2021/5/7

5545:逡巡  

 神田神保町のクラシックの中古レコード専門店で、私はしばし思案していた。3枚のレコードが入ったボックスが目の前にあった。

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 ヘンリク・シェリングのヴァイオリン演奏によるバッハの無伴奏ソナタ・パルティータータ全曲のレコードである。

 レーベルはフランスODEON。オリジナル盤である。1955年の録音でモノラルである。バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ・パルティータの不朽の名盤とされている。

 この無伴奏が録音された前年、ルービンシュタインとメキシコで運命的な出会いを果たしたシェリングは、ルービンシュタインの後押しもあり、演奏活動を再開した。

 そのシェリングが、パリに於いて録音した伝説的演奏が収録されている。その音色に備わった高貴な精神性と際立つ演奏技術は多くのクラシック愛好家を惹き付ける魅力に溢れている。

 CDにもなっているし、数多くの再発盤も出ている。それらであれば、きわめてリーズナブルな価格で入手可能である。

 しかし、希少価値の高いオリジナル盤となるとその価格は一気に跳ね上がる。私の目の前にある、その3枚組のボックスセットも税込みで495,000円というプライスタグが付けられていた。

 意味のないことかもしれないが495,000円を3で割ってみた。「1枚当たり165,000円か・・・」と暗算の結果を頭に思い浮かべた。

 私はレコードコレクターではない。「レコード愛好家」といったレベルである。コレクターは所有することに喜びを見出す。

 しかし、私は数多くのレコードを所有することに喜びを見出すことはできない。むしろ「罪悪感」のようなものを感じる。

 極力コレクションは少ない枚数で抑えたいと常日頃から思っているのであるが、それでも数百枚にまで達してしまった。

 そのコレクションの全てがオリジナル盤である。オリジナル盤でないといけないということはないのであるが、比べてしまうと「やはり違う・・・」と感じてしまう。

 どのくらい逡巡していたのであろうか・・・少なくとも30分は立ち尽くしていたであろう。「昨年も今年も夏の家族旅行はコロナ禍のため中止である・・・それで浮いたお金は100万円は下らないはず・・・・でもほぼ50万円というお金を3枚のレコードボックスに使って良いものであろうか・・・コレクションの中で最も高価なものは、ジョルジュ・エネスコ バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ全曲のレコードであるが、それに迫る価格である・・・あの時も随分と迷ったけど・・・」と様々な想念が頭の中を通り過ぎていった。

 「もう少し冷静になってから決めよう・・・再度店を訪れた時に既に売れていたらそれはそれで縁がなかったということにしよう・・・」と、ようやく考えがまとまって、店を後にした。



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