2018/4/28

4428:主役  

 大川さんのリスニングルームに置かれた三段ラックの中段に新たに設置されていたのは、THETA DS PRO BASICである。

 DS PRO BASICが発売されたのは1990年であるので、28年前の製品である。マルチビットDSP方式DAコンバーターで、発売された当時は立体感のある歯切れの良い音質で好評を得た高級DAコンバーターである。

 その躯体は1Uサイズの薄型で、とてもシンプルな造形である。センターにはトルグスイッチが二つと赤いシグナルランプが二つあるだけという潔さ。清教徒的に抑制された造形美を誇っている。

 「良いデザインですね・・・COPLANDのアンプの造形とも通じるような美しさです・・・」私はそう言うと、大川さんは相好を崩した。

 「まあ、ほとんど見た目の美しさだけ欲しくなったDAコンバーターです。このトルグスイッチが良い味出していますよね・・・見た目のシンプルさは重要です。これでセレクターその他のスイッチが複数個並んでいたりすると一気にデザインが死んでしまいます。」

 「オーディオショップでの購入ですか・・・?」

 「いえ、オークションです・・・結構手ごろな価格で出ていたんで、思わず落札しました。前から聴いてみたいとは思っていたんです。」

 CDトランスポートはKRELL MD-10が接続されていた。「KRELLとの相性が良かったので・・・」と大川さんは話されていた。

 KRELL MD-10とTHETA DS PRO BAISCの組み合わせとは実に渋い。MD-10の発売は1993年であるので、このペアはほぼ同世代である。

 この組み合わせで何枚かのクラシックのCDを聴かせていただいた。スピーカーはGershman Acousticsの Grande Avant Gardeである。私はこのスピーカーメーカーのことはまったく知らなかった。

 「このメーカーも相当昔には正規に輸入されていたんです。パイオニアインターナショナルというパイオニアの子会社が輸入代理店になっていました。もちろんとっくの昔にそんな会社はなくなってしまいましたがね・・・」

 「そうなんですか・・・全然知りませんでした。でも、このスピーカーは独特の形をしていますね・・・なんだかちょっと妖精的というか、呪術的な造形を感じますね・・・」

 「そうですね・・・一旦目にすると脳裏に焼き付いて離れない・・・そんな独特の形状をしていますよね・・・」

 最初にかかった曲はラベルの「左手のためのピアノ協奏曲」であった。これは第一次世界大戦で右手を失ったピアニストのためにラベルが書き上げたピアノ協奏曲である。

 重厚な響きが心地よく、ラベルらしい華麗なオーケストレーションも聴きどころである。Grande Avant Gardeはピアノと相性の良いスピーカーのような気がする。ピアノの華麗な響きを混濁させることなく放出する。

 KREL MD-10とTHETA DS PRO BASICの組み合わせは、大川さんが相性が良いと評されるのが分かる。どちらも音の傾向は暖色系でどっしりとしている。その相乗効果からか、左手一本で奏でるピアノの中低域に濃厚な厚みがある。

 華やかなオーケストレーションを支える低音楽器の抜けも良いバランスに思えた。「確かに相性が良いようですね・・・この両者・・・」私は、この曲が終わった時そうつぶやいた。

 「KRELL純正組み合わせももちろん良いけれど、このペアも結構良い・・・」大川さんはにんまりとしていた。

 続いてかかったのは、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番である。これはプロコフィエフの協奏曲のなかでもっとも人気のある曲である。

 構成が実に緻密で、プロコフィエフらしい目まぐるしいまでのリズムに乗って、ピアノが疾走する様が爽快である。

 この曲も現状のシステム構成で不満なく聴き終えることができた。「これをORACLE CD2000とZanden Model 5000の組み合わせで聴いたらどんな感じに変わるのだろうか・・・?」という興味は、オーディオマニア的には自然と湧いてくるものであるが、それを言葉にすることはなかった。

 「聴き比べ」は楽しくもあるが、ややもすると音楽から遠ざかる要因ともなる。今日の主役はTHETA DS PRO BASICであるから、その演奏を堪能すればいいのである。

 「それにしても、このDAコンバーター・・・良い顔しているな・・・」そんなことを思いながら、続いてかかったピアノ独奏によるムソルグスキーの「展覧会の絵」に聴き入った。 



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