2021/1/17

5432:Electa Amator  

 道は空いていたので、思いのほか短時間で中野坂上に到着した。いつも停めるコインパーキングに入って、空いている車室に車を収めた。

 「オーディオショップ・グレン」は古いビルの4階にある。そのビルの1階には時折立ち寄る喫茶店「Mimizuku」がある。

 階段を上がって4階に達した。金属製のドアを3回ノックした。鈍く重い響きが広がった。「どうぞ・・・」という声がその扉の向こう側から聞こえてきた。

 中に入り、入り口から遠い側の壁際に視線をさっと走らせた。そこには専用のスタンドに乗せられた2ウェイの小型スピーカーがあった。

 「こうくるか・・・いや〜想像外だったな・・・」と、思った。視線の先にはFranco Serblinの世界デビュー作であるSonus faberのElecta Amatorがあった。

 「Electa Amatorですか・・・いや〜思いつきませんでしたね・・・」と私は呟きながら、リスニングポイントに置かれた黒い革製の3人掛けソファに座った。

 Electa Amatorは、凛とした佇まいであった。専用スタンドは大理石と木が使われその造形美はイタリアン・ルネッサンスの香りがする。

 本体も重厚で艶やかな木材と黒い革が上手に組み合わされて、工芸品的な美しさを醸しだしている。

 分類としては「ヴィンテージ」にもう入るのであろうか・・・確か1980年代の後半に発売されたスピーカーである。30年以上前の製品であるので、「ヴィンテージ」と評するまでには古くないかもしれないが、決して新しいとは言えない。

 目で見ているだけでも木の薫りが漂ってくるようなスピーカーである。イタリアの伝統的な魅力を前面に押し出したデザインと質感である。

 サランネットは外されていた。フロントバッフルの横幅ぎりぎりまでウーファーのユニットが設置されている。

 ドーム型のツイーターにはスリーポインテッドスターのような形のプロテクターが装着されている。見れば見るほど完璧なバランスによる造形のように見えてくる。

 「素晴らしコンディションの最初期型が手に入ったのでね・・・これを常設にしようと思ってね・・・」小暮さんはテーブルにコーヒーの入ったカップを置きながら言った。

 「設計者であるFranco SerblinがネーミングしたElecta Amatorとは『最上の友人』という意味があるとのころでね・・・これから長く付き合おうかと・・・」

 「いや〜これは良いものですね・・・」私は意味もなく何度かうなずきながらつぶやいた。専用スピーカースタンドのベース部分は大理石になっている。さらにその下に黒い木製と思われるボードが置かれていた。

 「これは初期型で硬質な高級木材ハカランダの無垢材を使い楽器の様な箱鳴りを意識したキャビネットなんだ・・・ハカランダ材はワシントン条約で取引禁止になったので、この素材を使っているのは初期型のみでね・・・それで初期型は人気あるんだ・・・さらに初期型はキャビネットの接合部が組み木の様になっていて手間が掛かっている。」

 どうやら、小暮さんは初期型のElecta Amatorをずっと探されたようである。それがついにかなったので、これは手放さずに、常設にされるようであった。きっとマニアの中には「譲ってくれ・・・」と申し出る人がいるであろうが、その申し出は断るつもりのようである。

2021/1/17

5431:常設スピーカー  

 「常設のスピーカーを入れたんですよ・・・スピーカーは棚卸資産で、すぐさま出て行ってしまうから、決まったものを一つ持っておこうと思いましてね・・・」

 「オーディオショップ・グレン」の小暮さんはそう話した。ショップでは古い時代のイギリスのスピーカーを主に扱っている。

 TANNOY、HARBETH、SPENDORなどのメーカーの30〜60年ほど前の製品が多く、スピーカーは訪れるたびに入れ替わる。

 その「オーディオショップ・グレン」に常設となる、つまり販売不可の扱いとなるスピーカーが店に入ったようである。

 となると随分思い入れがある製品ということになるであろう。「本命はTANNOYかな・・・もしかしたらモニターシルバーが搭載された抜群に良いコンディションのものが英国からもたらされたのか・・・」

 「しかし、そういうものは日本では恐ろしく高い価格で販売できるはず・・・となるとビジネスとしてやっている以上販売されるはず・・・そして利益を確保する・・・ということになるであろう・・・」スマホでショップのオーナーで唯一の従業員でもある小暮さんと会話しながらも、私の頭にばいろいろな想念が巡った。

 現在、スピーカー以外の「オーディオショップ・グレン」の常設機器は、レコードプレーヤーがROKSAN XERXES10、CDプレーヤーがNAGRA CDC、プリアンプがLEAK POINT ONE STEREO、パワーアンプがLEAK TL-10というラインナップである。

 そこに今回常設機器としてスピーカーが組み込まれたら、常設システムが完成する。最近は棚卸資産として入荷してきたスピーカーは結構間髪入れずに出て行ってしまうことが多くなったようで、ショップにスピーカーの在庫がないということが度々あったようである。

 「スピーカーの在庫がないと、やはり困るんでね・・・そこで常設スピーカーを入れることにしたんだ・・・なんだと思う・・・絶対当たらないよ・・・」と小暮さんは話す。

 「ということはTANNOYではないのか・・・まさか現行型のスピーカーとは考えにくいけど・・・もしかしてMAGICOだったりして・・・そんなことになったらさすがに驚くけど・・・」

 なぞかけのような話をしばししていたところ、私はしびれを切らしたようにつぶやいた。「じゃあ、今日これから伺いますよ・・・どうせ緊急事態宣言が出ていて、どこにも行く予定が入っていませんから・・・」

 最近は気温が日替わりで大きく変わる。一昨日は暖かく、昨日は寒かった。そして今日は暖かい。その陽気に誘われるような形で私は車に乗って、中野坂上に出かけた。

 BMW 523i TOURINGに乗って走っていると、車内は暖房が要らなかった。「昨日とは随分と違うな・・・まるで桜の季節ような暖かさだ・・・」と思いながら青梅街道を順調に走っていった。



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