2016/9/30

3853:E38  

 営業マンが在庫確認のためにテーブル席から離れた。「どうする、どれがいいかな・・・?」私は呟くように言って、VW PASSAT、Audi A4、Audi A6の見積書も取り出して、BMW 523iの見積書と一緒にテーブルに並べた。4枚の見積書がテーブルの上に綺麗に並んだ。

 「一番いいと思うものを、『せいのっ!』で指さそうか・・・?」

 私がそう言うと、「いいね・・・それ・・・」と妻は軽く応じた。

 「せいのっ!・・・」

 私はBMW523i、妻はPassatを右手の人差し指で示した。

 「やっぱりね・・・そうくるよね・・・」

 私がそう言うと、妻は「これが一番安いでしょう・・・」と応じた。

 「でも、BMWの値引額凄いでしょう・・・これはお得だと思うよ・・・」

 「お得ね・・・そう言われてみればお得かな・・・」

 「絶対にお得・・・」

 妻は車にはとんと興味がない。しかし、乗り心地に関してはうるさい。運転はしなので、助手席か後席での乗り心地に関して、結構的確な指摘をする。
 
 確かに運転手は乗り心地以外の様々なインフォメーションを感知するので、幾つかの評価指標を総合して車を判断するが、運転しない妻は唯一乗り心地で車を判断する。

 結果として「どれも乗り心地が良かった・・・」ということなのであろう。「なら、一番安いものが良い・・・」という判断となる。

 二人の間には深い溝が横たわっているような気がした。その溝の深さは確かに深い。しかし、その溝を越えるために、ひょいと飛ばないといけない幅はそれほど広いものではなかった。

 私は右の眉を少し上げた。そして、もう一度その動作を繰り返した。

 「お得なら・・・BMWにする・・・?」
 
 妻がそう言ったので、ほっとした。

 来年にはフルモデルチェンジするBMW 5シリーズをこのタイミングで購入するのは、巨額の値引も大きな要因ではあったが、エクステリアデザインが、私が最初に所有したBMWであるE38を彷彿とさせるものであったことも選択の要因であった。

 E38は20年も前の車であるので、細部を見れば現在のBMWのデザインとは大きく異なるのであるが、その全体としてのいでたちのようなものに、523iと共通の風情を感じた。

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 E38は、ワイド・アンド・ローのプロポーションを強調するエクステリアデザインで、その姿は歴代の7シリーズのDNAを引き継ぎ、流麗であった。 

2016/9/29

3852:コンサバ  

 BMW 523i Toringのエンジンは2L 直4である。その質感は格別にスペシャリティー溢れるものではない。

 VWやAudiの2L直4エンジンはとても良く出来ていた。それと比較してBMW製のエンジンだからといって、その質感が上回っているわけではなかった。

 やはり直4は直4で、BMW製であってもエンジンに関するプレミア度合いはそこそこと言った感じである。室内で聞けるエンジン音は穏やかで、アクセルをぐっと踏み込まない限り、その躾具合は極めて良い。

 今回、Passat、A6、523iと3台の車に試乗した。試乗はしなかったがAudi A4は少し前に試乗しており、改めて展示車をじっくり眺めて、中にも乗り込んでみた。

 4台のうち新しいPassatとA4はやはり内装にも新鮮さが感じられた。どちらもオプション扱いであるがメーター類は液晶ディスプレイによるバーチャル表示である。インテリアは直線基調のシャープさが勝った造形で見ていて胸がスカッとする感じである。

 一方、A6と523iはモデル末期であり、基本設計はやや古い。マイナーチェンジにより新しい要素が組み込まれているので、それほど古いという感じはないが、インテリアの造形には時間の経過というものを感じさせる。

 しかし、それがかえって穏やかさを感じる要因にもなっている。目新しさは無くても練られた造形は気持を落ち着かせる。

 BMWのディーラーに戻って、E350の査定と見積書を待った。出されたアイスコーヒーを飲みながらしばし待つと、営業マンが「お待たせしました・・・」と言って見積書を持ってきた。

