昨日は、数ヶ月お世話になった派遣の職場の最後の日だった。
色んな想いがあったり、なんだりでやっと終わったという安堵もあり、疲れて帰ってきたら、うちの人が着物を着て出迎えてくれた。
先日祖母から貰った、祖父の羽織袴姿である。
着物は好きだし、よく似合うので見ていても気持ちがいいのだが、今日に限っては「その着物は誰が片付けルンだろう…」と、更に疲れた気分にもなってしまった。
部屋へ入ると、ウチの人は別な着物を持って来て、「畳んで。」と言った。
こういうの、かわいいなぁ、とも、面倒だなぁ、とも思った。
彼が今着ているものは部屋に吊るしてあったものなので、いいのだが、
その別な着物は私の桐箪笥にしまって置いた物だった。
「出したの。」と言うと、「うん、間違えた。」と、彼は言った。
桐箪笥の中の私の大事な着物達は無事だったかしら…と思いながら、チラッと箪笥を見ると、中途半端に引き出しが開いていたが、中は整然としていた。
私はぶつぶつ言いつつもまんざらでもない様子で着物を畳み、二人でごろっと横になった。
ふと見ると、袴の隙間から帯が覗いている。私の半幅帯だ。ウチの人の男物の帯もあるのだが、私がしまっておいたので探せなかったんだろう。
呪いの言葉がどこからともなく聞こえてくる。
〜私のものは、あなたのもの。あなたのものも、あなたのもの。〜
「それ私の帯。」「うん。」ウチの人はことも無げに頷いた。
少しして脱ぎ始めたが、やはり私の帯は私の望み通りには畳んでもらえなかった。シカゴの山積みの古着のように、くるくる巻きにされてしまった。
「違うわよ、前に出来てるしわの通りに畳むんだよ。」
母に教わったとおりのことを言って、畳みなおす。
新しいしわをつけない様にしていけば、100年でも200年でも持つような気がする。
母や祖母や曽祖母や祖父の着物を、私が着て、ウチの人が着て、この後誰が着るのかなぁ、と、まだ見ぬ…に想いを馳せながら、着物を畳んでいた。

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