2020/5/31

5195:Σ  

 Paoさんは、ピックアップに明らかな不具合が生じていたCD34をオーディオラックの最上段から降ろした。鈴布団のような形状のインシュレーターも一緒にラックから撤去された。

 そしてその代わりにオーディオラックの最上段に位置したのが、YBA CD3 SIGMAであった。アルミ製のボディーは淡い白色で清楚ないでたちである。

 トップローディング方式で、蓋は手で左右方向に開閉する。フロントフェイスには左側に小さなトルグスイッチが三つ並んでいる。

 真ん中にはディスプレイが、そして右側には金色のバッジがあり、そこにはYBAというメーカーのロゴが大きく記され、その下に「Classic 3 Σ」と記されていた。

 Paoさんは「CD3 SIGMA」と言われていたが、正式な製品名は「Classc 3 Σ」なのかもしれない。まあ、どちらでもいい話ではあるが・・・

 少し変わっているのが脚である。前1後ろ2の3点支持で、インシュレーターかと思ってしまうような独自形状の脚が付いている。

 いろんなところが変わっている。そして全体的に見るとバランスが良いような悪いような、不確かで微妙なバランスの上に辛うじて均衡を保っているといった危うさがある。

 Paoさんは左右スライド式の蓋を開けてCDをセットした。そしてスタビライザーを乗せてCDをしっかりと固定した。

 CDは先ほどと同じベルリオーズの幻想交響曲であった。そしてリモコンを操作してやはり第4楽章を選択した。
 
 「断頭台への行進」が厳かに流れ始めた。CD34の時に比べて、サウンドステージがより後方に奥深く展開した。

 音の質感は穏やかで滑らかなもので、ぐんと前に張り出してくるタイプではなかった。2005年の発売とのことであるので、新しい機械ではない。
 
 Paoさんの説明によるとアナログ用とデジタル用にそれぞれ独立した電源トランスを採用しており、発売時の定価は100万円近いものであったとのことである。

 一体型のCDプレーヤーで定価が100万円近いものということは相当な高級機ということになる。情報量もしっかりとあり、その質感は高い。決してピーキーにならない穏やかな耳当りの中高域は魅力的である。

 「なんだかフランスのエスプリを感じるな・・・」理詰めのドイツ車ではなく、ふわっとした猫脚が心地いいルノーやシトロエンといったフランスメーカーの車の乗り味を連想させる音である。

 第4楽章が終わった。「良いじゃないですか・・・フランスの香りを感じますね・・・上質です・・・」

 「ちょっと柔くないかな・・・」とPaoさんは若干ネガティブな評価を下していたが、私個人の感想としてはCD34よりもクラシックに限ってはCD3 SIGMAの方が良いと思われた。

 「しかし、このデザイン、好きな人と嫌いな人とがはっきりと分かれる感じですね・・・私はなんだか分からないけど妙に惹かれるものを感じますね・・・この訳の分からなさ加減が実にフランス的ですね・・・今はやりの言葉で言うと『癖が強い・・!』ということになるのでしょうか・・・これは外観も音もブルーチーズ的な魅力があります。」

 私は思いつくままにそんなことを話した。「オーディオ仲間の方は、このCDを売ってくれるのですか・・・?」と訊くと「気に入ったら20万円でどうだって言われている・・・」とPaoさんは応えた。

 「20万円か・・・決して安くない価格ではあるが、私なら買うだろうな・・・」と心の中で思った。Paoさんはあまり乗り気ではないようではあるが・・・

 その後グレン・グールドのピアノでゴールドベルグ変奏曲や五嶋みどりのヴァイオリンでチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のCDなども、このフランス製のCDプレーヤーを送り出しにして聴かせてもらった。

 「まろやかでコクもある・・・なんだかワインに合うと思わせる音だな・・・」そんなことを思いながら、優雅な日本庭園が魅力の甘泉園公園に隣接した一室で典雅な一時を過ごした。

2020/5/31

5194:CD3 SIGMA  

 Marantz CD34の不具合は、時折音飛びするようになったことと、CDによっては最初から読みこまないものも出てきたということであった。

 「おそらく、ピックアップの不具合で、交換する必要がありそうなんだが・・・」とPaoさんは言葉を漏らしていた。

 Marantz CD34は1985年2月に発売された。その当時はフィリップスの子会社だった日本マランツが投入した「戦略モデル」で、高級機を上回る内容を持ちながら、59,800円という価格で販売されたため大ヒットした。

