2021/4/24

5532:極点  

 階段で4階まで上り、息を少し整えてから金属製のドアをノックした。「ド、ド、ド、ドン・・・」と「運命」冒頭のリズムになぞらえて、右手の中指の第2関節の角でドアの表面を叩いた。

 ややあってから「どうぞ・・・」という聞きなれた声がドアの向こう側から聞こえた。ドアを開けて中に入り、いつものようにリスニングポイントに置かれた黒い革製の3人掛けソファに座った。

 リスニングポイントから見て正面の壁には、一目でソナスファベールのスピーカーと分かる特徴的な姿形をしたスピーカーが1組セットされていた。

 いつもこの位置に置かれている「エレクタアマトール」は、部屋の片隅にかたずけられていて、白い布が掛けられていた。

 私は小暮さんのメールにあった「ソナスファベールを代表するもう一つのスピーカー」という表現から、新たに入庫したというスピーカーは「ガルネリオマージュ」か「アマティオマージュ」であろうと予測していた。

 しかしながら、その予測は当たらなかった。そこに鎮座していたスピーカーは、一目でソナスファベールのスピーカーであることは分かる意匠をしているが、その製品名は分からなかった。私が見たことのないモデルであったのである。

 それは、エレクタアマトールを2回り以上大きくしたような姿をしていた。2ウェイスピーカーで専用スタンドと一体となっているが、奥行きが相当にあり、エレクタアマトールよりもはるかに強いエネルギー感を漲らせている。可憐なエレクタアマトールに対して、かなりマッチョな印象を受ける風貌である。

 私が「豆鉄砲をくらった鳩」のような表情をしていたのを察したのか、小暮さんは「これ知らない・・・?ソナスファベール エクストリーマ・・・初期のソナスファベールの傑作だよ・・・」と私に告げた。。

 「すみません・・・知りませんでした・・・てっきりガルネリオマージュかアマティオマージュだろうと思っていました・・・」と私は答えた。

 「このスピーカーは背面にパッシブラジエーターを搭載していて、低域レスポンスがかなり高い。エクストリーマという名前はラテン語で『極点』という意味で、このスピーカーにかけられた意気込みが強く感じられるよね。迫力あるでしょう・・・この見た目・・・」と小暮さんは説明してくれた。

 「低域には19cmのコーン型ユニットを、高域には2.8cmのソフトドーム型ユニットを採用していて、背面のパッシブラジエーターは、ターミナル横のノブにより5段階のダンピング調整が可能になっている。」

 「エンクロージャーも当然凝っていて、7枚のブラックサテン・ラッカー仕上げ材を縦方向に組み、これを2枚のウォールナットムク材で両サイドからはさんだサンドイッチ構造になっているんだ。フロントバッフル面に本革を貼っているのは、エレクタアントールと同じ。」

 小暮さんは熱っぽく説明してくれた。その説明を聴きながら「極点」を眺めていた。その外観からは確かに情熱(パッション)というものが、相当量発散されているように感じられた。 



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