2018/2/10

4351:残雪  

 まずは、グールドさんが最近よく聴くCDを2枚聴かせていただいた。最初の1枚は神西敦子のピアノによるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」から数曲聴いた。

 日本人の演奏家で初めて「ゴルトベルク変奏曲」をレコーディングして世に出したのは神西敦子である。その録音は1970年4月の27日と28日に行なわれた。

 そのレコードは日本コロムビアよりリリースされて、今は幻の名盤となっている。その音源をリマスタリングして出されたのがこのCDである。

 神西敦子の演奏は、ピアノの一音一音を実に丁寧で正確に弾いている。「ゴルトベルク変奏曲」はグレン・グールドや ロザリン・トゥーレックなど名演が多いが、この演奏もそれに伍することができるものである。

 CDケースに入っているライナーノーツには「作品と向き合う誠実な佇まいに魅了される。変奏は克明かつ芯のある打鍵で始まり、ドイツ音楽に欠かせない低音の土台の上にしっかりしたリズムを刻む。繰り返しを省き、無駄口もたたかず、颯爽としたテンポ。弱音でも「像」はくっきり美しく、玉を転がすようなタッチであっても各声部のラインは明瞭に保たれ、聴く者への語りかけを一瞬たりとも疎かにしない。」と書かれていた。

 まさにそのとおりの演奏である。グールドさんも「良い演奏ですよね・・・グレン・グールドの演奏と比較しても決して色褪せるこはありません・・・」と話されていた。

 続いてかかったのが、ブルックナーの交響曲第7番から第1楽章。演奏はクルト・ザンデルリンク指揮シュトゥットガルト放送交響楽団。レーベルはヘンスラー。

 これはライブ録音で、ブルックナーらしいゆったりとしたテンポでスケールが雄大である。「ブルックナーを聴いている・・・」という感じがじんわりと全身を包み込んでくれるような演奏である。
 
 Wilson AudioのCUBは、これらの演奏を見事にこの部屋の中に響かせてくれる。2枚のCDを聴いて、時間は1時間ほど経過した。

 「では、試してみますか・・・」

 「そうですね・・・試しましょう・・・」

 ということになり、布製の手提げバックから風呂敷に包まれた「超結界」を取り出した。風呂敷から取り出して、リスニングルームの床に置いた。

 置いたのは部屋のちょうど真ん中あたり。「置くだけなんです・・・これで音が変わったら、ちょっと驚きですよね・・・」と私は言った。

 もう一度、ブルックナーの交響曲第7番の第1楽章がかかった。二人はじっくりと音の検証を進めた。

 「違いますよね・・・錯覚ではなく・・・どう思われます・・・?」

 とグールドさんは私に振った。

 「変わったように感じます。錯覚ではなく・・・」

 「なんでしょうね・・・狐につままれたような感じですね・・・」

 理屈はまったく不明だが、脳の聴覚中枢における変化の具合については、どうやら二人とも認識したようであった。

 音の質感は上がったように感じられた。音の嗜好性は人それぞれである。その変化が良いか悪いかは、人によって感じ方が違う。

 グールドさんは「これも、先日大川さんのところで体験した『額縁』同様、良い効果があるようです・・・認めたくない気持ちのほうが大きいですが・・・」と話された。

 交響曲第7番第1楽章が終わった。もう少しだけ時間があったので、CDを神西敦子のゴルドベルク変奏曲に戻して、冒頭の2曲を聴いた。

 彼女が弾くスタンウェイのピアノの響きがより煌びやかになったように感じられた。グールドさんは腕組みをされて、首をやや右斜めに傾げていた。そして「ピアノの響きが違う・・・」と呟いた。

 グールドさんにとってこのCDは、最近最もよく聴くCDのようで、その音の質感の変化具合はすぐに分かったようである。

 「taoさんは大川さんのところで体験された『額縁』が市販されたら購入しますか・・・?」帰り際にグールドさんは尋ねた。

 「ええ、おそらく・・・」と答えて、グ−ルドさんのお宅を後にした。日はすっかりと西に傾ききっていて、気温が下がっていた。道の端々には氷の塊と化した残雪がわずかばかり残っていた。



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