2016/6/13

3744:チームジャージ  

 5km地点を通過し、次のチェックポイントは10km地点である。青い紙片に書き込まれた目標タイムは35分30秒。5km地点同様それを上回るタイムで通過したいところである。

 Mt.富士ヒルクライムの平均斜度は5%ほどと緩めである。斜度はリズミカルに変化する。少し斜度がきつくなると緩まり、またきつめになる。

 緩くなると重めのギアに変えてトルクフルに推進力を高めた。斜度が上がるとギアを軽めのものに変えて、クランクの回転数を上げて乗り切っていった。

 チームメンバーはゴール近くの長い平坦エリア以外はフロントギアはアウターに入れることはあまりないようであるが、私は結構短い距離であっても、斜度が緩む所は、フロントギアをアウターに入れた。

 後でサイコンをチェックすると、合計20回フロントギアをチェンジしていた。Di2はフロントギアのチェンジがすんなりとストレスなく出来るのでありがたかった。

 10km地点を通過した。目標タイムよりも30秒ほど良いタイムであった。「このペースでいけば、1時間25分を切れる・・・」気持ちは少々高揚していた。

 前を走るチームメンバーの姿は遠くに見え続けていた。その距離は50〜100mほどであろうか・・・Mt.富士ヒルクライムのコースは見通しが良いので、その背中はどうにか視界の中にあり続けた。

 そのメンバーは先月のタイムトライアルで1時間22分台のタイムで走り切っていた。その背中が見え続けていれば、結果として良いタイムで走り切れそうな気がしていた。

 10kmから15kmの5kmは、気を抜くと心拍数が下がりがちになる。170を下回ることがないように、気を付けながらクランクを回し続けた。

 1963年に製造された古ぼけたエンジンは回り続けていた。BMW製のストレートシックスのような滑らかさとは程遠い回転ではあったが、一つの頑なな意志の基に回り続けていた。

 15km経過地点も、青い小さな紙片に手書きで書き込まれた目標タイムよりも良いタイムで通過することが出来た。

 「いける・・・今日はいける・・・」

 心の中で自分を鼓舞し続けていた。すると前の方から大きな声が聞こえてきた。「大丈夫だ・・・大丈夫・・・斜度が上がったら緩めてやるから・・・いける・・・大丈夫だ・・・」大きくはっきりとした声であった。

 その声の主である男性は、走りながら自分に大きな声で語り掛けているようであった。ちょっと滑稽な光景でもあったが、その気持ちも分からないではなかった。

 15kmを超えてくると、体は悲鳴を上げ始める。精神力を維持するために、自分を鼓舞する必要性はどんどん高まってくるのである。その声の主の右をすり抜けていった。その声は背後で徐々に小さくなっていった。

 15Kmを過ぎてからしばらくすると、前を走っているチームメンバーの背中が大きくなってきた。その背中までの距離は少しづつではあったが、確実に縮まっていたのである。

 Mt.富士ヒルクライムでは19km地点から20km地点までの1kmを「山岳スプリント区間」として、その区間だけのタイムを別途計測する。

 この1kmは斜度が上がるのである。その「山岳スプリント区間」が始まる箇所に達すると、同じエメラルドグリーンの色合いのチームジャージは、私の数メートル前にあった。



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