先日、特定秘密保護法が安倍内閣・自民党・公明党の強硬/強行な国会運営によって成立した。
新聞などでは「知る権利」が侵害されるといった観点からの批判が多いように見受けられるが、そうした点を除いても、さらに気になることがある。
私が特に気になっているのは次のような場合である。
例えば、イラク戦争や湾岸戦争のようなことが起った場合に、日本もアメリカなどから軍事的な形での参加を要請されたとする。日本は現状では憲法九条によって自己抑制しているため、海外での実力行使は原則としてできないことになっている。
しかし、時の政権がこの戦争に参加することは「国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要な」ことであると考えたり、または、「テロリズムの防止のための措置」であると考えた場合(というか、
そのように考えさえすれば!)、
憲法には違反しているにも関わらず、主権者である国民には事実を伏せたまま自衛隊を軍事的支援のために国外に派遣し、活動させるということも可能になってしまうのではないか。
これが私がこの法律に対して持つ懸念の一つである。
これをもう少し敷衍してみる。
その際、
派遣される自衛官は戦争に参加することを知ることになるが、そのことが「特定秘密」であると指定されてしまえば、公務員たる自衛官は、その「特定秘密」を他に伝えると罰せられることとなり、小規模な部隊の派遣などは事実上可能となってしまう可能性がある。(もちろん、活動の際には他の同盟国にも、日本がその軍事行動に参加していることは公表しないということを条件として課すに違いない。)
もちろん、こうした事実が生じた場合、完全に隠しきれるものではないだろう。それでも、この法律があることによって、
特定秘密の公開時期までは政府はシラを切ることを自己正当化することができる。そして、60年後には、派兵した事実が発生した時に有権者(20歳以上)であったものはほとんどいなくなっている(生きていても80歳以上になっている)。
気がかりな点をもう一つあげてみる。
この法律を治安維持法になぞらえる批判に対して、石破茂自民党幹事長は12月12日に「治安維持法は、本当に国民を取り締まるための法律だ。今度の法律は、秘密を取り扱う公務員が強い責任感を持ち、そしてそれを漏らした場合には重い処罰があり、公務員に対する法律だ。国民を取り締まるための治安維持法と同列視するのは少しどうかなと思う」などと述べている。
しかし、ある法律が目的として何を謳っているか、ということと、ある法律がどのように運用され、それがどのような社会的効果をもたらすか、ということは同じではない。
デモをテロとして認定してしまえば、それに対して政府がとる行為は「特定秘密」に指定することができるようになり、違法・脱法的な行為を行いやすくなる。そのようなことがもしおこったとすれば、治安維持法によって当時の政府が行いえたことと似たような人権侵害が起る可能性がないと否定することは出来ないのではないか。
もちろん、直ちにやりたい放題のことができるとは思わないが、次々と周囲を固めていくことによって条件が整ってくる。たとえば、これから
安倍政権が成立させようとしているとされる「共謀罪」を合法化する法案などができれば、「テロなどの重大な組織犯罪について、実行していなくても、犯行の計画の謀議に加わった場合」処罰できるようになるのだから、権力が直接的に実力行使できる範囲が大きく広がることになる。こうしたものと
組み合わせていくことで今回の特定秘密保護法のもつ危険性はどんどん高まっていくのではないか。
ついでに、もう一言述べておくと。
安倍晋三は例えば、岸信介が首相だった時代の出来事について、安倍晋三の観点から見て不名誉な事実を外部に漏らさないようにするために、特定秘密として指定したいと思っているものもあるのではないか、などと勘繰りたくなる。

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