タクシーで駒沢大学駅へ向かう。
元走り屋の運転手は、猛スピードで246をのらくら走る野郎どもを追い抜いてゆく。
「弦巻いくんだったら、右に曲がって…」
「あの、道わかんないんでお任せします。」
アスファルトジャングルを駆け抜けるうちら!
「もうすぐ駅ですね。弦巻だったら…。」
「お任せします。」
ブルルルー。
「弦巻だと…」
「すみません、弦巻は関係ないです。私はただ、駒澤大学駅に向かって欲しいんです。」
私は弦巻なんて地名は一言も出してないのに、何かにつけ「弦巻」が出てくる。
ほとぼりが冷めた頃、ポソっと運転手が言った。
「昔この辺住んでたんすよ…」
妄想体質の私に、見ず知らずの彼の弦巻時代の思い出が蘇ってくる。
「弦巻にいくには、ほら、あそこの交差点を右に曲がるんです。」
「ええ。」
「…って言う大きなスーパー、ありますでしょ、あの隣のアパートに7年いたんです。」
「向いがコインランドリーの…」
「そうです!裏に検事の…が住んでる…」
「二ヵ月後に釈放されますね。一度小火がありませんでしたか?」
「そうそう!え!?見えるんですか?」
「ナンですかね…」
こうして妄想は果てしなく続いてゆく。
しばらくして目的地に着いた。
「お忘れ物のないように…」
「ありがとう…」
いつも何処かの街角で、都会の闇にまぎれた魑魅魍魎がひょこっと顔を出す瞬間がある。そんなときは取り込まれた人々が、虚実ない交ぜの面白話を繰り広げている。相手は狐かタヌキか幽霊か…。
どっちにしろ日本の代表であることには代わりがない。
ロンドンのそんな空気に触れてくることが出来るかしら…。
(あんまり事実に基づいてはいません。)

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