2018/6/15

4476:引取り  

 「随分と広くなりましたね・・・」

 私は、オーディオ機器がすっかりと取り払われたリビングルームを見渡して、つぶやいた。

 トールボーイタイプのスピーカーが両サイドに置かれ、そのセンター位置に設置されていたラックには、レコードプレーヤ-とプリンプとパワーアンプが綺麗に縦に並んでいた。

 オーディオセットの設置方法としてはオーソドックスに纏められていたが、その占有していた空間が思っていたよりも広いものであったことは、その存在が亡くなった今では、はっきりと分かった。

 それらのオーディオ機器は、小暮さんが借りてきたトヨタ ハイエースの広大な荷室に綺麗に収まり、彼女のリビングルームはその本来の役割に徹する空間に戻った。

 オーディオ機器はスピーカーも含めてすべて元箱が保管されていたので、小暮さんと私で慎重に元箱に納められて搬出された。

 巨大なものや、恐ろしく重いものは含まれていなかったので、思っていたよりも作業は順調に進んだ。

 2階の「レコード部屋」に収納されていたレコードは一足先にすべて引き取られていったので、亡くなった彼女の夫が、大切にしてきた「宝物」達はすべて、この家からなくなったことになる。

 レコードはディスクユニオンが2週間ほど前に引き取っていった。後日送られてきた明細表によるとその総枚数は13,425枚であった。そして買取価格は4,363,125円であった。1枚当たりの平均価格は325円ということになる。

 さらにオーディオ機器一式の買い取り価格は、4社の買い取り業者から出されたうちでもっとも高い査定額であった850,000円で、小暮さんが引き取ることになった。

 小暮さんはこれらをすべてヤフオクで捌く予定である。おそらくその利益は70万円から90万円ぐらいにはなるであろう。

 Oracle DELPHI5、OCTAVE HP-300SE、OCTAVE RE280 MK2、そしてRaidoh Acousitcs AYRA C-2・・・これらのオーディオ機器は、すべて状態も良く、根強い人気もあるはずなので、ある程度以上の値段では落札されることが予想されていた。

 レコードとオーディオ機器を処分して500万円を超えた。彼女はその金額に少々驚いているかのようであった。

 「こんなになるんですね・・・予想外でした・・・」

 彼女は、そう言った。

 「実はこれも相続財産になるんです・・・つまり相続税の対象になるんです・・・」

 「そうでしょうね・・・この金額ですから・・・」

 「きっと申告しない人も結構いるでしょうが・・・振り込まれた金額が通帳に記録されていますので、正直に申告したほうが良いでしょう・・・」

 「もちろん、そうしてください・・・」

 「分割協議書や、相続税の申告書は今月中にできますので、改めて連絡してお邪魔します・・・それはそうと、まだ乗っているんですね・・・Mito・・・」

 私は彼女の表情の変化を窺いながら、気になっていることを訊いてみた。

 「ええ、でももう買い替えます・・・たくさんのお金も入ったことですし・・・」

 彼女は、からっとした表情でそう言った。

 「で・・・次は何にしますか・・・?」

 「Giuliettaにしようかと・・・」

 「ああ、良いですね・・・あのイタリア感は半端ないですからね・・・色は・・・?」

 「やはり、白でしょうか・・・清楚な白・・・」

 彼女の唇はその両端がかすかに上に上がった。そしてその瞳の色合いには、清楚な白というイメージとは相容れないかすかな光が広がった。



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