(3)特色ある地域性は台北の魅力の一つ
台北の街は地域性が豊かだという印象がある。清代から残る街もあれば、「近代的」な都市の様相を呈している頂好のようなところまで多様な都市景観を見ることができる。あるところはまるで日本の昭和30年代のようなレトロな雰囲気を醸しているかと思えば、もっとずっと新しい印象を受ける地域もある。
地域的な特徴が多様な都市だという印象を受けた。これは都市としての台北の魅力だと感じられる。(ただ、現実にはこれは「地域間格差」であるかもしれないので注意が必要。)
私が気に入っているのは
士林と
西門町。あまり興味深くないのは
頂好。前者はいずれも若者の町である。後者はやや高級感のあるショッピング街で日本の大都市とあまり違いを感じない。
士林は
古いマーケット街が新しいマーケット街に変わったところのように見受けられた。マーケットの構造からは、比較的
普遍的なマーケットの構成原理が読み取れると思われたから。例えば、
イスラーム世界のバーザール(スーク)やヨーロッパのマーケットにも共通するパターンとして、
宗教施設と隣接して商業施設が広がっていること、新鮮さを求められる
食品はやや集まって市場群のやや外側にあること、などを挙げることができる。
それから、台北は
眠らない街である。夜遅くまで人が出歩いている。ただ、これは台北だけの特殊な事柄だとは思えない。
人々の活動が夜型なのは暑い地域の都市ではよく見られることだから。その意味では、台北が特段変わっているわけではない。ただ、居酒屋など
飲み屋をほとんど見かけないのは台湾の特徴かも知れない。
逆に多いのはコンビニ。日本の学生街(北大周辺)並みにコンビニがある。コンビニが多いのは、夫婦共働きが多いために台湾では外食することが多いそうだが、そのことと関連しているという。飲み屋が少ない理由は不明。台湾の若者は夜市に行ったりするので、居酒屋やバーの類が入ってくる前に夜市のお祭り的な空間が先に発展したことも飲み屋が少ない理由かもしれないし、お茶を飲む文化が先にあったことも一因かも知れない。まぁ、とにかく理由はよくわからない。
(4)マーケティング戦略と「表象としての日本」
台北の街を歩いていて、まず気づいたのは、
表通りの店はほとんど女性、特に
若い女性をターゲットにしているということだ。街で見かける看板も日本語を使ったものがしばしばあり、特に興味深かったのは
丸文字のような字体がしばしば使われている。服飾、日本食、音楽や映像、電子機器、書籍(日本語の本や日本旅行用ガイドブック)など、さまざまな「日本のもの」が目に付く(注3★)。こうしたところから、台湾では街を歩くと、
「表象としての日本」を利用しつつ、若年層をターゲットとした「マーケティングの一貫した戦略」があると感じた。この認識を得たことは、台湾での街歩きにおける最大の収穫の一つだった。
(注3★)どのような状態だったかについて、自分自身の備忘録という意味も込めて、もう少し具体的に書いておこう。
電子機器やおもちゃ、CDやDVDなどの商品では日本で売られている製品をそのまま輸入しているのが非常に目立つ。つまり、日本語表記のままの製品が輸入されているのが台湾においては特徴的であるように思われた。(電源プラグや周波数などが日本とほぼ同じであることもその背景にはあると思われる。)
特に、CDやDVDを売っている店では、日本のアーティストのCDがかなりの比重を占めていたし、街でもBGMとして日本語の歌がしばしば流れていた。その上、日本の最新アルバムが即日入荷されている(らしい)から驚きだ。
本については、市政府近くの誠品書店の中には誠品日文書店という日本語で書かれた本を専門に扱う書店まであった。普通の本屋でも、カタカナやひらかながかなり普通に使われているし、売っている旅行ガイドでも日本についてのものが非常に多い。これは本当に予想を遥かに上回る数だった。
ケーブルテレビなどで日本のアニメが放送されていることなどは、もはや言うまでもないだろう。さらに食べ物についても、お好み焼きやしゃぶしゃぶ、回転寿司など「日式」のものをかなり見かけた。
こうした形で日本語や日本のものが流通していることと並行して、片言の日本語を話せる人は意外と多い。「日語会話教室」の看板も随所で目にする。
以上のような様子を見るにつけ、
台湾ほど日本に深い関心を寄せている(少なくとも、日本に関連するものに囲まれて生活している)人が多い地域は他にないのではないかとさえ思う。
ただ、この関心もある意味では台湾の諸企業のマーケティング戦略の上に乗っていると見ることができる。つまり、「日本」が魅力的だから扱われているというより、「『日本』という魅力的な表象」を作り出すことで商売をうまく回している面「も」あるのではないだろうか?
日本との地理的な近さと日本の経済力、中華人民共和国と中華民国との政府間関係、そのことと関連した国際社会での不利な扱い(国連やその機関に正式な「加盟国」として登録されないことなど)などの要因が重なりあった状況があり、
そうした台湾の状況を最も有効に機能させる戦略の一つとして浮上しているのが、上記のようなマーケティング戦略ではななかろうか、と私は思っている。(とはいえ、これだけに還元できるはずはないが、とにかく社会システム上を流通している言説やイメージが流通する度合いを高める役割は果たしているだろう、ということ。)
台北を離れるが、もう一つだけ話題を付け加えると、
九分への観光が現地で盛んな背景には、近年の台湾における「本土化」――自分たちのアイデンティティを「中国」ではなく「台湾」に求めようとする一種の「台湾ナショナリズム」の台頭――との関連もあると聞いていたが、行ってみた感じでは露骨なものではなかった。むしろ、お祭りの露店のようなところに気軽に遊びに行っているような印象だった。
以上、旅行に対する目的意識を踏まえた雑感を書いてみた。
できれば、台湾旅行に関連して考えたことは、このブログにもあと何回か書いておきたいと思う。

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