 来年にはフルモデルチェンジが予定されている5シリーズである。車両価格からの値引きはかなり思い切った数字が記載されていた。その値引率は車両価格の20%に達した。

 さらにE350の査定額もVWやAudiのディーラーの査定額よりも高く、かなり頑張っている感じである。

 E350の前に乗っていたBMW735iは、このディーラーで購入したものであった。今年フルモデルチェンジした7シリーズから2代前の7シリーズである。

 「BMWにカムバックしていただきたいので、頑張りました・・・」と営業マンは笑顔で話した。

 私が以前乗っていたBMW 735iはクリス・バングルが初めてデザインしたモデルで、そのアバンギャルドな容姿が物議を醸したモデルであった。

 5シリーズも1世代前のモデルはクリス・バングル時代であったので、かなり攻めたデザインであった。クリス・バングルからデザイン責任者が変わり、現在の5シリーズのデザインはぐっとコンサバになった。

 そのコンサバ路線の5シリーズは、アクの強さや押し出しに関しては特別秀でたものはないが、全体的なバランスの良さは、優れている。

 3台の車に試乗し、4台の車に関する見積書が整った。後はその中から1台を選ぶだけである。チームでのロングライドをパスしてどうにか作り出した貴重な時間である。無駄にするわけにはいかない。決断すべき時が来た。

2016/9/28

3851:BMW 523i  

 Mercedes-Benz E-CLASSは、今年の7月にフルモデルチェンジした。ディーラーからのDMを見て、早速先月試乗した。

 セダンがまず出た。ステーションワゴンは来年になるようであった。ステーションワゴンが間に合っていれば、候補の一つにあがるはずであったが、今回はタイミングが合わなかった。

 巨大なスリーポンテッドスターが掲げられたモダンな建物の前を通り過ぎて、次に向かったのはBMWのディーラーである。

 E-CLASSの直接的なライバル関係にある5シリーズは、2010年の発売。2014年にマイナーチェンジを受けた。

 来年の2017年にはフルモデルチェンジが予定されていて、インターネットにはその新型の予想写真が出ている。

 その新型の予想写真を見てみると、フロントフェイスは最近のBMWらしくフロントライトとキドニーグリルが繋がり、今年フルモデルチェンジされた7シリーズに似た造形である。

 インテリアも7シリーズに準じたデザインで、基本的なロジックはBMW流でありながら、より煌びやかな風情が加味されている。

 その予想写真を見る限り、現行5シリーズに比べて、劇的な変化はなさそうである。「正常進化」という表現が適している。

 現行モデルは、モデル末期であるので、値引きは相当期待できる。さらにドイツ車はイヤーモデルごとに細かな改良が加わるので、モデル末期の熟成度はかなり高い。

 購入して1年ほどで新型が出るという点を除けば、モデル末期は意外と買い時と捉えることもできる。

 ディーラーの駐車場に車を停めた。建物の中に入り、受付の女性に要件を伝えた。しばしテーブルに座って待っていると営業マンが出てきた。

 「523iツーリングを試乗したいんですけど・・・」と伝えると「セダンなら試乗車があります・・・M-Sportという仕様です・・・」との返答であった。

 「それで、お願いします・・・」

 「では、試乗車を用意してきます・・・」

 営業マンは建物の外に出ていった。座ったテーブル席のすぐそばには「X3」が展示されていた。SUVは車高が高く存在感がある。

 そのフロントフェイスがこちらを睨み付けていた。マイナーチェンジを経て、そのフロントフェイスはやはりフロントライトとキドニーグリルがくっついたデザインに変更されていた。

 「離れていた方が良いと思うんだけどな・・・今後は全てこのデザインになるんだろうな・・・」と思った。

 しばし、待っていると「お待たせしました・・・」と声がかかり、試乗車へ向かった。5シリーズはモデル末期ではあるが、見た目的には古い感じはしなかった。

 中に乗り込んだ。私は運転席に納まり、妻が助手席に座った。営業マンは後席に座った。新青梅街道に出て、15分ほどぐるっと一回りした。

 M-Sport仕様はスポーツサスペンションを備えている。乗り心地はしっかり感はあるが硬すぎるという印象は無い。

 2Lの直噴ターボエンジンは低い回転域からトルクがたっぷり出るので、日常的な運転領域ではパワーに不足感を感じることはなかった。

 室内空間はゆったりとしている。インテリアの造形は、BMWらしく十分に練り込まれたもので、使い勝手は良さそうである。Audi A4のようなシャープで近未来的な要素は少ない。それゆえか眺めていると気分はゆったりとする。

