2021/6/25

5594:PA-1  

 ややくすんだ感じに色合いが変わってしまっている白い外壁を持つビルの階段を上がっていき4階にまで達した。

 このビルの1階には時々訪れる喫茶店「Mimizuku」がある。2階には扉に「株式会社 光通商」を書かれた看板が掲げられている。

 3階には何の表示もない。人気も全くないので空いているようである。そして、4階に「オーディオショップ・グレン」が入っている。

 扉の脇にインターホンはない。扉をノックするしか来訪を伝える手段はない。右手の人差し指を鉤状にまげてその背で3回、扉をノックした。

 すると「どうぞ・・・」という聞きなれた声が金属製の扉の向こう側から聞こえた。銀色の小さめのドアノブを回して、中に入った。

 靴を脱いで用意されいたスリッパに履き替えてから、リスニングポイントに置かれている黒い革製の3人掛けソファに座った。

 視線の先にはいつものソナスファベールのエレクタ・アマトールではなく、初めて見る小型の2ウェイスピーカーがあった。

 色は黒。専用のスピーカースタンドと一体となって瀟洒な雰囲気を発散していた。サランネットは外されていた。特徴的なのはウーファーの色合いであった。シルバーであったのである。素材も金属であるようであった。

 「このスピーカー、似たものを見かけたことがあります。でも色合いもユニットの素材も違ってましたけど・・・全体の形がとてもよく似てます・・・」

 私がそう言うと「きっとそれはPawel AcousticsのElektraじゃないかな・・・」と小暮さんは返答した。

 「そうそう、そうです・・・それです・・・」

 「このスピーカーもPawel Acousticsが作っているんだ・・・ただし、EnsembleというスイスのメーカーにOEM提供されている。型番は『PA-1』・・・きっとEnsembleからの要望にも応じながら作られたスピーカーだったはず・・・」

 「そうだったんですか・・・Elektraをお持ちの方はEnsembleのCDプレーヤとプリメインアンプで鳴らされていました。」

 「それはかなりレアなオーディオシステムだな・・・でも相性は当然いいはず・・・品よくまとまっていたでしょう・・・」

 「そうですね・・・確かにとても品位の高い音がしていました。大人のゆとりというか、落ち着きを感じるようなシステムでしたね・・・」

 リスニングポイントから見て右側に設置されている大型のオーディオラックには、常設のオーディオ機器のほかに、見慣れないものが2台置かれていた。

 それらはプリアンプとパワーアンプであった。そして視覚的にきわめて特徴的なものであった。フロントパネルが金色の鏡面仕上げであったのである。さらにノブなどは木製であった。

 「このプリンアンプとパワーアンプ、特徴的な外観ですね・・・金色の色合いが実に良い雰囲気を発していますね・・・」

 「これも同じマニアから譲り受けたものでね・・・スピーカーと同じEnsembleのプリアンプとパワーアンプ・・・プリアンプが『VIRTUOSO』、パワーアンプが『CORIFEO』・・・」

 「これは素晴らしい組み合わせですね・・・プリアンプ、パワーアンプそしてスピーカーが純正組み合わせということですよね・・・」

 「この組み合わせ・・・実はもう売却先が決まっているんだ・・・とても高く売れたよ・・・どれも今となってはかなりレアな存在になっているんでね・・・しかも三つが組み合わさるとプレミア度が一気に上がるからね・・・」

 小暮さんは半分趣味でこのビジネスをしているところもあるが、時折商売人の顔つきを見せるのであった。



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