2013/4/5

2577:ふりかけ  

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 山伏峠を上り終えて、正丸峠まで足を伸ばした。峠の茶屋にはまだ客は誰もいなかった。時間は11時半・・・昼時にはまだ少し早い時間である。

 「いらっしゃい・・・」ひとの良さそうなおばちゃんが迎え入れてくれた。店の中は結構広い。テーブル席が六つぐらいあり、奥には座敷の席もある。

 「正丸丼できますか?」

 席について訊いた。

 「ああ、大丈夫ですよ・・・今日は良い天気ですね・・・昨日と一昨日は風と雨が強くてお休みだったんです・・・木曜日は休むことが多いんですけどね・・・二日続けて休んだんで、今日はやっているんです・・・」

 お茶をテーブルにおいて、おばちゃんはひとしきり話した。

 「風と雨が強いと、時々雨が換気扇を逆流して、お店の中に吹き込んでくることがあるんですよ・・・でも風向きが良かったのか、昨日の風では雨の吹き込みはなかったみたい。今朝心配してお店に来たんですけどね・・・全然大丈夫だった。」

 キッチンの中にはもう一人のおばちゃんがいて、食事を作っている。そのおばちゃんに向かって「どんぶり・・・ひとつね・・・」と声をかけていた。

 「今日は天気が良いから、昼過ぎにはハイカーなどもやってくるだろう・・・」そう思いながら一時の時間、広い店内をひとり占めした。窓からは春霞にうっすらと煙る景色が見える。西武ドームが小さく光っている。まるで白い子亀の甲羅のようである。

 運ばれてきた「正丸丼」は見慣れたものである。甘辛く炒めた豚肉が食欲をそそる。どんぶり飯がすいすいと口に運ばれ、見る見る減っていた。素朴な味わいである。坂を上り汗をかいた。体を酷使した。そのおかげで、正丸丼には特別な「ふりかけ」がかけられているかのようである。

 その「ふりかけ」はどんな色をしているのであろうか・・・金色であろうか、黄色か・・・飴色のような渋い色合いであろうか。

 私が子供の頃「ふりかけ」と言えば、丸美屋の「のりたま」であった。ノリと卵の絶妙なバランス、その舌に馴染む味わいがご飯を別物に変えた。

 そういえば、大人になるに従って「ふりかけ」とは縁遠くなってしまった。「ふりかけ」は子供の食べ物という気がしていたのかもしれない。

 この正丸丼には、目には見えないが、子供の頃の「のりたま」のようなある特別な存在が確かにかかっていた。峠の茶屋からの景色や、気の良いおばちゃんの笑顔や、ひいこら言いながら上がってきた峠の坂道が、絶妙なバランスで配合されているかのようである。



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