2017/8/10
4168:CF-2580
「Mimizuku」のナポリタンは美味しい。そのレシピを完成させたのは、数年前に亡くなった女主人の夫であった。
かなり研究熱心な人であったようで、一度、そのレシピノートを見せたもらったことがあった。古ぼけた大学ノートには、几帳面な字体で様々なことがかき込まれていて、幾つものカットアンドトライが繰り返された過程が記録されていた。
女主人はそのレシピを忠実に守っている。普段の動作はのんびりとしているが、ナポリタンを調理する段になると、彼女の二つの手は実に手際よく動く。
ナポリタンとアイスコーヒーがカウンタに並んだ。ナポリタンからは湯気が真っ直ぐに上がっている。
彼女の夫が遺したものは、レシピノートだけではなかった。このカウンターに置かれているSONY製のラジカセと、数多くのミュージックテープも彼の遺品である。
「Mimizuku」では有線放送はかかっていない。唯一この1970年代に製造されたラジカセのみが音楽を店内に提供する道具である。

型番はCF-2580。1970年代の半ばに製造販売されていた。この時代のSONY製のラジカセは実に良い顔立ちをしている。緊張感を持ったきりりとした表情である。
二度ほど修理を経ているが、いまだなお現役で活躍している。そのCF-2580に投入されるべきミュージックテープは、数多くのコレクションのうちの一部が、小物入れのボックスに入れられてカウンターに置かれている。
私はそのボックスを覗き込んだ。10数本のミュージックテープの中にクラフトワークの「マンマシーン」のテープがあった。
「珍しいな・・・これ・・・」と目についたそのミュージックテープをボックスの中から取り出した。
小さな長方形のケースからカセットテープを開放して、SONY CF-2580の中に移動させた。そしてカチッとした触感を保っているPLAYボタンを右手の人差し指で押し込んだ。
ミュージックテープは、長かった眠りから覚めて、4.76cm/sのスピードで回転を始めた。そして音楽が含まれている部分に達して、無機的なクラフトワークの世界が流れ始めた。
音が大きくなり過ぎないようにボリュームダイヤルを微調整した。その音楽を背景にして、ナポリタンを食した。
SONY CF-2580、クラフトワーク「マンマシーン」、そしてナポリタン・・・それらが三位一体となって、空間と時間をわずかばかり歪めているかのようであった。
時刻は徐々に7時に近づいていった。ナポリンタンを食べ終え、クラフトワークのミュージックテープのA面がやがて終わろうとする頃、「Mimizuku」の扉が開いた。扉が開かれたことを示す鈴は、店内に乾いた響きを解き放った。
かなり研究熱心な人であったようで、一度、そのレシピノートを見せたもらったことがあった。古ぼけた大学ノートには、几帳面な字体で様々なことがかき込まれていて、幾つものカットアンドトライが繰り返された過程が記録されていた。
女主人はそのレシピを忠実に守っている。普段の動作はのんびりとしているが、ナポリタンを調理する段になると、彼女の二つの手は実に手際よく動く。
ナポリタンとアイスコーヒーがカウンタに並んだ。ナポリタンからは湯気が真っ直ぐに上がっている。
彼女の夫が遺したものは、レシピノートだけではなかった。このカウンターに置かれているSONY製のラジカセと、数多くのミュージックテープも彼の遺品である。
「Mimizuku」では有線放送はかかっていない。唯一この1970年代に製造されたラジカセのみが音楽を店内に提供する道具である。

型番はCF-2580。1970年代の半ばに製造販売されていた。この時代のSONY製のラジカセは実に良い顔立ちをしている。緊張感を持ったきりりとした表情である。
二度ほど修理を経ているが、いまだなお現役で活躍している。そのCF-2580に投入されるべきミュージックテープは、数多くのコレクションのうちの一部が、小物入れのボックスに入れられてカウンターに置かれている。
私はそのボックスを覗き込んだ。10数本のミュージックテープの中にクラフトワークの「マンマシーン」のテープがあった。
「珍しいな・・・これ・・・」と目についたそのミュージックテープをボックスの中から取り出した。
小さな長方形のケースからカセットテープを開放して、SONY CF-2580の中に移動させた。そしてカチッとした触感を保っているPLAYボタンを右手の人差し指で押し込んだ。
ミュージックテープは、長かった眠りから覚めて、4.76cm/sのスピードで回転を始めた。そして音楽が含まれている部分に達して、無機的なクラフトワークの世界が流れ始めた。
音が大きくなり過ぎないようにボリュームダイヤルを微調整した。その音楽を背景にして、ナポリタンを食した。
SONY CF-2580、クラフトワーク「マンマシーン」、そしてナポリタン・・・それらが三位一体となって、空間と時間をわずかばかり歪めているかのようであった。
時刻は徐々に7時に近づいていった。ナポリンタンを食べ終え、クラフトワークのミュージックテープのA面がやがて終わろうとする頃、「Mimizuku」の扉が開いた。扉が開かれたことを示す鈴は、店内に乾いた響きを解き放った。