 静粛性は高い、風きり音、ロードノイズも低く抑えられている。Audi A6に試乗した時にも感じたが、プレミアム感が体を包み込む。

2016/9/27

3850:Audi A6  

 Audiのディーラーには今年一度行っている。その時は出たばかりのA4を試乗した。A4は上質感あふれる良い車であった。

 エクステリアは定規を当てて引いたようなきりっとした直線でほとんどすべてのラインが構成されていて、シャープな質感を醸し出している。

 インテリアも近未来的な質感に溢れていた。計器類やナビゲーションなどのディスプレイを全て統合した「バーチャルコクピット」は確かに目新しくクールであった。

 見積書を貰った。エンジンは2,OTFSIでAudiならということでクワトロ。A4 Avantは出たばかりであるので、車体価格の値引きは厳しい。E350の査定額もVWでの時とほぼ同じ。

 A4の見積書を見てみると、Passat 2.OTSIのコストパフォーマンスの高さが浮き上がってくる。オプション価格一つとっても、A4ではLEDヘッドライトとバーチャルコックピットのセットオプションが340,000円であるのに対して、Passatでは同様のセットオプションが129,600円である。

 コストパフォーマンスの良さでは明らかにPassatが優れている。荷室の広さも圧倒的にPassatが有利であった。

 両者の価格差は、クールでシャープなAudiデザインの良さと4WDであるクワトロ、さらにプレミアムブランドとしてのAudiブランドに対する対価ということになる。  

 ディーラーの建物の中には数台の車が展示されていた。A4の見積書ができるのを待っている間、展示されていたAudi A6 Avantに乗ってみた。

 A6は2011年の発売。モデル末期に差しかかってきている。昨年マイナーチェンジを受けて装備面でのアップデートが行われた。

 「A6の試乗車ありますか?」と訊いてみた。「ありますよ・・・セダンですけど・・・」と営業マンは応じた。

 そこで、急遽A6の試乗となった。用意されていた試乗車のグレードは2.0TFSI クアトロ。2,0L直4エンジンを搭載した4WD車である。

 私が運転席、営業マンが助手席、妻は後席に納まり、ディーラーを出て、街中を20分ほど試乗した。

 それにしても最近の2,0L直4エンジンは良く出来ている。少し前ならA6が属するEセグメントの車の場合、3,OLの直6かV6が定番であったが、今はすっかりとダウンサイジングエンジンが主流である。

 その乗り味は見事にフラット。静かで穏やかな走りの質感はやはりプレミアム感が感じられる。操縦性に関しても実にスムースで神経質さはない。

 インテリアの質感はA4のような新しさはない。落ち着いた感じの造形は心を沸き立たせる要素は少ないが、熟成感がある。

 試乗を終えて、ディーラーの駐車場に戻ってきた。車から出て改めてA6のエクステリアを眺めた。Audiデザインはやはりクールでシャープである。昨年のマイナーチェンジによりエクステリアから曲線がほぼ排除されて、そのシャープさ加減は更にアップしたようである。

 A6の見積書ももらった。さすがにモデルが古いだけに車体価格からの値引きは一桁違う数字が可能のようであった。

 Audiのディーラーを後にした。既に時刻は1時になろうとしていた。「お昼食べよう・・・」と新青梅街道沿いにある「肉の万世 小平店」に立ち寄った。

 メニューを見てそれぞれ注文を済ませてから、テーブルの上で三つの見積書を見比べた。妻は「これが良いと思うけど・・・」とPassat推しである。

 私はA6の値引きの数字に引きつけられていた。Audi A6はBMW 5シリーズそして今私が乗っているMercedes-Benz Eクラスとの直接的なライバル関係にある。

