2018/4/7

4407:COPAL  

 私が、目玉焼きが上に乗せられたナポリタンを食べ終わる頃、二人の話題はまたレコードに戻っていた。

 彼女は月に2枚ほどの中古レコードを買うようである。「最近洋楽のレコードを結構買うようになったんです・・・」

 彼女はそう話した。主に彼女が熱心に応援しているインディーズバンドの「ねこ」のメンバーがSNSなどで取り上げたレコードを買っているようである。

 「『ねこ』のボーカルの人が最近のお気に入りとして紹介していたのが、テレビジョンというバンドのファーストアルバムでした。タイトルは『マーキー・ムーン』。これを中古レコード店で見つけて買ったんです。これに今嵌まっていて・・・」

 「テレビジョンか・・・随分と古いバンドだね・・・確か1970年代だよね・・・」

 「ファーストアルバムが1977年です。」

 彼女の発した「1977年」という言葉に反応して、私は頭の中で、「1977年ということは私が14歳の頃か・・・中学2年生・・・随分と昔のことだ・・・」と思った。

 彼女はそのアルバムのことを話し続けていた。カウンター席の右端に置いてある「COPAL」というブランド名が印刷されているパタパタ時計が、何かしら薄いものをきしませる音をかすかにさせて、その表示を変えた。

 その音につられて視線をそちらへ向けた。表示は「8:15」になっていた。瞬間的に「まだ、そんなに時間がたっているはずはない・・・」と思った。「そうか、ここの時計は合っていることはないんだった・・・」と思い直し、その時計を眺めた。
 
 周囲はオレンジ色をしている。全体的に滑らかな曲線を活かした良いデザインをしている。1970年代の製品であろうか・・・もしかしたらさらにその前の1960年代の製品かもしれない。そのデザインは慎ましく穏やかで上質である。

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 長い年月の間に、正確に時を刻むという時計が本来持ち合わせるべき能力は失われてしまったようであるが、ここ「Mimizuku」においては、そんなことはさして重要ではない。正確ではなくても、時を刻み続けることが大切なのであろう。

 この店の中に入ると時間の感覚がおかしくなる。店内は1970年代を思わせる雰囲気である。きっと開店当初からほとんど内装なども変わっていないはずである。

 椅子やテーブル、壁に掛けられている絵やランプ、カウンター席に置かれているSONY製のラジカセやCOPALのパタパタ時計など、きっと当初のままであるはず。

 そして、きっとメニューも変わっていないのであろう。メニュは茶色の皮の表紙が付いている。手に持ってみると少し重い。

 以前、女主人にこの店はいつからあるのか尋ねたことがあった。確か1977年と答えたはずである。

 このCOPALの時計は、1977年からの様々な事柄の推移を刻み続けてきたのであろう・・・そして、その様々な事柄の多さが、正確であった時計の歯車の進行を狂わせ始めているのかもしれない。

 そのCOPALの時計を眺めていると、昨年の夏15歳で亡くなった愛犬メリーの晩年の目を思い出した。その眼球は真ん中が白っぽくなっていて、視力が相当落ちていたはずである。しかし、何かを、目の前にない何かを見ている風であった。



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