2012/2/26

2173:けったいな人々  

 昨日までの雨は朝には止んでいた。ORBEA ONIXのサドルにまたがり、サイクルシューズのクリートをビンディングペダルにかちっとはめ込んで、集合場所であるバイクルプラザに向けて走りだしたとき、真冬のような寒さを感じることはなかった。

 「冬はもう終わったのかな・・・」といった思いが自然とわいてきた。まだ2月であるので、実際には終わったわけではないのであるが、春が近いことは感じられた。

 今日の目的地は、梅乃木峠に決まった。距離はあまりなく、往復で90km弱である。峠の登り口までは比較的平坦で、8名での隊列はスムースに進んだ。

 天気は曇りであった。はじめのうちはこの時期としては暖かい方であると感じていたが、青梅市に入ると気温がぐっと下がるのが分かった。「2,3度違うのでは・・・」という気がするほど空気の感じが違う。

 梅乃木峠への上りは4Kmほど、前半に急峻な坂が続き、途中緩やかなところもあるが、またやがて急になるといった負荷の重い上りである。

 急峻な勾配のところはダンシングで、緩やかなところはシッティングで、マイペースで上ってゆく。心拍数が180になるとペースを落とし気味にして、あまり無理せず進んだ。

 それでも、後半は結構ばてた・・・さらに峠の頂上付近では雪がまだ残っていた。わずかに車が通ったわだちにはアスファルトが出現しているが、そのわだちからタイヤがそれてしまうと落車する危険性が高い。

 過酷な上りで体力を消耗しているのでバイクも多少ふらつく・・・「これは危ないな・・・」と思い、雪が残っている区間は、バイクを降りて、押して歩いた。

 雪の区間が終わってバイクにまたがってまた漕ぎだそうとするが、クリートに雪が入りこんでビンディングペダルにうまく食い込まない。かちっとした乾いた音は全くせず、あいまいな感覚で漕ぎだすと、ずるっと外れたりする。

 「くそっ・・・」と呟きながらクリートに着いた雪を落とそうと何度かアスファルトの上で足踏みするようにした。そうして、ようやくまた漕ぎ始める。

 「まったく、もの好きである・・・こんなに苦しい思いをして急な峠の上りをわざわざ自転車で上るんだから・・・実に『けったい』だ・・・」

 「けったい」・・・その言葉が自然に頭に浮かんだ・・・先日、スターバックスで会った時に「寧々ちゃん」が教えてくれた言葉である・・・

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 「だって、ずるいでしょう・・・」

 「寧々ちゃん」は、まじめなのか、多少いたずらっぽい物言いなのか、判別がつかない雰囲気でそう言った。

 「ずるいって・・・誰がですか?」

 いまひとつ、その言葉の真意が呑み込めず、私は訊き返した。

 「主人です・・・何年もあの女性と不倫してたんだから・・・私だって・・・一度くらいは・・・」

 「あっ・・・そういう意味ですか・・・ずるいって・・・」

 「変ですか・・・」

 「いえ、そうですよね・・・確かにずるいですよね・・・ずるいという言葉は関西弁で言うと『いけず』ですか、ちびまる子ちゃんがときどき使う・・・」

 「ちょっと違うような気がしますけど・・・『いけず』は・・・」

 「そうですか、うちの娘が関ジャニエイトの熱心なファンで、我が家では今『えせ関西弁』が飛び交っているんです・・・」

 「じゃあ、『けったい』っていう言葉を娘さんに教えてあげてください。滑稽なとか馬鹿馬鹿しいという意味なんですけど・・・『けったい』っていう言葉、私好きなんです。軽妙でしょう・・・悲しくもおかしい、感じがして・・・」

 「私も、主人も、taoさんも、そしてあの女性も・・・みんな『けったい』ですよね・・・本当に・・・」

 「『けったい』って良い響きですね・・・」私はその言葉の持つ、あまり深く拘泥しないような感じが気に入った。

 「けったいな人々・・・」「けったいな人生・・・」「けったいな関係・・・」意味もなく言葉を立て続けに並べた。

 それを聞きながら「寧々ちゃん」は可笑しそうにほほ笑んだ。その笑顔は確かに魅力的であった。緩やかで、はんなりとしていた。

 「じゃあ、もう一度だけ会いましょう・・・日程はメールで相談しましょう・・・」

 スターバックスを出た時には、遠くの山並みがシルエットになって見えていた。二人は目で挨拶をして、それぞれの車に向かった。気温は少し暖かかった。そして、かすかに艶やかな風が吹いていた。



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