 当時のCDプレーヤーの中では音質も素晴らしく、今でも「名機」として語られることが多い。そのCD34の内部パーツなどをアンプ製作で有名な工藤氏が徹底的にモディファイしたのが、Paoさんのお宅のCD34である。

 早速聴かせていただいた。曲はベルリーズの幻想交響曲であった。リモコンで選曲されたのは第4楽章であった。

 第4楽章には「断頭台への行進」という少々おどろおどろしい標題が与えられている。アヘンを吸引し意識朦朧となった主人公は夢の中で愛していた彼女を殺して、死刑を宣告される。そして死刑執行の時が来て、断頭台へ引かれていく。その状況を第4楽章は表している。

 断頭台への行列は行進曲にあわせて前進し、その行進曲は暗く荒々しく、そして厳かでもある。迫力がある音楽は途切れることなく順調に進んでいったが、この楽章の後半、盛り上がった瞬間に音飛びが生じた。

 何かが滑ったかのように異音が一瞬出て音楽が途切れ、瞬間移動した。そして、移動後の場所で何事もなかったかのようにまた音楽が流れた。
 
 その瞬間、私とPaoさんは顔を見合わせた。「これか・・・ピックアップの寿命が来ているようだな・・・」と思った。

 さらにその楽章の終盤でも音飛びが発生した。症状は同じであった。ひゅんと滑って転んだが、すぐに立ち上がって何もなったかのようにすたすたと歩いていく感じであった。

 第4楽章が終わった。「これはピックアップの交換で直るんじゃないですか・・・」「まあ、そうなんだけど・・・修理業者はいるからね・・・でも、工藤さんじゃないとレベルが落ちるような気がしてね・・・」とPaoさんの表情は暗めであった。

 「それはそうと、そこに置いてあるCDプレーヤーはもしかしたら次なる候補ですか・・・?」と私はこの部屋に入った時から気になっていた疑問をPaoさんにぶつけてみた。

 「ああ、これね・・・オーディオ仲間の一人から借りているんだ・・・メーカーはYBA・・・知ってる・・・?」

 「YBA・・・?いえ知らないです・・・」

 「YBAはフランスのオーディオメーカーでね・・・一般的な知名度はとても低い・・・でも日本にも正式に輸入されているんだ・・・輸入代理店がアポロインターナショナルというところで・・・これは少し古い機種、製品名はCD3 SIGMA。」

 「フランスのメーカですか・・・そう言われるとフランス製らしいデザインですね・・・正直よくわかないというか・・・センスが良いのか悪いのか・・・でもなんだか気になる存在ですね・・・トップローディングであることは良いですね・・・CD34はピックアップ交換が必要なようですし、こちらを聴いてみたいですね・・・」

 と私が続けると「今日はCD34とこのCD3 SIGMAをじっくり聴き比べをしようと思っていたんだけど。CD34の調子がかなり悪そうだから、もうYBAに換えてみるか・・・電源は丸二日ほどONにしたままだから、もう本調子なはず・・・」とPaoさんは応えた。

2020/5/29

5193:愛国製茶  

 都電荒川線に沿って続く新目白通りを走ってから脇道にそれて、コインパーキングに車を停めた。「愛国製茶」という名前の会社のビルの傍であった。

 少し歩いた。天気は良かった。陽の当たっているところでは少し暑さを感じたが、日陰では爽やかな空気に包まれた。

 車を降りてから新目白通りに戻って少し歩くと甘泉園公園がある。新宿区立の公園で回遊式庭園である。

 「甘泉園」の名は、ここから湧く泉の水がお茶に適していたところからきたとのことである。江戸時代には大名屋敷が建っていたようで、池を抱く日本庭園は周辺とは別世界の静けさを演出している。

 Paoさんのお宅はこの甘泉園公園に面している。親から相続した建物はかなりの年代物である。右隣りは古い分譲マンション。左隣は小さな教育関連の出版社の社屋となっている。