 6年前E350を購入する際にも、先代のAudi A6と最後まで迷った。最終的には40万円の「クリーンディーゼル補助金」が決め手となった。
 
 食事を済ませた。「じゃあ、もう一つ最後のところへ行こうか・・・」そう言ってE350に乗り込んだ。妻は「この車燃えたりしないよね・・・」と少々心配顔であった。

2016/9/26

3849:Passat 2.0TSI  

 フォルクスワーゲンのディーラーの建物の中に入っていった。ここは事務所の営業車であるPOLOを購入したディーラーであり、点検等で何度か訪問している。

 受付の女性に要件を伝えると商談用のテーブル席に案内された。「何かお飲み物はいかがでしょうか?」と訊かれて、私はアイスコーヒを妻はオレンジジュースを頼んだ。

 次の車を選択するにあたり、まずは第一の選択があった。「ステーションワゴンにするのか、SUVにするのか・・・」という選択である。

 今現在乗っているE350はステーションワゴンである。荷室はとても広くゴルフバッグ4個を飲み込む。さらに後席を倒せば、ロードバイクもタイヤを外すことなくそのまま放り込むこともできる。

 セダンと比べて乗り味にそれほど差を感じることもない。荷室が広く利便性が高いステーションワゴンは合理的な選択である。

 SUVは全世界的に売れまくっている。日本も例外ではなく、各メーカも一番注目して力を入れているジャンルである。

 最新のSUVは、オンロードでの乗り味もそれほど違和感がなく、車体が重くなるために不利な燃費に関しても、相当改善されてきている。

 オフロード走行の可能性がない私の場合、SUVでなければならない必然性は全くないのであるが、「流行りもの」というのは、やはりきらきらとしていて魅力的な存在である。

 まずはこの二者択一をクリアする必要があった。悩んだ末選択したのは、ステーションワゴンであった。

 1年間で20,000kmほど走るわけであるが、そのほとんどがビジネスでの使用である。それを考慮するとステーションワゴンの方が無難であろう。さらに年に数回であるが、3名乗車あるいは4名乗車でゴルフに行くことがある。ゴルフバッグの積載ということに関してはSUVの荷室は奥行きが足りない。

 担当の営業マンが来たので、今月新たにラインナップに加わったばかりのパサート2.0TSIの試乗車がないか訊いた。

 残念ながらまだ試乗車はないとの返答であった。「1.4Lエンジンのモデルであればあるんですけど・・・」

 「もう一度乗ってみるか・・・」実はPASSATの発売が開始された昨年、1.4Lエンジンのモデルには一度試乗しているのである。「じゃあ、その間E350の査定をお願いします。」

 そして、私と妻はPASSATに乗った。「査定と見積書の作成をしますので、いつものコースを回って15分ほどで戻ってきてください・・・」と担当営業マンは告げた。

 試乗車は「VARIANT」と呼ばれるワゴンモデルであった。内装が豪華な「Hightline」仕様である。エンジンは1.4L。

 昨年乗った時も思ったが「これで1.4L・・・?」と感心するほどに良く出来たエンジンである。インテリアの設えもフォルクスワーゲンらしい清潔感と高級感がある。

 「家の車よりも静かじゃない・・・これにしたら・・・」と妻も乗り気である。「ベンツよりも安いんでしょう・・・?」

 一回りしてディーラーに戻ってきた。Passat Variant 2.0TSIの価格は5,199,000円。さらに12.3インチ大型ディスプレイによる「フルデジタルメーター」、縦列駐車・車庫入れの駐車時に駐車可能スペースの検出とステアリング操作を自動で行う「駐車サポートシステム」などがセットになった「テクノロジーパッケージ」と呼ばれるオプションが129,600円である。合計5,328,600円。

 エクステリアデザインは最近のVWらしい、直線を多用してワイドアンドローを演出するシャープなもの。

 GOLFの陰に隠れがちであり、どちらかというと地味な存在であったPassatをよりプレミアムな方向に向かわせている。

 車両価格の値引きは出たばかりの2.0TSIの場合、あまり期待できない。E350の査定額も想定の範囲内であった。

 「1.4Lでも十分と思えるけど、2.0Lなら相当余裕があるだろうな・・・2.0TSIの場合、R-Lineと呼ばれる内外装に特別な演出も加わる。この価格なら良心的とも言える。」

