大原美術館は1930年開館した日本における最古の西洋美術を専門とする美術館である。
企業家が社会貢献活動の一環として行った事業であり、80年以上も続いていることは(運営費は入場料等で賄っているそうだ)賞賛されるべきものだと思う。(これが可能となっている要因としては、展示会場の延べ床面積が2000uと比較的小さいことやスタッフ数が約40名であり、学芸員はそのうち5名という少人数の体制で運営していることなどもあると思われる。)
私が注目したのは、これが
大恐慌が始まった(1929年)直後だということである。19世紀末から20世紀初頭にかけての
経済のグローバル化の中で絵画なども投資対象となっていったことが、欧米を越えて日本にも波及してきたことを反映しているのではないか、と思われたからである。
もちろん、美術館は商売のために設立されたわけではないだろう。大原孫三郎は西洋絵画のコレクションを始めた後、1921年に「第一回現代フランス名画家作品展覧会」を開催し、大きな反響を得たことで、社会の中に美への渇望があることを認識し、美術品の展示も社会に貢献する活動だと判断するにいたったという。しかし、コレクションが成立するためには絵画市場が存在し、売買が行われることが前提となっていることは否めず、私が注目したのはそうした美術館成立の基礎をなす条件の部分である。
なお、美術館の「ギリシア神殿風」とされるファサードも「ヨーロッパ」を模範としてそこから技芸を取り入れていこうとする姿勢が反映していると見ることができる。
以下、気になった作品などについて一言コメントをメモしておく。
★クロード・モネ 積みわら
画面の明るさ、日の光が画面の左上から注いでくる様、近くの積みわら(日陰)と遠くの積みわら(日向)のコントラストなど、
これぞ印象派という超本格的な作品。こうしたものが日本国内で見られるのは重要。
★ルノワール 泉による女
ルノワール自身の印象派時代から古典主義の時代を経た後期の作品。
印象派時代の明るい色彩と軽やかなタッチと古典主義時代の量感ある女性の身体描写が融合しているのが特徴のようであり、
ルノワール作品の一つの見方を学んだ点で大きな収穫があった。
★ポール・ベルナール・ベナール ヴィーナス
古典主義的な作品。今回の展示を見ていて何度か指摘があったのだが、
第一次大戦後のフランスでは伝統や古典古代への回帰をよしとする風潮が強く、それがこの作品の作風にも影響しているという。グローバル化と戦争によりナショナリズムが高まりを見せていたということか。
★モーリス・ユトリロ パリ郊外――サン=ドニ
構図と壁の質感などが素晴らしく、全体としての雰囲気が他の絵画と一線を画しており、多くの鑑賞者がこの絵画の前で足を止めていた。
★明治から第二次大戦前までの日本近代絵画に関する展示では、大正期までには日本の洋画家は西洋の印象派までの技法や題材をかなりの程度、吸収・消化していたことがわかり収穫だった。
★ロダンの彫刻の影響。それ以前の日本の彫刻は木彫だったが、ロダンの影響が入ってきて以後、粘土やブロンズによる彫刻が製作されるようになったという。

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