 古い呼鈴を鳴らした。引き戸式の玄関のすりガラスの向こう側に人影が表れて、がらっとその玄関が開いた。1年ぶりに顔を見るPaoさんであった。

 Paoさんは63歳。60歳で公務員を定年退職して2年間は嘱託職員として働いたが、今は毎日が日曜日である。

 一人息子がまだ幼かった頃離婚し、数年前に同居していた母も亡くなったので、この古い家に一人暮らしである。

 「どうも、どうも・・・」と挨拶をして中に上がった。Paoさんのリスニングルームは2階にある。階段を上ってその部屋に入った。

 部屋の広さは8畳ほどである。和室であったところを洋間に直した部屋には窓が二つある。西に面した窓からは甘泉園公園の緑を望むことができる。

 新目白通りから1本入ったところにあるので、とても静かである。稀に都電荒川線の電車が通る音がかすかに聞こえた。

 Paoさんのシステムは1年前と変わりなかった。システムの要となるスピーカーはYAMAHA NS-5000である。見るからに「MADE IN JAPAN」を思わせる30cm3ウェイスピーカーは専用のスタンドの上に置かれていて、滑らかな黒い塗装が輝いていた。本格的なオーディオ製品から遠ざかっていたYAMAHAが数年前に出した高級スピーカーである。

 NS-5000を駆動するアンプは「オールド・レビンソン」と評される初期の頃のMARK LEVINSONである。プリアンプはNo.26LでパワーアンプはNo.27.5Lである。こちらもブラックフェイス。

 そして送り出しはMarantz CD34。1985年に発売されたCDプレーヤーでコンパクトな形状をしている。決して高級機というわけではないが、中古市場でも人気がある。

 このCD34は、アンプ製作などで有名な工藤氏が数度にわたる改良を加わえている。「中身はほとんど別物・・・改良に要した費用は全部で100万円を超えている・・・」とPaoさんは以前話されていた。

 そのCD34は薄茶色の鈴布団のような形状のインシュレーターの上に置かれている。あまりかっこいいとは言えないインシュレーターであるが、これも工藤氏の手によるものとのことである。

 しかし、このCD34、最近挙動がおかしくなりつつあるようであった。「工藤さんが体調を壊されていて、修理を受け付けてくれない・・・そうなると新たな候補を探さないといけないようだ・・・」と先日のPaoさんからのメールには記されていた。

 そのメールの内容を裏付けるかのように、リスニングポイントに置かれたアームチェアの右脇には1台の見慣れないCDプレーヤーが床に置かれていた。

 「どこのメーカーだ・・・見慣れないものだな・・・」とちらちらと気になるその物体に視線を送っていたが、メーカーを特定できなかった。

 「Paoさんが新たな候補としてピックアップしたCDプレーヤーであろうか・・・」そんなことを思いながら、お茶を入れてきてくれたPaoさんとしばし世間話をした。

 美味しい緑茶であった。「もしかしたらすぐ近くに本社社屋がある愛国製茶のお茶であろうか・・・」と思いながら、澄んだ色合いの緑茶を楽しんだ。

2020/5/28

5192:添加剤  

 Paoさんのお宅には年に1回ほどお伺いする。新宿区と豊島区の境目に近い位置にお住まいであり、我が家からは車で1時間と少しの移動時間が必要となる。

 今日は湿度が低い。そのためからっとした爽やかな空気感で、長袖のシャツで上着を着ていない状態でちょうど良いといった過ごしやすさであった。

 道は比較的空いていた。今日の午前中ガソリンスタンでガソリンタンクを満タンにした際に、ガソリン添加剤を一緒にタンクに入れた。

 商品名は「POWER CLUSTER(パワークラスター) PROTECT FUEL PRO For Gasoline」である。ここのメーカーは以前エンジンオイルを交換した際に「RACING」という商品名の高級オイルを採用して好印象を持った。

 そこで、ガソリン添加剤も使ってみようと思ったのである。「プロテクトフューエルPROは燃費の改善、排気ガスの清浄化、バルブ・燃焼室周りの洗浄、パワー・トルクアップ等さまざまな効果が体感できます。」と購入したサイトには広告文が掲載されていた。

 使い方はとても簡単、ガソリン満タン時にガソリンタンクに入れるだけである。1回に50mlを使う。満タン注油時2回に1回ぐらいの頻度で入れて使い切る。100mlのものを2本購入したので、4回の投入で使い切ることになる。

