2021/1/7

5420:CF-1700  

 「Mimizuku」のカウンター席にはもうずいぶんと長くテレワークが続いている「ゆみちゃん」の姿があった。

 オレンジ色のほのかな灯りが灯る店内では、唯一彼女のノートブックの画面が白く発色していた。

 「こんにちは・・・どうやらテレワークはまだまだ長く続きそうだね・・・」と私は彼女に挨拶をして、カウンター席の端に座った。

 「ええ、そうなりそうですね・・・また緊急事態宣言が出るようですね・・・もうこの生活様式にも慣れてきました・・・もともと社交的な性格というわけではなので、これはこれでいいかもっていう感じですね・・・」と彼女は答えた。

 私はホットコーヒーを頼んだ。一人でこの店を切り盛りしている女主人は静かに準備に取り掛かった。

 カウンター席にはコーヒーの香りが充満している。コーヒーの香りというものは、人の心情を穏やかなものにする効果があるようである。その香りを鼻孔に吸い込むと、なんだかほっとする。

 コーヒーを待つ間、何気にスマホの画面を覗くと、速報が画面に表示された。「東京都の感染者数が1,500人以上になる・・・」といった内容であった。

 それを静かに彼女に告げると、「え〜そうなんですか・・・なんだか東京都を脱出したい気持ちになりますね・・・テレワークだと東京にいなくても仕事できますからね・・・今では会社に行くのは月に1,2度ですから・・・もっと郊外に引っ越そうかな・・・」と応じた。

 「最近、そういう人も増えているようですね・・・コロナが収まってもテレワークは定着する可能性は高いでしょうね・・・会社も通勤手当や、オフィスの賃借料を考えるとコスト削減効果がありますからね・・・」私は静かに話した。

 「Mimizuku」の店内にはもう一人客がいた。一番奥の2人掛けのテーブル席に一人の初老の男性が座っていた。

 その男性はこの店の常連のようであるが、女主人と会話することもなく、新聞を読んでいた。しかし、新聞に書かれている内容にはほとんど関心がなく、視線は表面をなぞるだけで、はるか昔のことを繰り返し思い出しているかのような風情であった。

 大きな通りから一つ隔てられているので、店内はいたって静かである。時折BGMを奏でることのあるSONY製のラジカセは静かに佇んでいるのみであった。

 そのSONY製のラジカセの型番は、CF-1700である。数年前に亡くなったご主人の遺品のようで、これ以外にも2台ほど別のラジカセもあるようである。CF-1700は1973年の発売である。

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