もういい加減にしてくれ。堪えられない。全身が金平糖のような形で、とげが鋭くて、全体的にかさぶたに覆われてがさがさ。潤いが足りないから皮膚がめくれてきたんだ。アルコールじゃ直んないんだそうだ。どこまでも続くがけっぷちをバランス取りながら渡る。ここは真っ暗だ。真夜中なのかもしれない。2時間くらいこうしている気がする。もう少ししっかりした足場があれば、ちょっとは休めるのにな、そう思いながら一歩ずつ進む。こつが掴めてくる。私の右側が岩肌で、足場が、かろうじて、らせん状にこの岩山を取り巻き頂上まで続いているようだ。すり足で、前に出した足のかかとが後ろになる足のつま先に当たるところまで出し、足場を確認し、徐々に体重移動をする。いきなり全体重をかけると足場が崩れる恐れがあるので、前足に三割ぐらいかけて、いったん後ろに戻す。次は5割。そして7割。と、試してみる。この動作がだんだん速くなってきてるので、小刻みに前後に揺れながらちょっとづつ前進している形になるだろうか。始めたときよりだいぶスムーズに進めるようになった。
今、上空を何か鳥のようなものが飛んでいった。視線を上げた瞬間に、バランスを崩してしまった。何か掴まろうともがいたのだが、岩肌はこれと言った出っ張りもなく、今足場にしていたところにぶら下がる形になってしまったようだ。うまく飛び降りられれば、一段下に前に通った足場があるはずだ。その部分にうまく着地できるか?岩肌に身体をなるべく密着させ、すべるように降りた。何とか足場らしきところに着地できた。どのくらい前に通ったところだろう。着地は出来たけど、岩肌を滑った拍子に肋骨の上をすりむいたようだ。ひりひりするし、なんかあったかくてべろっとしたものがプラプラしている。また同じ道を登るのかと思うとうんざりしてきた。ここどこなんだよ。腐りたいところだが、座り込む場所もなし。登るポーズを変えてみようと思い、岩肌を抱きかかえるような格好になり、蟹歩きで進む。こんな状況なのに、自分の動作を俯瞰で想像すると吹き出してしまう。
そうこうしている内に、不意にまわりが明るくなる。朝が来たんだ!振り向くと、雲間から差し込む日の光の筋が、何本もの光の矢になって何処かを指し示している。状況は、暗い中で想像したのとあまり変わらないみたいだけど、あんまり景色がいいもんだから、しばらくわれを忘れ見とれていた。

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