2020/4/7

5141:帰路  

 少々追い込んでしまったヒルクライムで一時的に下がった免疫力も、時坂峠から望める美しい風景を目にすると、一気に挽回したような気がした。この快感度合いは、病みつきになる性質のものなのかもしれない。

 しばしの時間、一人っきりで過ごした。ここでは時の流れがおそろしくゆっくりと流れているような気がした。

 いつまでもそうしているわけにもいかないので、時坂峠の美しい景色に別れを告げて、下り始めた。

 時坂峠はどちらかというとマイナーな峠であるが、下りきるまでに反対方向から上ってくるローディー2名とすれ違った。二人とも単独走であった。

 すれ違いざま、会釈をした。軽く合わせた視線には「こんな時期でも・・・走りたくなるものですよね・・・」という無言のメッセージが、込められているように感じた。

 時坂峠を下り切って檜原街道に出た。帰路は下り基調である。一定のスピードを維持しながら順調に走っていった。

 檜原街道を走っていて、一つ気になる店を発見した。それは、檜原村の名産品を販売している「山の店」の道を挟んで斜め向かい側にある小さなパン屋であった。

 檜原街道沿いに、ひっそりと佇んでいる感のあるお店で、名前は「森の風」。「もりのかぜ」と読むのかと思ったが、よく見ると「風」という文字の右上に小さな「○」が付いている。それで無理くりではあるが「もりのぷう」と読ませるようである。

 どうも気になったので停車して立ち寄った。狭い店内には素朴な感じのパンが並んでいた。アンドーナッツとクルミパンを購入した。

 店の外にはベンチが置かれているのでそこで賞味した。素材の持ち味を大切に作られていることが分かる実に心和ませてくれる味わいであった。
 
 補給食でエネルギーをチャージして、帰路を急いだ。檜原街道を順調に走り終えて、睦橋通りに入った。

 南風は時折強くなったが、ロードバイクの走行に不具合を生じさせるような性質のものではなかった。

 睦橋通りでも一箇所、立ち寄ったところがあった。それは「熊野神社」である。睦橋通りに面している小さな神社である。

 その境内に入り、派手さはないがどことなく趣のある佇まいの本殿にお参りした。ささやかな祈りを形式にのっとってした後、鳥居の近くにある桜を愛でた。
 
 広くそれなりに交通量のある睦橋通りに面してはいるが、境内は静かで神社らしい静謐な空気に満たされていた。風にそよぐ桜はまだ見頃を留めていた。

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 睦橋通りを走り切り、一旦国道16号を少しの間だけ走り、玉川上水に沿って続く道に向かった。

 有名な小説家である太宰治は玉川上水に入水して自殺した。1948年6月のことである。70年以上前のことである。

 今見るとそれほどの水の深さはないが、その当時はもっと水量が多かったのであろう。帰路では水の流れと同じ向きに向かって走った。

 「現在の暗く重苦しい空気も、時間が流れていくとともに徐々に解消されていくのであろう・・・しかし、そのためにはもうしばらくの時間の経過が必要なようだな・・・」そんなことを思いながら、帰路の最後の行程を走っていった。 



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