2020/3/14

5116:ディスクリート  

 discrete(ディスクリート)とは「分離した、個別的な、別々の、不連続の」という意味合いの単語である。

 そのディスクリートという単語は、オーディオの世界ではトランジスタ、コンデンサ、ダイオードなどの「単体素子」を指す。

 オーディオマニアの間での会話に時折登場する「ディスクリート回路」とは、IC(集積回路)、LSI(高密度集積回路)などの半導体素子を一括して作成した集積回路ではなく、トランジスタ、コンデンサ、ダイオード、などの単体素子で組み立てられた回路のことを指すようである。

クリックすると元のサイズで表示します

 チューバホーンさんのお宅のオーディオシステムはパワーアンプが数ケ月前にFirstwatt F6に変わった。そしてそれに引き続き、今年の1月になってDACが新たなものに切り替わった。

 その新たなDACを聴くために、ここ数日とは打って変わって冷たい雨となった天気のなか、チューバホーンさんのリスニングルームを訪れた。

 従来チューバホーンさんが使われていたDACは、O-DAC PROであった。Oさんが製作されたもので、DACチップには、カナダESS社のES9018が使われていた。

 0-DAC PROには、DACチップに同じくESS社のES9038を使用したmk2もある。そのO-DAC PRO mk2は昨年末まで我が家のリスニングルームで数年間活躍していた。そのDACは今Shuksさんのお宅で第二の人生を送っている。

 チューバホーンさんが、新たに導入されたのは、O-DAC PROの最新モデルであるO-DAC PRO mk3である。

 その外観は大きくは変わっていない。O-DAC PROとの違いはやや高さ方向に大きくなったことと、PCMとDSDとを切り替るのためのつまみがなくなり、セレクターのみになったことぐらいである。

 そのmk3の大きな特徴は、ESS社のDACチップではなく、ディスクリート回路を使用している点である。そのためDSDかPCMがどちらかにしか対応できず、二者択一となる。チューバホーンさんはクラシックがメインジャンルであるのでDSD仕様を選択された。

 しかし、このディスクリート回路・・・製作される方にはかなりの負担を強いるようで、片チャンネル分のディスクリート回路を完成するのに6時間ほどかかるとのこと。2チャンネル分だと12時間の集中した作業が必要になる。

クリックすると元のサイズで表示します

 そのようにして製作されたディスクート回路を積み込んだO-DAC PRO mk3は、CECのCDトランスポート、Marantz Model7、Firstwatt F6と組み合わさって、新たにシステムを構成することになった。

 早速、リスニングポイントに座って新たなDACを送り出しの要としたシステムを聴かせてもらった。最初にCEC製のCDトランスポートにセットされたのは、ベートーベンの「クロイツェルソナタ」であった。

 ヴァイオリンはダヴィッド・オイストラフ。その音の第一印象は、「穏やかで誇張感のない自然な感触・・・」というものであった。

 高精度なDACチップではなく、じっくりと時間をかけて作製されたディスクリート回路ゆえか、緊張感のある繊細さというよりも、もっとゆったりと自然なゆとり感といったものを感じさせてくれる音調である。

 車のエンジンに例えるならば、小排気量エンジンに高能率ターボを加えた最新型のエンジンというよりも、一世代前の十二分な排気量を持ったNAエンジンといった趣である。

 その後も数枚のクラシックのCDを聴かせてもらった。もっとも印象に残ったのは、クラウディオ・アラウのピアノによるベートーベンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」であった。

 この曲はベートーベンの5つのピアノ協奏曲のなかでも最も有名で最も人気があり、もっとも壮麗な曲である。

 共演はコリン・デイヴィス指揮 シュターツカペッレ ドレスデン。1984年の録音である。アラウの晩年の演奏となる。

 晩年を迎えた優れた芸術家の明鏡止水の境地に達したような演奏が素晴らしい。表面上の華麗さに走らないしみじみとした味わい深さがある。

 ディスクリート回路によるDACは、そういった味わい深さを上手くすくい上げてくれているようであった。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