 するとバルブや燃焼室にこびり付いていたカーボンなどの汚れを洗浄する効果があるようである。そういった汚れが取れると、エンジンの回転がスムースになり燃費も向上するとのことである。

 そのガソリン添加剤を入れて、走り出してみると、「確かにアクセルレスポンスが向上したような・・・」と体感された。

 赤信号で一旦止まって、信号が青に変わって発進する時、「結構気持ち良いな・・・」と思わず思ってしまった。

 「BMW523iに搭載されている2.OL直4エンジンが直列6気筒エンジンになったかのような感覚・・・」とまで評するとオーバーかもしれないが、なんだかより高級なエンジンに換装されたかのような錯覚をひと時感じた。

 「これは使い続けてみよう・・・」と思えた。ガソリン添加剤は非常に多種な商品がある。何種類か試してみたことはあるが、「まあ、こんなものかな・・・それほど変わったという気がしないけど・・・」といった印象のものがほとんどであったが、これは「効果が確かにある・・・」と思えるものであった。

 新青梅街道を延々と走っていき。やがて道は新目白通りに入った。ここまで来るとPaoさんのお宅は近い。

 緊急事態宣言が解除されたからといって、人々の動きが一気に開放されたわけではない。普段よりも道は少し空き気味であったので、快適なドライブであった。窓は少しだけ開けていた。車内の空気はすっと流れていた。

2020/5/27

5191:カーリング  

 Alpe du Zwiftを上り終えた。事前に、上り終えたら頂上付近のアーチの傍で止まって、皆が上り終えたところで、下りは一団となって走りましょう・・・ということになっていた。

 Zwiftでのバーチャルライドで実走と一番異なるところはブレーキが効かないということであろうか・・・

 実走ではブレーキレバーを握りしめたらロードバイクは当然止まる。しかし、Zwiftではいくらブレーキレバーを力強く握りしめても、スマホの画面上のアバターは止まらない。

 クランクを回すのを止めるとしばし惰性で走っていき、出力が10ワット以下になったくらいでアバターは止まり、左足のクリートをペダルから「カチャッ・・・」と音をさせて外して地面に片足を着く。

 止まる場所を指定された場合、その前からクランクを止めて停止させるのであるが、その距離感が難しい。

 メンバーが集まっているところを止まらずに通過してしまったり、随分と手前で止まってしまって再度そろそろと走り始めたりと皆その調整に手間取っていた。

 私はメンバーが集合している場所の随分と手前で2度3度と停止しながら徐々にその間合いを詰めていって、集合場所にどうにか止まれた。「なんだか、カーリングをしているような心境だな・・・」と思った。

 集合場所を通過してしまったメンバーはUターン機能を使って戻ったりしながら、ようやく一つの画面内にチームメンバー全員が納まった。

 そして下り始めた。下りはほとんど漕がなくてもどんどんスピードが上がっていく。スマホの画面にはスピードも表示される。実走では怖くて絶対に出せないようなスピードもバーチャルでの下りあれば出せる。

 時速70kmで下りのカーブを曲がるなど実走では絶対にありえないこともZwiftでは可能であった。クランクを全く回さないと画面上のアバターはいつしかクランチングスタイルに変わっていた。これも実走では私には怖くてできない態勢であった。

 長い下りでの高速走行を終えた。下り終えた地点で、今日のバーチャルチームライドは終了した。「お疲れさま・・・」と挨拶をして、かなりハードな内容であった4回目のバーチャルチームライドを終えた。

 スマートトレーナーに固定されているLOOK 785 HUEZ RSの下にはスマートトレーナーに付属していた消音用のマットが敷かれている。そのマットの上には流した汗が水たまりのようになっていた。そして、スマホに表示された消費カロリーも1,000キロカロリーを超えていた。

2020/5/26

5190:つづら折り  

 「STAY HOME!」が声高に叫ばれるようになってZwiftは参加人数がおそらく劇的に増えたはずである。

 テレワークの影響か、毎日のようにZwiftでどこかしらのコースを走ったりレースなどのイベントに参加しているチームメンバーも増えた。

 私はというと仕事は従前どおりであるので、週に3回ジムで行っていたトレーニングをZwiftでのトレーニングに切り替えて行っている。

 Zwiftには様々なコースをフリーに走ったり、レースなどのイベントに参加する以外にトレーニングメニューがあり、私はそのトレーニングメニューの中から一つを選択してトレーニングする。

