2021/1/9

5423:CP抜群  

 「手段が目的化することを趣味という。」オーディオ評論家の故長岡鉄男氏が残した名言である。オーディオは音楽を聴く「手段」であるが、その「手段」が目的化してしまった人々のことを「オーディオマニア」と言う。

 今日は、現代においては「絶滅危惧種」に属するようになってしまった「オーディオマニア」・・・それも「筋金入り」と評していいであろう「オーディオマニア」のお宅を訪問した。

 2000年に持病のぜんそくが悪化して74歳で亡くなられた長岡鉄男氏の愛弟子でもあったSさんのお宅である。

 Sさんは学生の頃から長岡鉄男氏の「方舟」に頻繁に出入りして、様々なバックロードホーン型スピーカーの製作を手伝ったり、テストのために持ち込まれる数多くのオーディオ機器の搬入を手伝ったりされていたようである。そして「方舟」にあったいくつかの「遺品」は、今Sさんのお宅で大事に保管されている。

 そんな「長岡教」の真摯なる信者であるSさんのメインスピーカーは当然のことながら、フォステクスのフルレンジユニットを使ったバックロードホーン型のスピーカーである。その名称は「モア」。

 長岡鉄男氏設計のバックロードホーン型スピーカーとして最も有名であった「スーパースワン」を二回り以上大型化したようなスピーカーである。

 その怪鳥「モア」がメインシステムの要であるが、Sさんのリスニングルームにはサブシステムも同居している。

 こちらは2種類の小型2ウェイスピーカーがその要となっている。一つはKENWOODのLS-SG7である。1999年の発売で価格はペアで21,000円。

 長岡鉄男氏はこのスピーカーについて「CP抜群、手の込んだ美しい仕上げと優れたユニット、本格アンプで鳴らすと高級SP並みの音になる」と評価し、FMファンのダイナミック大賞のグランプリJrに選ばれた。

 もう一つはセレッション SL-700である。1987年の発売で価格はペアで588,000円であった。15cmコーン型ウーファーと3.5cmドーム型トゥイーターを搭載している。サイズ的にはちょうどいい感じの小型2ウェイスピーカーであり、エンクロージャーには航空機用アルミハニカム材が使用されており、エンクロージャーの共振による弊害を排除している。

 こちらのサブシステムのテーマは「コストを極力かけずにいかに良い音を引き出すか・・・」である。長岡鉄男氏はオーディオ評論において「CP」というキーワードを多用された。「CP抜群」は誉め言葉の常套句でもあった。

 その駆動系の構成は極めて個性的である。CDトランスポートとしてはマランツの古いCDプレーヤーを使われている。フィリップスのスイングアームをメカに使用している時代のものである。DAコンバータはOPPOのSACDプレーヤーのDACを使用されている。プリアンプは真空管式の超小型のもの。パワーアンプも超小型のデジタルアンプである。アンプ類は電源部に弱点があるので、それぞれ別躯体の電源部を別途加えられている。

 このサブシステム・・・外観だけで判断すると「どうなんだろう・・・」といぶかしく思うところがないでもないが、実際に音を聴かせていただくと、「CP抜群・・・!」と心の中で喝采したくなるクオリティである。

 LS-SG7も良かったが、音楽を聴かせるという面においてはSL-700は一回り「大人」であった。古い中古を安価で購入されたSL-700であるが、これは相当に素晴らしいスピーカーである。

 プリアンプに使用されている真空管を富士通テンものから、SYLVANIA、さらには松下のものに変えると、それぞれの真空管の個性にに応じて音の雰囲気がガラッと変わった。さらにはDACの電源ケーブルをG RIDE AUDIO製のものに変えると一気に音の雰囲気がゴージャスになったりと、このサブシステムは与えられた環境に応じて臨機応変な対応を見せてくれる。

 サブシステムにおける飽くなきCP追及の手段は、様々な禁じ手も交えながら、Sさんの好奇心と探求心の赴くままに繰り広げられているようであり、これからも手を変え品を変え、継続されることであろう。

 コーヒーブレークを挟んで、メインシステムを聴かせていただいた。こちらは「モア」をシステムの要に据えて、この「モア」を超弩級のハイエンド駆動系で鳴らされていた。

2021/1/9

5422:ジャズ  

 ピンク・フロイドのデビューアルバムである「夜明けの口笛吹き」のミュージックテープが終わった。

 ピンク・フロイドのアルバムの中でもっとも有名でセールス的にも成功したのは、彼らの8作目のオリジナル・アルバムである「狂気/The Dark Side Of The Moon」であろう。

 光のプリズムをモチーフにデザインされたジャケットがとても印象的であった。そのジャケットのアートワークを担当したのは、ヒプノシス(Hipgnosis)である。

 「狂気」の発表は、1973年である。私はリアルタイムでこのアルバムを聴いたわけではない。中1か中2ぐらいの時であるから、発売から4年ほど後に、プログレッシブロックが大好きであった友人の部屋で聴いた。

 その友人の部屋には、我が家にあった四本足の「アンサンブル・ステレオ」とは違い、レコードプレーヤ、プリメインアンプ、カセットデッキそしてスピーカーがバラバラの躯体に分かれているコンポーネント・オーディオが置かれていた。

 その「コンポーネント・オーディオ」で聴いた「狂気」は衝撃的であった。なかでも「タイム」の冒頭で聴こえてきた数多くの時計の鐘の音にはびくっとしてしまった。

 そんなことを思い出しながら「夜明けの口笛吹き」のミュージックテープをカセットケースに納めた。

 その時背後に人の気配を感じて振り返った。すると奥の2人掛けテーブルに座っていた男性が立ち上がって、すぐ後ろに立っていた。

 そして「箱を見てもいいかな・・・」とぼそっと呟いた。「どうぞ・・・どうぞ・・・」とミュージックテープが入った薄茶色の箱を手に取って、その男性に渡した。

 男性はその箱を手にして、中を覗き込んだ。そして、一つを取り出した。「おかけしましょうか・・・」私は目の前にSONY CF-1700があるので、そう言った。

 「じゃあ・・・頼みます・・・」とその男性はその選んだ1本のミュージックテープを渡してきた。そして薄茶色の箱をカウンターにおいて、自分の席に戻った。

 男性が選んだミュージックテープはジャズのものであった。ミルト・ジャクソンの「Brother Jim」であった。

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 残念ながらジャズのことは全くわからない。しかし、ミルト・ジャクソンという名前はどこかで聞いたことのあるような気がした。

 都会のナイトクラブという雰囲気のジャズが、SONY CF-1700から放たれた。私はしばしの間、その優雅な雰囲気に浸っていた。

 ホットコーヒーも飲み終えたので、「ゆみちゃん」に挨拶をして、会計を済ませた。「Mimizuku」を出ると、外は薄暗くなっていた。コインパーキングまで歩いて行って、車に乗り込んだ。そこで巻き戻されていた時計の針は一気に現代に引き戻されたようであった。



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