2018/10/5

4588:豆腐  

 「絹と木綿ですか・・・なんだか、豆腐の味比べのようですね・・・」グールドさんは、私が二つのケーブルの被膜の素材について話した後、そう言って笑った。

 「確かに、そうですね・・・絹ごし豆腐と木綿豆腐のようなのかもしれません・・・音の感触もそれに近いところがあるような気がするのです・・・」

 グールドさんはもう一つの方のRCAケーブルの接続を終えて、取り外したRCAケーブルをMITのケーブの横に並べた。

 そして、再度モーツァルトの幻想曲 ハ短調を聴いた。KRELLのCD-DSPは、1991年の発売なので、既に27年前のモデルである。

 その間、3度ほどのメンテナンスを受けられていて、現状はその経過した年数を感じさせないスムースな動作をしている。

 二人は最初の低音の打鍵を静かに待った。曲は厳かな雰囲気で始まる。そして曲調が変わり緩やかな小川の流れを思わせる展開部の後、また厳粛な雰囲気に戻っていく。

 先程よりもピアニストの左手がしっかりと認識できるような気がした。帯域バランスは低域寄りに戻り、ピラミッドバランスである。

 「高域の抜けきり感は減退した。『絹』の時より、さらにMITの時よりも腰の低さを感じさせる。どっしりとしているな・・・このピアノ曲の場合、最適かどうかは少し疑問ではあるが、大編成のオーケストラなどは向いているのかもしれない・・・」私は心の中でそう思った。

 聴き終えて、グールドさんは「まさに、木綿豆腐ですね・・・冷奴よりも鍋物で活きるという感じですかね・・・」と評されていた。

 「冷奴よりも鍋物か・・・確かにピアノソロよりもオーケストラで活きるケーブルなのかもしれない・・・」と思った。

 「これって、先ほどの『絹』とこの『木綿』を組み合わせると面白いような気がしますね・・・」とグールドさんは続けた。

 「そうですね・・・我が家ではCDとプリに間は『絹』を、プリとパワーの間は『木綿』を使っています・・・」と私が言うと、「じゃあ、同じ配置で聴いてみましょう・・・」とグールドさんは応じ、ケーブルの取り換え作業に取り掛かった。

 上流は「絹」で下流は「木綿」という構成となった。リスニングルームの床にはMIT MI-330が2セット揃えて並べれていた。その長さはすべて1メートルでプラグは初期型の簡易なものである。

 そして、また再びモーツァルトの幻想曲ハ短調が流れた。その最初の打鍵を耳にした瞬間、私はWilson Audio CUBのバーチカルツイン構成になっているユニットを改めて見つめ直した。

 「これは・・・」と息を潜めるような空気感がリスニングルームにさっと広がり、二人の聴覚が一段と鋭い感覚領域に入り込んだのを感じた。

 釣り人が瞬間的な確信を持って、さっと釣り竿を引き上げるような感じであろうか・・・「かかった・・・!」釣り針、釣り糸、そしてカーボン製の釣り竿を伝って右手に感じる重みを二人の耳は鋭く感知したのかもしれない。

 その後、マーラーの交響曲第4番第1楽章、そしてラフマニノフのピアノ協奏曲第2番第1楽章も聴き直した。

 「この組み合わせだと、それぞれの長所が活きる感じですね・・・ちょっと驚きました。小暮さんもよくこんな古いものを見つけてきましたね・・・MITに戻すのが少し怖いですね・・・」とグールドさんはおっしゃられた。

 「MITはバランスが良く抜けもまずまず、一言で言うとウェルバランスです。でもこの『絹』と『木綿』の組み合わせは、バランスを崩さずにより生々しい実在感を上げてくれる感じがしました・・・」私はそう総括した。

 「確かにそうですね・・・それぞれだけで使うと長所・短所あってという感じでしたが、組み合わせて使うと、補い合っていい感じになりますね・・・」グールドさんは、既に冷え切ったミルクティーを飲み干してから、そう言った。

 その右手に持たれていたティーカップには、蝶とも花とも取れるような模様と円が一筋のラインに繋がれて描かれていた。

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