 スマートトレーナーを活用すると、トレーニングメニューで指定された出力がほぼぴったりと出る。さぼってケイデンスを下げると負荷が上がるし、逆にケイデンスを上げると負荷が下がる。その調整具合は絶妙である。

 最近人気が高まっているZwiftのコースでチーム内で話題となっていたのが「Alpe du Zwift」と呼ばれる山岳コースである。

 今日のバーチャルチームライドのコースにはその「Alpe du Zwift」が含まれている。斜度の厳しいつづら折りの坂道が延々と続く「Alpe du Zwift」はトライする者に苦難をもたらす。

 「Alpe du Zwift」の数多くのカーブには数字が振られている。カーブは全部で21個ある。最初のカーブには「21」。その後つづら折りをこなしていくとその数字は小さくなっていく。

 そのカーブに振られた数字がそれほど減らないうちに45分間の「まとめる」機能はタイムアップとなった。この先、頂上まではフリー走行ゾーンとなる。

 頂上まではまだまだ数多くのつづら折りをこなさないといけない。1時間ほどの時間ひどく重くなったクランクを回し続ける必要がある。

 「200ワットから220ワットぐらいで走ろう・・・それくらいの負荷なら最後まで維持できるはず・・・」と思いながら、厳しいヒルクライムコースに臨んだ。

 私のFTP(1時間出力できるパワー)は215ワットほどである。そのくらいの平均パワーで走りたいと思っていた。

 しかし、トレーニングメニューのように自動的に出力を調整してくれるわけではない。斜度が厳しくなればギアを軽くして、斜度が緩くなればギアを重くしなけらばならない。

 それが結構忙しい。スマートトレーナーは「ちょっとオーバーなんじゃない・・・」と思わず思ってしまうほどに斜度に敏感に負荷が反応する。

 一定の負荷でクランクを回し続ければ脚にかかる負担も和らぐが、ぐっと重くなったり、ふ〜と軽くなったりと想像以上に変化がある。「厳しくても斜度が一定であってくれれば・・・」と思わず思ってしまった。

 フリー走行ゾーンになったので、チームメンバーはその出力の高低に応じてばらけていった。私はなるべく出力を一定に保とうと苦心しながら、「Alpe du Zwift」のつづら折りをこなしていった。

 しかし、カーブの数字はすぐには小さくはならない。汗を顎から滴り落としながら一つまた一つと走り過ぎていくと、ようやくその数字が一桁台になった。

 脚の消耗度合いが激しくなってきた。200ワットの出力を維持するのがやっとといった状態で終盤へ向かった。

 ついに最後のカーブを曲がった。「1」という数字が「救世主」のように光り輝いて見えた。最後の踏ん張りで見晴らしが良くなった頂上付近を走り抜けた。ようやくゴールである。心底ほっとした。

2020/5/25

5189:Alpe du Zwift  

 スタート直後はメンバーの状況を確認しながらゆっくりと走った。初回のバーチャルチームライドの時はスタートできないメンバーがいて2度の仕切り直しが行われた。

 今回もインターネットの通信状況が悪くスタートできなかったり、スマートトレーナーのパワーがZwiftに送信されなかったりといったトラブルがあった。

 しばし、ゆっくりと走りながら状況が改善するか確認した。どうにかトラブルは短時間で終息したようである。

 ゆっくりと走りながらメンバーが全員揃うのを待った。そして、全員が無事に揃ったことを確認してからペースを通常のものに戻して走った。前半の45分間はZwiftのミートアップにおける「まとめる」の設定が機能している。

 ミートアップをカスタマイズする際に、「まとめる」機能について「なし」を選択すると、一緒にミートアップは行うが参加メンバーの出力の差によっては離れ離れになってしまう。

