2020/11/15

5369:前髪  

 現行DACでまずは聴いてみた。送り出しは当然ORACLE CD2000である。これは大川さんもお使いのCDトランスポートである。

 ORACLEらしい、アルミとアクリルを使い精妙な造形美を誇っていて、その存在感は唯一無二といった感がある。

 まず聴いたのは、SABINE DEVIELHEのソプラによるラモーのアリア集。短い曲が続くので6曲ほど立て続けに聴いた。

 その後に選択したはベートーベンのヴァイオリン協奏曲から第1楽章である。大川さんは協奏曲好きであるので、その点を考慮しての選択となった。ヴァイオリンはダニエル・ロザコヴィチである。

 「良いDACじゃないですか・・・どちらかというと繊細な感じかな・・・情報量や空間表現といった要素は控えめだけど、癖のない感じで・・・ハイスペックではないけど落ち着いて音楽を聴けるという感じでしょうか・・・まあ、デザインという点からすると、メーカーではありませんからしょうがない面がありますが、『自作』の域を出ないという感じですね・・・そこがtaoさんは不満なんですね・・・」

 「そうなんです・・・このシャーシ・・・自作マニアに一般的に使われているものなんですが、やはり貧相ですねよね・・・まあ、オーディオ機器は目で愛でるものではないという意見もあるでしょうが・・・少し気分が萎えます・・・」

 その後現行DACを一旦ラックから降ろした。そして、それと入れ替わる形でORPHEUS ONE SEが一番左側のYAMAHA GTラックの最上段に設置された。

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 CD2000とONE SEとが左右に並んだ姿を見ていると「お似合いのカップル」という感じであった。「実にしっくりとくるな・・・」素晴らしいデザインの競演に目を細めた。

 「音がたとえ悪くても、こっちのほうが断然良い・・・」と「音よりも見た目・・・」というオーディオマニアらしからぬ思いがふつふつと沸き上がった。

 さきほど聴いたCDを再度聴いた。電源を入れてから時間がそれほど経過していないので当然本調子ではないはずである。「そのへんは割り引いて聴きましょう・・・」と大川さんは呟かれていた。

 聴き始めてすぐさま「こちらは音の骨格がしっかりとしている。安定感があるな・・・」と思った。

 大川さんのリスニングルームでのDAC聴き比べでも感じたが、ONE SEは鮮度感が高く、音のフレームワークが揺るぎがない感じである。

 若干足回りに硬さが残る大川さんのルニー ルーテシアのように、まだこなれ切れていない感は残るが、これは電源を連続投入して一晩あるいは二晩もすれば、良い方向に向かうのは確実と思われた。

 2枚のCDを聴き終えて、大川さんと感想を述べ合った。珈琲を飲みながら談笑していると、「随分と気に入ったようですね・・・もしよろしかったらお譲りしましょうか・・・私が購入した時の価格は25万円でした。同じ価格になりますが・・・」と大川さんが言い放った。

 その言葉は私には「女神の前髪」にしか見えなかった。

 大川さんは「4台あったDACをようやく2台まで減らせたのに、また『病気』が再発してこれを購入してしまいました。とても良いDACで気にいってはいたのですが・・・来月には定年を迎える年齢ですからね・・・本当はオーディオ機器は増やすのではなく減らしていくべきかと、少々反省していたのです・・・」と続けられた。

 その後、しばしの時間談笑とORPHEUSのDACを使ってのCD試聴を続けた。ORPHEUS ONE SEは時間の経過とともにエンジンの回転精度が上がってきた。

 午後6時過ぎになったので、大川さんは新車の香りがするルノー ルーテシアに乗り込まれて帰路に着いた。

 ORPHEUS ONE SEの重さはきっちり10sである。10kg分軽くなったルーテシアは、時折リアランプを赤く点灯させて、颯爽と走り去っていった。



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