1960年前半(微妙)生まれの男の、映画について、音楽について、旅について、本について、そして人生とやらについてのブルース。自作の詩のおまけ付き。書いているのは、「おさむ」というやつです。
since 6.16.2005
To travel is to live. -H.C.Andersen
2007/5/7
陶陶酒を飲みながら
おさむ
新世界に降る雨は小雨で
誰も傘をさしてはいない
carp streamers が狼たちと一緒に踊る闇の中
天王寺動物園前には
今夜も6人ほどのダンボールの住人が眠っているわけで
そんな小雨ですかという感じで眠りに落ちている
午後10時を回ったばかりで
まだまだ夜は長く
雨は激しくなる模様
フランスのなんとかという美術館所有の浮世絵たちは
門の扉がきっちりと閉じたその動物園の先の美術館で眠っているわけで
たくさんの息を潜める動物たちと同じように呼吸をしながら
クロワーッサーンとカフェッオーレに馴れた感覚をくるくる回し
遠い彼方の江戸の記憶を思い起こしながら
なぜか動物園の動物の匂いに声を荒げるのだ
遠い記憶と近くのキュービイズム
鉄の門の外でかすかに聞こえる生きる人たちの寝息
そのリズムを思い出しながら
浮世絵たちはそれぞれの夢を想像する
切断された風景と限定された前景
からん
陶陶酒の辛口と甘口が並ぶその自動販売機で
僕はアルコール度12%の甘口を選び
分厚い鉄の扉の天王寺動物園の前で
フランス国立ギメ東洋美術館所蔵浮世絵展のポスターを見ながら
小雨の匂いを感じる
ほっといて
どうせ襲うんやろ
すでに6人くらいが場所をとっているその隙間に
酔っぱらった太った女と年配の男がやって来た
性は生とは区切られているわけではなくて
生は性でもあるわけで
陶陶酒の甘口のデミカップのふちを舐めながら
舌を伸ばして僕は小雨を受け取る
江戸時代に陶器を海外に輸送するために無造作に包み紙にされた浮世絵
その無名の作家たちのことなど
ひょっとしてお忘れですねと通天閣のビリケンさんが笑っているよ
こう見えてもアメリカ生まれでね
ビリケンさんがのたまう
彼の地では大統領が決まろうとしているんでしょ
小雨混じりの陶陶酒を口の中でころがしながら
僕はその遠い昔に父と一度だけ天王寺動物園へとやって来たことを思い出す
記憶にあるのは
どんな動物を見たとか
どんな天気だったとか
どう移動してやって来たとか
そういうことではなく
ただ
そこに父と一度だけ来たことがあるということ
甘口の陶陶酒を飲み干す
遠くで近くでも
至る所で聞こえるブルースを
心の中で
口笛でなぞりながら

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