2012/3/29

2205:そば豆腐  

 「子供の昔の写真を見て、泣いたりしたことってありませんよね・・・」「寧々ちゃん」はテーブルについて、注文の確認を済ませた私の方を向いてさりげなく訊いてきた。

 「えっと・・・まあ、涙を流すほどではないですけど、しみじみと見入ることはあります・・・うちは女の子が二人なんですけど、下の子が小さい頃はとてもかわいい顔立ちをしていて、まるで天使のような存在だったんです。今となってはできの悪い中学生になり下がってしまいましたが、3,4歳の頃の写真を見ると、ほんとにかいわかった・・・そういうときは、昔に戻してほしい・・・と本気で思いますね・・・」

 「そうですか・・・うちも女の子ですけど、やはり、幼稚園の頃や小学生の低学年の頃の写真を見ると、ついつい頬が緩んでしまます。そして過ぎ去っていった時の流れを思うと、悲しくなってしまうんです。あんなに素晴らしく純粋なものが手元にあったのに、今はもうない。全ては過ぎ去ってしまう、全ては流れ去ってしまう・・・そんな無情な感じが心を支配してしまいます。」

 前菜は三つ出てきた。それぞれ季節のものを上手にアレンジした気品ある料理で、とてもおいしかった。「寧々ちゃん」は「ビールが飲みたくなりますね・・・」と漏らした。

 「でも、車ですからね・・・アルコールが入ると、料理の味が少しぼやけてしまいますし・・・それにしても、気が利いているというか、つぼをおさえているとういうか、良い仕事してますね・・・結構若いんですよ、ここの店主・・・さっき出てきた女の人が奥さんのようです。」

 「店の外観も内装も、出てくる料理も、運んでくる方も、なんだか気品にあふれていますね・・・さりげないけど、とても吟味されているって感じです・・・」

 「もう大学生ですよね・・・娘さん・・・うちの上の子と一緒だったはずだから・・・」最後の前菜を食べながら、「寧々ちゃん」に確認した。

 「ええ、そう・・・大学生・・・この4月からは2年生です・・・早いですよね・・・7月になると20歳ですもの・・・もう20年も経ったんですね。」

 「そういえば、結婚早かったんですね・・・」

 「ええ、短大を出て2年半会社勤めをして、寿退社・・・その2年後には子供が産まれたんです。同級生の中では結婚も早い方だったかしら・・・まあ、順調な人生だったような気がします・・・病気をしてからはいろいろありましたけど・・・」

 三つの前菜の後には、そば豆腐がでた。これが何ともいえずに素朴で上品な味である。「そば豆腐って初めてかも・・・美味しいですね・・・」「寧々ちゃん」も気に入ったようである。

 店内には四つのテーブルが置いてあった。そのうち3つは埋まっていた。それぞれ2,3人の客が座っていた。みな一様に静かに食していた。言葉少なに、その深い味わいに心奪われているようであった。



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