 心の中でにやにやしていた。「賢者の選択」という言葉が脳内スクリーンに貼り付いた。「では、検討します・・・」と担当営業マンに告げて、次なる目的地に向かった。

 PassatからE350に乗り換えると、状態が悪化している3.0Lディーゼルエンジンの音と振動がやはり気になる。

 新青梅街道に出て、西東京市方向へ向かった。次なる目的地が見えてきた。ガラス面が大きな真っ白な建物である。建物の壁面には四つのシルバーの輪っかが連なっていた。

2016/9/25

3848:ディーラー回り  

 「なんだか変な臭いがしない・・・?」

 車を降りた妻がそう言った。確かに何かが焦げるような臭いがした。その臭いはフライパンを空焚きした時のような、嫌な感じのものであった。

 Mercedes-Benz E350 BLUETECの前に行き、グリル部分に鼻を近づけた。「シュン・・・シュン・・・」と微かな音がしていた。焦げたような臭いは確かにエンジンあたりから漏れ出ているようであった。

 「もうそろそろ限界か・・・」

 そう思っていると、「もう買換えたら・・・車、燃えるかもよ・・・?」と妻が言った。走行距離は118,900kmである。それが昨日土曜日の晩のことであった。

 さすがに車がいきなり燃えることはないと思うが、走ってる途中で止まることはあるかもしれない。

 E350の前に乗っていたBMW 735iは走行距離105,000kmで、一度白煙をエンジンルームから出して路上で止まった。冷却水を送るポンプの破損であった。

 さらにその一つ前のMercedes-Benz S320は、正月親類の所へ向かって家族を乗せて走っている最中にいきなりエンジンが止まった。そして、どうやっても再始動しなくなった。走行距離は109,000kmを少し超えていた。エンジン自体に欠陥があった訳でなく、コンピュータープロググラムの問題とのことであった。

 どちらもケースも大事には至らなかったが、JAFのレッカー車のお世話になった。止まった場所がどちらも通行量の少ない道路だったから良かったが、高速道路であったならと思うと背筋が冷たくなった。

 「3度目があるかもしれない・・・」

 そう思った。今日の日曜日はチームでのロングライドに参加する予定であったが、急遽予定を変更して一気に決着をつけようと心を決めた。

 朝から気合が入っていた。夕方からは出かけなければならない予定が入っていたので、10時から3時頃までの間に、ディーラーを三つ回って、三つのモデルについて見積書を貰い、そのうちの一つを次の愛車に決定する。

 お目付け役として妻も同行することになった。朝になってE350のエンジンスタートボタンを押した。「ブルル・・・」と武者震いするかのように、3Lのディーゼルエンジンは目覚めた。

 「やっぱり、いつもよりも振動が大きいな・・・」

 「新車の頃はこんなに振動してなかったよね・・・」

 「修理すれば、直るかもしれないけど・・・でも、また別の個所が壊れるかな・・・」

 そんな会話を交わしながら、しばらく車を走らせていると、まず最初の目的地が見えてきた。それはフォルクスワーゲンのディーラーである。

 ガラスを多用した開放的でモダンなデザインの建物である。お金がかかっている感がひしひしと伝わってくる。

 車を駐車場に停めて、その建物の中に入っていった。その中にはGOLFやPOLO、UP!などVWを代表するモデルがずらっと展示されていた。

2016/9/24

3847:工藤アンプ  

 Iさんが現在お使いのLUXMAN PD-441が納められているイギリス製の古いキャビネットの下部には、工藤氏が製作したプリンアンプとパワーアンプがひっそりと納めらていた。工藤氏が作り出すアンプ群は、精緻な音世界をこの美しい空間にさっと構築する。

 工藤氏にお会いしたことはないが、Iさんによると「求道的な完璧主義者」とのことで、工藤氏にアンプの制作依頼をしても、その依頼したアンプが出来上がり、依頼者の手元に届くまでには相当な月日の経過が必要なようである。

 私が知っているウルトラマニアの中にも「工藤アンプ」を使われている方が若干いらっしゃる。そして、それらの方が口を揃えて「一旦使ってしまうと元には戻れない・・・」と話されていたのが印象的であった。

