリント・イーストウッド監督が撮っていますので
戦場の臨場感は半端ありません。

その凄まじさ、過酷さたるや
今年85歳になられるご老体が撮ったとは
俄かには信じられません。

「…え?
今回のアカデミー賞で監督賞にノミネートされていないの?
え?なんで?」
と思ったのは私だけではないはず…。

ただ、最初にも申しましたように
監督が監督だけに
扱っているテーマがテーマだけに
そして何より「実話」だけに
下手にツッコめない映画なのです。

クリス・カイルの4度に渡るイラク派遣の描写の中には
任務中に妻に携帯電話していたところを
アルカイダに攻撃されたためいきなり通話が不通となり
状況が見えない妻が狂気に陥いるという場面が2度ほどあり
そのたびに
「何時どんな攻撃を受けるか判らない戦場で
のんびり家族と電話って何やってんねん!」
と、不思議に思う方もおられたのではないでしょうか?

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こんな時にも家族に電話連絡を怠らないやさしい父親。

しかし、そんな疑問に立ちはだかるのが
「実話」
という事実なのです。

新婚早々夫との間を国に引き裂かれ
家のことは何もかも任され
(身重なのにベビーベッドを組み立てさせられるとか)
それでも明るく振る舞っていた結果がこの電話。

軍人との結婚生活がどんなものであるかあらかじめ
知っていたとはいえ、奥さんの心労いかばかりか。

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奥さんのことを思うと胸が痛くなります。

でも、離婚はしません。
同じことがその後もう一度(もしかすると何度も)起こっても
彼女は離婚はしません。

それはもちろん
「実話」だからです。

また、3度目のイラク派遣で仲間の一人が
市場で安物の指輪を購入して
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ。」
みたいなべたべたな死亡フラグを立てても

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うっかり死亡フラグに手を出したためこんなことに…。でも実話です。

これは「実話」ですから
イーストウッド御大もそのまま描写したのでしょうし、
クリス・カイルが亡くなる直前
何の死の兆候も見えていないのに
突然、幼い息子に向かって
「妹とお母さんのことを頼む」
みたいなべたべたな死亡フラグを立てても
「実話」ですから
イーストウッド御大もそのまま描写したのでしょう。

そうに違いありません。

例え、これらのエピソードが映画用に
大げさに描かれていたとしても
作品の持つ厳粛な空気が
「そんなとこで家族と電話?え?
これもう一回あるの!?天丼?お笑いでいうところの?」
「何この死亡フラグ?え?これもう一回あるの!?」
と思っても口に出すことを許さないのです。

うううううう。



いや、本当は云いたいわけですよ、いろいろ。


実話だとしても
主人公に同等の射撃のを持つ「宿命のライバル」を
わざわざ設けて
主人公にとって最後の派遣となる4度目の出兵では
なんか2人の宿命の対決がメインみたいに見えてしまって

…スポ根ものじゃないんだから。
実話なのになんでこんなにもコテコテなの?
と思っても口に出してはいけません。

世間の空気がそうさせてくれません。

ほんと、
イーストウッド監督ってだけでもツッコミにくいのに
天下のアカデミー賞作品賞ノミネートですから
私のような小心者は
自主的に「ツッコミ厳禁」してしまうのです。

もちろんこれ↓だって

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この赤ちゃんが微動だにしないので「え?人形?」と思ったのも内緒です。

やっぱりツッコめません。

わざわざコメディ映画でも通じるような
ベタな描写をいくつも入れておきながら
この映画は
ツッコむことも笑うこともできないよう作られており
観客の方も
監督がイーストウッドだったり
原作が実話だったり
舞台が戦場だったりするので
笑うことができないちょっと不思議な映画です。



【追記】
2015/2/22に拍手コメントを下さった方ありがとうございます。
「是非とも映画館へ急ごう!」と云う言葉が何より嬉しいです!!

【追記2】
とあるtwitterの文章に
「アメリカンスナイパー」にも「映画で銃を撃つと超スローモーションで弾がギュィイイインって飛んでいくカット」があった
というのを見つけたのですが、確かにああいうダサい映像をわざわざ入れるあたりやはりイーストウッド監督は全て(のふつうドキュメンタリータッチな映像では避けるコント的なベタな演出)を意図してやっているとしか思えなくなりました。
…へんな汗が出てきた。

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