第1章 印象派とその周辺の画家たち
モネの
「エトルタ、夕日のアヴァル断崖」は、夕日の沈む空の様子や海に映る夕日の光などをよく捉えた名画と思った。モネと言えば睡蓮の作品が有名で、私もマルモッタン美術館やオランジュリー美術館などで何度も見てきたが、青を中心とした単調な色彩が何となく面白みに欠ける傾向を感じていた。この作品はその意味で青系と赤系との両方が使われており、断崖の陰影と明るい空などの対比などもあり、なかなか良い感じの絵だと思われる。
私の好きな画家のひとり、ルノワールの作品も今回の展覧会では7作品が展示されていたが、「アンリ・ベルンシュタインの肖像」の写実的な描き方に少し驚いた。とは言え、国内の美術館の展示にモネやルノワールの作品はある種の目玉としてしばしば用意されるが、パリなどで見る最高傑作級の作品と比べると、これらの作品は作者の名前だけが有名で、絵画としての水準はパリで見るようなものとは異なるということをしばしば感じるが、今回もその考えを変えるようなものではなかった。
しかし、同じルノワールの「タンホイザーの舞台」という作品では、
意味を排除するかのような印象派の作品、特にルノワールの作品としては珍しく、物語を主題とした絵のようだったので、意外性があって面白かった。
第2章 革新的で伝統的な画家たち
両大戦間のフランス絵画は、ナショナリズムの高まりという社会の「時代精神」と呼応して、
絵画の世界でも「フランス的な伝統」への回帰(というか、創造?)が見られるのが興味深い。
このコーナーで気になった画家は
ヴラマンクだった。私としては完全にノーマークの(名前は何となく知っていたが、あまり気にしたことがない)画家だったが、意外によいと感じる作品がいくつかあった。雰囲気の暗さは全体的に共通しており、モネやルノワールとはまったく違う世界観が提示されているが、例えば「ルイ・フィリップ様式の花瓶」は、確かにタイトルも「花瓶」になっているが、実際に見ても花より花瓶の方が主題だとハッキリわかるもので、これはある種の力量が感じられた。
また、「雪の道」という作品では雪は単に白いだけでなく、泥が混じって茶色が混じったりする感じなどが見事に表現されていた。暗い雰囲気なのは他の作品と共通だが、寂しさを感じさせるとともに、描かれた建物などからどこか凛とした感じも受けるところが面白い作品だと感じた。
「風景」という作品は、闇の中に差し込む光が印象的で、これはフランス絵画というより、私としては
レンブラント的だと感じた。
第3章 エコール・ド・パリの画家たち
ここでは
ユトリロがよかった。今までユトリロの作品は何度か見てきたが、正直、あまり良いと思ったことはなかったが、今回は
いくつか印象に残る作品に出合うことができた。
ユトリロはアルコール依存症でその治療の一環として絵を描いたというが、「パリのサン=セヴラン教会」など複数の作品に見られる整然とした、定規で線を引いたような構図が、アルコール依存症のイメージと正反対で面白かった(
内面を補償しているのか?)。描かれている対象が教会堂が多いのも、同じ傾向に思えた。
その中で、私がフランスのゴシック教会堂の最高傑作だと思っている「アミアンの大聖堂」も描かれていたのが印象的。「アミアンの大聖堂」では、フライング・バットレスが、画面の奥側に向かう整然とした放射状の線上に描かれているように見えたが、これは写実的な描き方というよりは
セザンヌの絵に近いものを感じた。
また、「サクレ=クール寺院の丸屋根とサン=ピエール教会の鐘楼」という作品は、サクレ・クールの白亜のドームが聳え立つ様子が印象的。

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