2019/6/28

4856:YBA  

 喫茶店「Mimizuku」を出て、同じビルの4階に向かった。5階建てのこのビルにはエレベーターがない。90度折り返す階段をひたすら上っていった。

 2階には「光通商」と書かれた看板が玄関にかかっている。何かしら怪し気なものでも扱っていそうな会社である。

 3階は空いているようで、なんの表札もかかっていない。ようやく4階に到着した。ドアをノックした。金属製の扉が鈍い音を立てた。

 「どうぞ・・・」と扉の向こう側から声がした。扉を開けて、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えた。

 リスニングポイントに置かれた3人掛けのソファに腰かけると、そこから見える景色がいつもとも随分と違った。

 視線のまっすぐ先にはTANNOYのヴィンテージスピーカーではなく、スリムなトールボーイタイプのスピーカーが端正な姿で起立していた。

 そのスピーカーはとても変わっていた。ユニットの配置が上からウファー、スコーカー、ツイーターという順で縦に並んでいる。普通のスピーカーの配置とは逆である。

 先ほどまで「ゆみちゃん」と話していた、SPENDOR SP1/2とは全く異なった外観である。この逆配列・・・どのようなメリットがあるのであろうか。

 「変わったスピーカーですね・・・ユニットの配置もちょっと見慣れないと違和感がありますね・・・」

 「これは、ディナウディオのコンフィデンス5・・・サランネットを付けると普通の外観だけど取ると逆配列が斬新だよね・・・」

 「これどうしたんですか・・・お店ではあまり扱わない種類のスピーカーですよね・・・」

 「そうそう、普段は扱わないね・・・ちょっと知り合いに頼まれてね・・・70代半ばの方でね・・・そろそろ『終活』しようということで・・・サブシステム一式をうちで買い取ったんだ。」

 「ということは、このラックに並んでいるYBAも一式、そのサブシステムだったものですか・・・?」

 私は、リスニングポイントから見て右手に置かれている大型のラックに並んでいるYBAのオーディオ機器を示しながら訊いた。

 「そうそう・・・このディナウディオを鳴らしていたのが、このYBAなんだよね・・・」

 「ディナウディオにYBAか・・・相当マニアックですね・・・」

 「まあ、これをサブシステムで使っているんだから、相当マニアックだよね・・・」

 「このYBAも、独特の癖のあるデザインですね・・・」

 「CDプレーヤーは、CD3 SIGMA。これトップローディングなんだよね。ここの蓋を開けてCDをセットする。操作はこの小さなトルグスイッチで行えるんだけど、いかにもフランス的な訳の分からなさがいいよね・・・」

 「プリとパワーは、YBA 2 DELTA。こちらも同じ意匠でまとまられている。金色の大きめのエンブレムが結構目立つよね・・・」

 小暮さんは「オーディオショップ・グレン」でみかけることのない珍しいオーディオ機器について簡単に説明してくれた。

 ディナウディオはデンマークのスピーカーメーカーである。優秀なユニットを自社製造できるメーカーで、空間表現が得意な製品が多い。

 コンフィデンス 5はスピーカーの下部に台座が付いていて、そのまま床に設置することができる。正面から見るとかなり細身である。

 YBAのオーディオ機器は、フランス製らしいかなり癖のあるデザインをしている。その癖は、ぱっと見にはその良さは分かりづらいところがあるが、一旦好きになると抜け出せないような独特の中毒性がある。癖の強いチーズのような感じであろうか。

 70代のオーディオマニアの「終活」の一環としてここに持ち込まれたようである。小暮さんはこれらすべてをヤフオクで処分する予定とのことであった。

 小暮さんはにこにこしながら「YBA、意外と高く売れるんだよね・・・。多分買い取った価格の倍では売れるね・・・」と小声で話していた。 



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