2018/2/20

4361:ファイテン  

 中野坂上にある喫茶店「Mimizuku」は、随分と古い店である。当初は夫婦で始めたようであるが、現在は数年前に夫を亡くした女主人が一人で切り盛りしている。

 私は、その「Mimizuku」の古びた扉を開けた。扉に取り付けられている鈴がカラカラと鳴った。「いらっしゃい・・・」と女主人はくぐもった声を出した。

 カウンター席には先客がいた。「こんばんわ・・・・」「ひさしぶり・・・」とその先客に挨拶して、カウンターに座った。

 「ゆみちゃん」は、もうすでにナポリタンを食べ終えていた。そして、いつものアイスコーヒーではなく、ホットコーヒーを飲んでいた。

 コートを脱いで座ってすぐに「疲れてます・・・?」と彼女に訊かれた。「えっ・・・表情やつれている・・・?」と私は逆に訊き返した。

 「そうですね・・・表情もそうですが、オーラが暗くなってます・・・」

 彼女の言葉に「あっ・・・オーラね・・・色合いが暗い・・・」と独り言のように吐き出した。

 本当なのかどうか検証する術は持ち合わせていないが、彼女には人の背後に広がるオーラが見えることがあるという。特にこの「Mimizuku」のうように薄暗いオレンジ色が広がる空間では見えやすいそうである。

 「生命力が落ちてますね・・・」

 「そうかもしれない・・・脳がオーバーヒートしてしまって・・・首の筋肉ががちがち・・・」

 「首ですか・・・それ私も悩んでいたんです・・・良いものがありますよ・・・」

 「なになに・・・」
 
 「ファイテンのネックレスです・・・あの羽生選手も使っているんです・・・」

 「そうなの・・・効く・・・?」

 「個人差があるかもしれませんが、私には効果がありました・・・首のがちがちが和らぎました・・・」

 「それ試してみようかな・・・高い・・・?」

 「1万円しないくらいだったかな・・・今もしてますよ。見てみます・・・?」

 彼女は首からそのネックレスを外した。それほど長いものではなく、真ん中に丸いものが付いている。

 そこが磁石になっているのか、私は渡されたものを手に取って、試しに自分の首につけてみた。

 即効性があるものではないので、すぐに首のがちがちが解消することはないが、ずっとつけていれば効果があるのかもしれない。

 「ありがとう・・・」と言ってそれを彼女に返した。彼女はすぐさまそれを自分の首に戻した。彼女の首は改めて見てみると随分と細かった。

 すぐさまスマホを取り出して「ファイテン ネックレス」と検索してみた。随分と商品ラインナップがあった。

 高いものは1万円を超えるもののあり、安いものもあった。彼女がしていたものと同じく丸く小さな球体が付いているネックレスを注文した。

 「同じものを頼んだよ・・・」

 「そうですか・・・もう一回、これをしてもらっていいですか・・・」彼女はそう言って、再度そのネックレスを外して私に渡した。

 不思議に思ったが、言われるままにそれを手にしてマグネットでくっついている箇所を一旦両手で離してから首に取り付けた。重さはほとんどなく装着感は軽かった。

 彼女は私の背後にピントを合わせるような視線を向けた。1分ほど経過したであろうか、「効果、あるみたいですよ・・・ファイテン・・・」とさらりと言った。

 「オーラの色合いが変わった・・・?」

 「少し、良くなりました・・・」

 私は笑顔になって、ネックレスを再度彼女に返した。彼女の「見立て」によると、このネックレスは私にも効果があるようである。

 Amazonで頼んだので、明日には自宅に届くであろう。そうこうしているうちに頼んだナポリタンができた。

 カウンターの上には湯気を上げるナポリタンがカウンターの上に置かれた。そして、その脇にはホットコーヒーが添えられた。オレンジ色と黒の色合いがバランスよく並んだ。



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