 「まとめる」を選ぶと、参加メンバーの出力の強弱に関わらず、一緒にライドする事が可能となる。そのため、安心感をもって走行できる。

 その「まとめる」が機能している前半の45分は150〜170ワットの出力で走り続けた。それほどハードなペースではないが、時間の経過とともに汗が流れ始める。

 持久系のスポーツを続けていると、明らかに汗をかく量が増えてくる。体が効率よく冷却できるように変わってきたからであろう。

 今回も扇風機を活用している。風量は「強」になっている。それでも汗を抑えることはできない。時折タオルで顔などを拭きながらクランクを回していくと、やがて今日のコースの最大の特徴であるAlpe du Zwiftの入り口に達した。

 ツール・ド・フランスでも有名なラルプ・デュエズ(L'Alpe-d'Huez)が元になっているようである。

 Alpe Du Zwiftのコースはいろは坂のようなつづら折りの連続になっている。画面の右側にはつづら折りの様子と自分の走行地点が表示される。

 つづら折りのヘアピンカーブは全部で21個あり、そのカーブごとに番号が記載された看板が設置されていた。

 その看板に記載された数字が徐々に減っていくとこと心の支えにしながら、上っていくことになる。

 Alpe du Zwiftの入り口を通過しても、まだ「まとめる」機能は作用していたが、それが機能する残り時間は少なくなっていった。

 コースの斜度を表す数字はスマホの小さな画面でも確認できる。すぐに10%を超える数字が目に入ってきた。スマートトレーナーの負荷はその斜度に応じてぐっと重くなった。

2020/5/24

5188:4回目  

 Zwift上でのバーチャルチームライドも4回目を迎えた。1回目と2回目は60分間という時間での括りであった。

 前回はコースを設定して、そのコースを走った。今回もコースが設定されていた。前回と違うのは「まとめる」設定が前半の45分のみで、それ以降のコースはフリー走行区間となることである。

 今回のコースは「WATOPIA」のヒルクライムコース「Alpe du ZWIFT」を走る予定である 1,000mを超える本格的な上りになる。

 スマートトレーナーは斜度に応じて負荷が重くなる。斜度が10%を超えるとその負荷の重さは脚をじわじわを蝕む。長い距離の上りが続くことになるので脚への負担は相当重くなりそうであった。

 1回目はZOOMなしでの参加。2回目はZOOMに接続できたが、こちらの映像や音声は送れない状態での参加。そして前回は映像は遅れたが、音声が送れない状態での参加であった。

 4回目の今回は、マイク付きイヤホンという新兵器を持ち込んでの参加となった。スタート時間は8時30分である。10分前になったので急いでセッティングを始めた。

 スマホを、普段はGARMIN製のサイコンが設置されるマウントに取り付けた。そしてZwiftを立ち上げた。

 ロードバイクの傍らに設置しているパソコンを立ち上げて、リーダーから送られてきたメールに添付されていたZOOMのアドレスをクリックしてZOOMを立ち上げた。

 ZOOMは起動して、しばしの待ち時間の後接続された。すでに3名メンバーが接続済みであった。「おはようございます・・・」と挨拶を交わした。どうやらマイク付きイヤホンはその機能を無事に果たしてくれているようであった。

 私のパソコンはすでに5年ほどの年月が経過している。そろそろ買換え時期を迎えているが、外付けの小型カメラを購入し、さらにマイク付きイヤホンを利用することにより、ようやくZOOMにも本格参入できる状態となった。

 スタート時間が近くなるにしたがって参加メンバーは増えていき、9名のメンバーが揃った。スタートまでの雑談の中で話題になったのが、緊急事態宣言解除後のチームライドのことであった。

 解除後2週間は様子を見て、大丈夫そうならチームライドを再開しようということになった。それまではZwift上でのバーチャルチームライドで日曜日の午前中を過ごすことになる。

 スタート時間のカウントダウンが始まった。Zwiftに繋がっているスマホからはカウントダウンの音がリズミカルに響いた。

2020/5/23

5187:モノリス  

 「DACU-500をデジタル機器の出力端子に接続したり、デジタルケーブルを2本使用してその間にDACU-500を設置したりすることは推奨出来ません。」

 と取扱説明書にははっきりと書かれていた。つまり、DACU-500はDAコンバーターの入力端子に接続して使うのが原則で、CDトランスポートの出力端子に接続すべきではないというのがメーカー側の主張である。

 「メーカーがそう言うのであるから、きっと効果のほどに差が出るのであろう・・・」と思いつつも、試してみたくなった。

 そこで、市野式のDAコンバーターのデジタル入力端子に接続されているDACU-500を取り外した。そしてそのDACU-500をORACLE CD2000のデジタル出力端子に移動させた。

