最終日、俺はもう完全に焦っていた。
苦虫を噛みつぶすような表情になっているのが自分にもわかった。
いつもは実際はけっこうのんびりタイプの釣り師と自覚しているのだがこの時はちがった。
この金額を二回分だすことはできない。
この宿の主人カルロスがピロテーロなのだが、
激流にはツクナレはいない。と言って止水域を俺に執拗に推める。
この河は水量の多いちょい大きめのヤマメや岩魚
のいそうな渓流を想像して頂ければよいのだが、かなりの激流がある河だ。
普通はトロ場になっている区間をボートでゆっくり流しながら打っていくのがセオリーだろう。
だが、その区間はいくら打ってもツクナレはおろか他の魚のバイトすらない。
いい加減シビレの切らせた俺は、
「なんでもいいから俺の言うとうりにしてくれ。」
と言い放ち、ボートを激流域に向かわせた。
こういう場合のピーコックはマス系のように流しんの脇ではなく、激流の両岸にある浅瀬のわずかな澱みにいると直感した。
そこを立っているのもやっとの状態でキャストし続けた。
すごいスピードで下っていくため、ほんのちょっとの手返しのミスで大事なポイントを通り過ぎていく。
集中力がなく、いいかげんで今までの人生を失敗し続けている俺もこの時は異常に集中した。
無数に滴り落ちる汗が目や口に入ろうとも気にならなかった。
一切の無駄な動きは排し、一度しか打てないそのポイントを10cmの誤差もなく打つことに全神経を集中させた。
スコーピオンXT。手にしっくりくる良いリールだ。
それに合わせカルロスも必死の櫂さばきでボートの態勢をささえてくれた。
しかし、浅瀬の澱みにはかなり大きなビックーダやタライロン、マトリンシャンが待機していて、ルアーを襲ってくる。
ピーコックでないのがわかると、ワザと竿をしゃくって外す。
もう俺には時間がない!
しかし、狙いは間違っていなかった。
ペンシルにアタックしてくる音にピーコックらしきアタックが!
キタッ! が...
思ったよりも嬉しくない。
これが永きにわたって恋い焦がれた魚なのか...
確かに見たことない種だ。
終了間際4時30分。
帰る時間を含めこれがポサーダではぎりいっぱいの時間だ。
まだあきらめなかった。
ぜったい最後にドラマは俺を待っていると信じてやまなかった。
3kmは下ったろうか、1mは落差があろうかというごうごうと勢いのある激流に入った時、
荒瀬の終わりの澱みの脇に3mぐらいの白いプライヤ(砂浜)が見えた。
ネグロ河のアスーで何度も出会った瞬間。とんでもないビックサイズのピーコックは意外にもこのプライヤの水深1,5m程にある段差のラインに付く。
水面からは何の変化も見えないこの段差にスーパービックサイズはステイしているのだ!
来い!!
そこからはもうスローモーションであった。
プライヤ水際ぎりぎりにキャスト。
着水音はほとんどしなかった。
キラッ、チュポッとTDソルトペンシルをアクションさせた瞬間、
その赤い¨炎¨は飛び出した!!
バッカーン!!
赤い!ものすごい赤さだ!
銘竿プレステージのミディアムライトが根元からしなる。
TDソルトペンシルには最高の動きを出させるため強力な針を載せていなかった。
それはこの種は大型種ではなく小型種と認識していたためである。
デカい!!小型種の大きさではない!!
慎重にファイトする。もう手が少し震えているのが自分にもわかる。
ドラグはいつもぎちぎち派なのだが、この時は少しゆるんでいたのが功を奏した。
ドラグを引き出し、何度も深みにもぐろうとする。
赤いブラックウォーターの中でさらに赤い頭部が深い底に突っ込もうとする。
あせらず、パワー勝負にでることをしなかった。見える程に浮かび上がった時口元を見て青ざめた。
皮一枚だ...
神様!たのむ!!
慎重によせると、
「カーマ、カーマ、テルまかせろ!!」
そう言ったカルロスもかなり興奮している。
ガシッ!!口をボガで掴んだ瞬間、フックが伸びて外れた。
うおーっやった!やった!!
グランドン!!
超希少種!!
赤い炎のピーコック!!
ツクナレ.フォーゴ!!
魚でこれほど震えたのは久しぶりだ。
この魚で手足の奮えは魚種の大きさの問題ではなく、
夢の大きさなんだと今さらながらに気付きました。
15年来の見続けた夢がここにかないました。
心配してくれている母、友人、
応援してくれているボンバダファンのみなさん、それにカルロス。
すべてのみんなにありがとう!!
すぐに写真を撮ってリリース....
いや、最後に15年恋い焦がれ続けた姿を
1分間だけ、1分間だけ心に焼き付かさせてくれ、
他種ではありえない赤いアイシャドー、赤い唇、黄金と漆黒の力強い横縞..
どのピーコックにも似つかない独特で最高の美しさだ..
そして、実物のおまえはインターネットで見てきたどのフォーゴより大きく、美しい。
俺にとっておまえだけは特別だったんだ..
ありがとう、チャオ..
すべては成就した。
俺の最高の恋人は今も、あの神秘の河を悠然と泳いでいる。
リオ アズール編 完。
ps、二年ほど前に大きくピーコックバスは学名整理され、新たなる種の名前がつけられました。
しかし、この炎にはこんなに特徴的な種にもかかわらず、今だ学名がつけられていません。
一時は僕も他の種ミリアナエ(Cichla mirianae)のタイプなのか?と臆測が飛び交っていたため確信が持てませんでしたが、
実物に出会って確信しました。
完全に他のピーコックとは違います。
なんかこの種に慎重になっている学者の愛情すら感じます。
そして、熱帯魚マニアのみなさんに一言。
実際私の知る限りでは日本には一匹すら輸入、もしくは密輸入されていないはずですが、
かなり生息域の狭い固有種です。他のアイスポットの数万分の1ぐらいの生息数だと感じます。
あの広い南米の細い河2本にしかいないのですからレッドアロワナ以上です。
ほぼ絶滅のレッドアロワナのようにしてはならないと強く感じます。
くれぐれも欲しいなんて言わないように。w
協力
Pousada Rio Azul
熱帯魚マニアや、珍しい鳥のバードウォッチングの方には超オススメのポサーダです。
清潔で料理もおいしく、貴重な生物、固有種がいっぱいいて、最高なのが蚊がいない!
河でもゴミなんてひとつも見かけることはまずないでしょう。釣り人すらいません。
僕の紹介だと言うと多少安くなります。
時間があればまた、他の珍魚紹介します。