2018/10/30

4613:一楽  

 朝陽門に着くと、彼女の姿は既にあった。挨拶して、「では行きますか・・・ここから数分です・・・」と目的の店に向かった。

 朝陽門を後にして中華街大通りへ向かった。その通りの真ん中あたりにあるのが、「一楽」である。それほど大きな店ではない。

 その外観は特別な高級感があるわけではなく、敷居の高さを感じることはない。それは中に入っても同様である。

 幾つか並んでいる4人掛けのテーブルの一つに二人は座った。彼女は椅子に座って、店内に一通り視線を這わせた。

 「とても、普通な感じですね・・・」

 「そうでしょう・・・全然気取ってないんですよ・・・どちらかというと庶民的な雰囲気ですよね・・・」

 私はメニューを開いて、どの料理をチョイスしようかと思案しながら、そう答えた。

 「値段も庶民的なんです・・・でも、料理の味はかなりレベルが高いですよ・・・あっ、そうだ・・・何を飲みますか・・・?」

 「もちろん・・・ビールです・・・」と彼女はきっぱりと答えた。彼女はビール好きである。量も私よりも飲める。

 瓶ビールを2本頼んだ。さしさわりのない会話をしていると、すぐにビールが来た。その際料理も頼んだ。

 「炭火焼チャーシュー」「揚げナスの香港風スパイス炒め」「エビの巻き揚げ」「神奈川地野菜のクリーム煮込み」「特製四川麻婆豆腐」

 私は、素早く、この店に来たならば頼むべきと個人的に確信している幾つかのメニュを店員に伝えた。

 瓶ビールをお互いのコップに注ぎ合って、乾杯した。瓶ビールはキリンのラガービールであった。その苦み走った味わいは、どことなく気持ちをほっとさせるものである。

 「良い娘さんですね・・・目的に向かって頑張っていて・・・感心しました。うちの娘と大違いだなって思いましたよ・・・」

 私は先日「遺産分割協議書」に署名・押印をもらう際に、出会った彼女の一人娘の話をした。彼女は吉祥寺にある有名パティシエの店で修業していた。そして、将来は自分の店を持ちたいと語っていた。

 「どうなるか分かりませんけどね・・・将来自分たちの店を持ちたいといっても、上手くいくとは限りませんし・・・洋菓子業界は結構厳しい世界で、開店しても上手くいかない場合も多いようですし・・・」

 「それは、そうでしょうね・・・かなりレベルの高いものを出さないと、埋もれてしまうでしょうね・・・」

 そんな、話を続けていると「炭火焼チャーシュー」がテーブルに運ばれてきた。これはこの店の人気商品でお土産として買って帰る方も多い。

 国産の豚肉を特製の漬けダレで一晩漬けこみ、炭火で焼いた香り高いチャーシューは、とても良い色合いである。

 小皿に取り分けて彼女に渡した。それを口にした彼女は満面の笑顔となった。「確かな味わいですね・・・」

 私も一切れ口へ入れた。その味わいをしっかりと咀嚼してから、キリン ラガービールを口に含んだ。



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