 Iさんも「工藤アンプ」に辿り着くまでには、マッキントッシュ、クオード、マランツなど、有名なメーカーのアンプを使われてきたとのことであった。

 そういったアンプの変遷の歴史に関するお話も興味深いものであった。さらに専門でいらっしゃる美術、特に現代美術の作家とのかかわりについての話は、汲めども汲めども尽きないという感じであった。様々な作家のまだ無名であった時代の話などは、聞いていてとても刺激を受けた。

 Iさんのレコードのコレクションの量は膨大である。幾つかの部屋がレコードで埋め尽くされているとのこと。このリスニングルーム兼リビングルームにも特注で作られたレコード棚がリスニングポイントから見て右側の壁に置かれていて、その中にレコードがぎっしりと詰められていたが、それは膨大なコレクションの一部に過ぎない。

 その中の何枚かを実際に聴かせて頂きながら、合間合間にお話を伺い、美味しいケーキと紅茶を頂いた。

 Iさんのリスニングルーム兼リビングルームでは、スピーカー以外のオーディオ機器は使わない時は古いキャビネットの中に納まり蓋が閉められると全く目につかない。

 TANNOY GRFはヴィンテージ製品のほとんどがそうであるように、その姿形が部屋に馴染み、家具とほぼ同じ立ち位置に立つことができる。

 そのためIさんのオーディオ機器は部屋と見事に調和し融合する。リビングルームとしての品位・品格というものを汚すことがまったくないのである。

 「これはオーディオのあり方としての一つの理想かもしれない・・・」そんな風にも思えた。そんなIさんのリスニングルームの清澄な空気の中にいると、先日「ゆみちゃん」との「あの日」の夜に一緒に行ったイタリアンレストランの風景がふと思いだされた。

 そのレストランは彼女の部屋から徒歩で10分ほどのところにひっそりとあった。住宅街の一角であるので、知る人ぞ知る的な店である。

 清潔な店内は、アットホームな雰囲気であった。小さな店で二人掛けのテーブル席が2つに、四人掛けのテーブル席が二つあった。

 ご夫婦で店を切り盛りされているようであった。そんな店の片隅にとても古いオーディオ機器が置かれていた。

 ビクター製の一体型のもので、作られたのは1960年代前半であろう。上部にターンテーブルと真空管式のレシーバーが内蔵され、下部にスピーカーがある。そのかわいらしく懐かしい「工芸品」は小さいながらも、異様なまでの存在感を主張していた。

 食事を運んできた奥様に確認すると、「今でもちゃんと動くんですよ・・・専門の方に直してもらったんです。もう50年以上も前のものですから・・・もしよかったら、お聴きになりますか・・・?」との返答を得た。

 「お願いできますか・・・?」

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 棚からレコードが一枚取り出され、歳の頃50代半ばと思われるその奥様は手慣れて感じでレコードをセットした。アームを右手で少し移動して針を盤面に落とした。

 店の中にはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタが静かに流れた。得も言われぬ音は、微妙な関係の二人の足元を擽る猫のようにゆったりと軽くうねるりながら流れていった。

 美味しいレストランであった。平日の夜であったので私たちの他には、60代と思しき夫婦とその知人らしい3名の客が少し離れたテーブル席に座ってるだけであった。

 彼女は饒舌であった。ワインにほんのりと顔を赤らめていた。私は車の運転があるのでノンアルコールビールを飲んでいた。

 居心地の良い空間で思わず見かけた古いオーディオ機器に心が緩やかに整形された。Iさんのお宅にも、その時のレストランと同じ空気感を感じた。

 「居住まいの良さ」とでも表現したいものが、共通していたのであろう。そこには貪欲さはなく、雑然とした感じとは無縁であり、時間も空間も実に清澄であった

2016/9/23

3846:PD-444  

 Iさんがお使いのLUXMAN PD-441はシングルアーム仕様である。これをダブルアーム仕様にしたものがPD-444である。

 ダブルアーム仕様であるので、当然横幅が大きくなる。そのため、PD-441が一般的なサイズ構成であるのに対して、PD-444はかなり横長のプロポーションになる。

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 LUXMAN PD-444は、「ゆみちゃん」のレコードプレーヤーを選択する際に一旦候補に上がった機種である。

