2015/1/22

3231:教会録音  

 セッティングがとりあえず完了した。デッカ・コーナー・スピーカーは背面上方に放出された音が背面の壁に反射して部屋に音が響く。そのため背面の壁とスピーカーの距離に応じて音の質感に大きな変化があるはずである。追い込むには時間がかかりそうなスピーカーである。

 私はバッグに忍ばせていたレコードを一枚取り出した。スザーネ・ラウテンバッハのバッハ無伴奏ヴァイオリン集の一枚である。

 「やっと3枚揃いました・・・無伴奏ヴァイオリン集。この最初の1枚がなかなか見つからなくて・・・」

 そのレコードをオーナーに見せると、オーナーは「よく見つかったね・・・3枚のうち、この1番がはいっている盤が少ないんだよね・・・じゃ、これをかけてみようか・・・その前にコーヒーでも淹れよう・・・アンプもまだ暖まっていないからね・・・」

 そう言ってオーナーはコーヒーを淹れるために部屋の隅にあるミニキッチンに向かった。デッカ・コーナー・スピーカーはそれほど大きなスピーカーでない。17畳ほどの広さのこの部屋の中では控えめな表情で佇んでいた。

 オーナーが入れてくれたコーヒーをゆっくりと飲んだ。オーナーはマンデリンが好きなようで、大概マンデリンを細かめに曳いた濃厚なコーヒーを出してくれる。その濃厚な味わいの黒い液体は周囲の色を吸い込むようである。

 オーナーはジャケットから慎重にレコードを取り出してLP12のターンテーブルに置いた。ゆっくりとアームを盤面の上に移動させリフトレバーを下した。

 デッカ・コーナー・スピーカーから聴こえてくるのはその構造上間接音が主である。ユニット背面からの音はキャビネット内の複雑な音道を通ってキャビネット下部から放出されるが、それも直線的にリスニングポイントに飛んでくるわけではない。

 音の定位はしっかりとしている。しかし、音の響きは何かしら天井に向かって円錐状に伸びていくような印象を受けた。

 先週、杉並区のAさんのお宅でレコードを聴かせてもらった際に教会録音のバッハの無伴奏が一枚かかった。そのレコードのことを思い出した。

 その教会録音のレコードの響きは、教会録音らしく残響成分がすっと上に向かって伸びていた。その音を聴いていると、自分自身の意識が上に上に伸び上っていくような気がした。

 それが続くと、一種の幽体離脱ではないが、意識が体を離れて天井に昇って行くような錯覚に捉われた。

 その時の印象に近い音である。デッカ・コーナー・スピーカーは独特な音の質感を有している。その提示する風景はまさに教会の内部のように厳粛で気持ちが鎮まるものであった。



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