2018/10/4

4587:二つのケーブル  

 「では、モーツァルトの幻想曲ハ短調で、このドイツ製のケーブルを試してみましょうか・・・?」とグールドさんは言った。

 「そうですね・・・CDプレーヤーとプリアンプの間のケーブルを交換してみますか・・・それ以外は固定したほうが分かりやすいですからね・・・」私はそう答えた。

 「二つあるのなら、最後にCDとプリの間と、プリとパワーの間、両方に使ってみましょう・・・また違う世界が見えてくるでしょうから・・・」そう言いながら、腰を上げたグールドさんは、CDプレーヤーとプリアンプの電源を一旦切った。

 「どちらからにしましょうか・・・」私は2セットあるRCAケーブルを手にしながら、見比べた。一つはしっかりとした被膜の仕様のもので、素材は絹が使われている。

 もう一つはやや緩めの被膜の仕様のもので素材は木綿が使われている。中の電線は同じもののようである。

 つまり中身が同じで外側だけが違うのであるが、そこを通ってきた音は変わる。理論的なことは分からないが、その被膜を手で触った感触と出てくる音の感じは似ている。

 絹でしっかりとした被膜が形成されたケーブルはしっかりとした音がして、木綿で緩やかな被膜が形成されたケーブルはふんわりとした音がする。

 まずは絹の被膜のケーブルをグールドさんに手渡した。MITのRCAケーブルは取り外されて、床に置かれた。

 そのケーブルはMIT MI-330である。MITの最初期の時代のケーブルである。独特の肌色に似た色合いのケーブルで、細く華奢なケーブルである。

 絹製の被膜の古いドイツ製のケーブルに換えて、幻想曲ハ短調の印象はどう変わったか・・・「なんだか生々しくなったような・・・」というのが、その第一印象であった。

 聴き進むうちに、マイクのセッティングがよりピアノに肉薄したような感覚に捕らわれた。しかし、じっくりと聴くと、もう少し緩い面があった方が全体を俯瞰しやすいのかもしれないとも思える。

 MITは抜けきり感は今一つであるが、全体のバランスは自然で破綻しない良さがある。短期集中型の聴き方では、このケーブルの方が能力が高いといえるが、長い時間音楽鑑賞をするうえでは、短所も見受けられる。

 グールドさんは「すっと抜けますね・・・ピアノの弦の振動がより体感できる感があります。帯域バランス的には少し高域寄りにシフトするためか、低域の量感が少し不足する感じもあります・・・」と評された。

 グールドさんの印象も、私とほぼ同じようなので安心した。「そうですね・・・私も同じ印象を受けました・・・」そう話しながら、もう一つのRCAケーブルをグールドさんに手渡した。

 「随分手に持った感じが違いますね・・・」グールドさんはそう言いながら、CDプレーヤーとプリアンプの間のRCAケーブルをもう一度交換した。



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