 彼女は全くオーディオの知識はないが、スマホの画面で幾つかのレコードプレーヤーの写真を見て、このPD-444について「とても綺麗・・・デザインが素晴らしい・・・」と評価した。彼女の審美眼はかなり確かなもののようである。それは彼女の部屋のインテリアからも窺えた。

 結局、ヤフオクでは想定を超える金額まで吊り上がってしまったので落札はしなかった。PD-444の代わりに彼女の部屋に納まったレコードプレーヤーはYAMAHA YP-700であった。

 IさんのLUXMAN PD-441を眺め、そしてその音を聴いていると、先日の「ゆみちゃん」の部屋での一連のできごとが思いだされた。

 部屋は天井から吊り下がっているPH4のみの淡いオレンジ色に染まっていた。YP-700のターンテーブルにははっぴーえんどの「風街ろまん」のB面が乗り、33と3分の1回転のスピードで回っていた。

 曲は「夏なんです」を終えて「花いちもんめ 」へ移っていた。彼女の頭の重みは依然、私の右肩の上に感じられたままであった。その状況を冷静に分析しようと私の左脳は、33と3分の1回転よりも速いペースで回った。

 「単に彼女ははっぴーえんどの音楽に浸り切っているだけで、私に対して特別な好意があるわけではないはず・・・」

 「女性特有の心の揺らぎにすぎない・・・」

 「でも、彼女は古いもの好きである。もしかしたら男性も古いもの好きなのであろうか・・・」

 「いや、勘違いして早計な行動をとると、大きな後悔に見舞われるであろう・・・とりあえず、レコードから流れる音楽に静かに耳を傾けて・・・邪心退散・・・!」

 曲はゆっくりと移り変わっていった。「あしたてんきになあれ」「颱風」「春らんまん」と流れた。

 状況は変わりがなかった。曲と曲の間も、わずかな針音がDIATONE DS-251MKUから漏れ出るばかりであり、二人の口のいずれからも言葉が発せられることはなかった。

 最後の「愛餓を」はあっというまに終わる。すっとアームが今までよりも速いペースで内周に移動して、「プツン・・・」と音がしてからすっとアームは自動で上に上がった。

 やや間があってからアームは元の位置に向かって戻りはじめた。YP-700のセミオート機構は正常に機能した。

 その時、ふっと右肩が軽くなった。彼女の頭にも「セミオート機構」が付加されていたかのようであった。

 ついさっきまで感じられていた右肩の重みがすっと無くなったことに、どこかしら寂しさのようなものを感じた。

 「良いアルバムでしょう・・・?」

 「ええ、とても・・・これがセカンドアルバムだったはずだから、デビューアルバムも中古レコード屋さんで見つけて買おうかな・・・」

 彼女の目は少しまどろんでいるような表情を見せていた。

 「食事に行く・・・?」私は静かに訊いた。「美味しいイタリアンが近くにあるって・・・この前『Mimizuku』で会った時言ってたよね・・・」

 「ええ、行きましょう・・・私に奢らせてくださいね・・・」

 私は立ち上がって風街ろまんのレコードを薄い半透明のビニールである内袋にそっと入れてからジャケットにしまった。

 そのジャケットには4名のメンバーの写真があり、その四つの顔がじっとこちらを見ていた。心の内側をすっかりと覗かれてしまうような視線を8つの目から感じた。

2016/9/22

3845:PD-441  

 リスニングルームに入って、リスニングポイントに置かれたソファに座った。白を基調とした部屋の中にはTANNOY GRFがとても穏やかな表情で佇んでいた。

 レクタンギュラー型のキャビネットを持つGRFの中にはモニターレッドが搭載されている。更にそのキャビネットの上にはTANNOY製の丸い形状をしたスーパーツィーターが置かれていた。

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 部屋の設えはとても落ち着いたもので、文化の香りに溢れている。Iさんの専門分野でもある現代美術の作品が壁にはいくつも飾られていて、この部屋の中に良い波動を途切れなく提供しているかのようである。

 部屋の中にはスピーカー以外のオーディオ機器は見当たらない。実はレコードプレーヤーやアンプ類は、リスニングポイントから見て左側にあるアンティークなキャビネットの中にすっかりと納めれていた。

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 イギリス製の古いキャビネットは重厚な作りである。その歴史を感じさせるキャビネットは、特注なのでは思われるほどに、すっぽりとオーディオ機器を納めている。