 その状態で、先ほどまで聴いてきたCDをもう一度聴いた。すると『推奨できません』とはっきりと書かれていた理由が分かった。

 先ほどまではかなり薄くなっていた「デジタルの壁」が「2001年宇宙の旅」に出てきたモノリスのように、リスニングルームの空間に忽然と出現していた。

 真っ黒な色合いのその石板はこちらの知性を品定めするように、なんの動きも音も発することなく静かに佇んでいた。

 動物の骨を地面から拾い上げる代わりに、私は真っ黒な色合いのORACLE CD2000のリモコンを手に取った。そしてSTOPボタンを押した。

 ボーマン船長にによってモジュールを次々引き抜かれていき、その機能を停止させたHAL9000のように、CD2000はその動きを止めた。

 そして、DACU-500を元の位置に戻した。その作業をしている間、「DACU-500を2個使って、CDトランスポートの出力端子とDAコンバーターの入力端子の両方に使ったらどうなるんだろうと・・・」と性懲りもなく考えた。

 大川さんの話によると、DAコンバーターのアナログ出力端子に使う同様な製品も新たに開発されて販売されているとのことである。

 「しかし、アナログ変換された後の音楽信号であるから、その効果のほどはどうなんだろう・・・」と思いつつも「近いうちに試してみたいものだ・・・」と思った。

2020/5/22

5186:音楽的改善  

 モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調(K.622)の冒頭が流れ始めた。クラリネット協奏曲はモーツァルトが最後に作曲した協奏曲であり、クラリネットのための唯一の協奏曲である。

 モーツァルトの最晩年、その短い生涯における最後の作品となった「レクイエム」はK.626であるので、K.622の番号が付けられているクラリネット協奏曲は、モーツァルトの死が差し迫りつつあった時期の作品ということになる。

 もしかしたら、モーツァルトはこのクラリネット協奏曲を作曲しているときには既に体調を崩していたのかもしれない。

 曲調からは、そういった暗い局面は窺うことはできないが、明るい曲調でありながら、その裏側には、小林秀雄がモーツァルトの弦楽五重奏曲の第4番ト短調を評して「哀しみが疾走する」と表したような、寂寥感が潜んでいるように感じられ、そのことが曲を趣深いものにしている。

 オーケストラの演奏の後、クラリネットの典雅な響きが颯爽と加わる。クラリネットの音色は音域に応じて大きく変わる。

 そのことにより、表現に幅と奥行きを持たせることができる。モーツァルトがこの曲を作曲した時点ではまだ新しい楽器であったクラリネットのこの特性をモーツァルトはよく捉えている。

 最低域近くの音域を上手く活用して、煌びやかな高音域との対照効果を巧みに使い、聴くものの耳を楽しませてくれる。

 さて、その音の質感であるが、DACU-500を装着した効果は、我が家でもすぐに確認できた。まず感じられるのは、空気感が柔らかいということである。それゆえか、デジタル特有のそっけない感じが減退する。

 DACU-500の取扱説明書には「DAコンバーターのデジタル入力端子に差し込むだけでドラマチックな音楽表現力が生まれます。クラシック、ジャズなどの音楽ジャンルを超えての改善、音の鮮度、音の力、リズム、スイング、アンサンブル、デジタルオーディオがどうしてもアナログオーディオにかなわなかった部分の音楽的改善に驚かれるのは間違いないでしょう。」と書かれている。

 メーカーが書いた取扱説明書であるので、多少の思い入れがあるにしても、確かに「音楽的改善」と呼びたくなるような効果があった。

 第1楽章のみを聴こうと思っていたが、結局すべての楽章を聴き終えた。「音楽的改善か・・・確かにそういった感じを受けるな・・・」と思った。

 我が家のヴィンテージオーディオはもともとデジタルソースとの親和性が低い。そういったCDなど影も形もない時代に設計・製造されたヴィンテージオーディオ機器が主要なポジションを占める我が家のシステムでもDACU-500は確かな効果を見せてくれた。

 続いて、もう一つ確認したいことがあったので、次なる検証をしてみようと思った。一旦、DACU-500を取り外して次なる検証を行うことにした。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