 蓋を閉じるとオーディオ機器は全く目につかない。こういったところにIさんの研ぎ澄まされた美意識が窺える。

 Iさんのリスニングルームはリビングルームも兼ねているので、スピーカー以外のオーディオ機器がキャビネットにすっかりと納まっていることは、部屋の雰囲気を壊さないためにとても重要なことなのである。

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 キャビネットの扉を開けると、その中にはLUXMANのレコードプレーヤーが一番上にあり、更に工藤氏製作のアンプ類が下に控えている。

 レコードプレーヤの型番はLUXMAN PD441。1977年に発売された製品である。とても精細で美しいデザインを持つプレーヤーで、この時代のLUXMANのセンスの良さが窺える。

  駆動部にはクォーツロックのダイレクトドライブ方式が採用されていて、スライディングアームベースが特徴的である。更に脚部には金属製インシュレーターが奢られていて優れた振動吸収能力を有する。

 スイッチの造形にも美しさに拘る設計者のセンスが見て取れる。「良いデザインですね・・・」と思わず言葉が漏れた。

2016/9/21

3844:けんちん汁  

 しばし下っていくと、「都民の森」に達した。「この天気だし、ローディーの数は少ないだろう・・・」と思っていたが、サイクルラックにはかなりの数のロードバイクがかかっていた。

 「週末ライド中毒症」は結構な範囲で蔓延しているようであった。「この天気なのに物好きだな・・・」と、自分達のことを棚に上げて心の片隅で思った。

 都民の森の売店の名前は「とちの実」。ここの名物は「みとうだんご」と名が付けられた大ぶりな団子。炭火で焼かれて香ばしい香りを放っている。

 もう一つはここで作られているカレーパン。チームメンバーの間ではこのカレーパンが一番人気である。

 さらに夏季限定であるが「冷やし田楽」も今年ブレークした。檜原村の特産品である蒟蒻をこの田楽のために柔らかい食感に改良したもの。夏の暑い時期、ヒルクライムを終えて汗が流れるところ、口の中に広がる冷たさが気持ち良い。

 季節はすっかりと夏から秋に変わったようである。今日から売店では「けんちん汁」が始まった。今日のように時折雨が降り、気温が低めに推移していると暖かい「けんちん汁」はありがたい。

 早速その「けんちん汁」を頼んだ。300円であった。売店の建物の中にはテーブルと椅子が置かれている。お店のご主人の厚意でメンバー5名は建物の中で座って食べた。

 「けんちん汁」は具だくさんで、色んな具材から滲みだした旨み成分が実に良い味わいを醸し出していた。

 その「けんちん汁」を胃袋の中にすっかりと納めきった頃合いであった。突然「いたあ〜!」と言いながら、チームメンバーが売店に入ってきた。

 リーダーがリアルタイムで呟いていたTwitterを見て、「都民の森」のいるはずと見当をつけてノンストップで自宅から走ってきたようである。

 その頭からは湯気が出ていた。5+1で6名となったメンバーはしばしの時間、「とちの実」で穏やかな時間を過ごした。

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 都民の森を後にして長い下りを下った。路面は濡れている。下りはじめて最初のうちは小雨も降っていた。ゆっくりめのペースで下っていった。

 やがて道は檜原街道に繋がり、下り基調の道を軽快に進んだ。いつものであれば、武蔵五日市駅に達すると右折して睦橋通りを走るが、祭礼の為交通規制が・・・

 「自転車は大丈夫じゃない・・・」と思い、メンバーが婦警さんに訊いてみると「降りて歩いてください・・・」との返答であった。

 しかたなく、真っ直ぐに進んだ。このコースを進むとしばし上り基調の道を行くことになる。上り終えてから少し下ると朝に通った青梅線に沿った道に突き当たる。

 ここまで来るともう少しである。コンビニ休憩を一度挟んで帰路を急いだ。旧青梅街道のセブンイレブンで皆と別れて、自宅に向かった。

 帰りつくとサイコンのストップボタンを押した。走行距離は146kmであった。今日はヒルクライムでも限界付近まで追い込むことはなかったが、脚には疲労感がじんわりと広がっていた。



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