2015/12/5

3369:3分の1  

 組み上がったレコードプレーヤーは真っ黒なGTラックの上に唯一存在するオーディオ機器として君臨した。その独立した電源部はGTラックの下部に据え置かれた。

 ここ数ケ月の間、三つ並んだ黒いGTラックは虚無のみが支配していたが、今日になってようやく右側のGTラックから虚無を追い出して、その3分の1の空間を新たな機器が占有することになった。

 しかし、残念ながらこの美しいレコードプレーヤーの所有権を得たわけではない。しばしお借りするだけであって、永遠に我が物とすることを決心したわけではない。

 まあ決心を迫られても、Marantz#7と#2が不在ではその音を確認できないので、心を決める事はできない相談である。

 小暮さんは、そのレコードプレーヤが鎮座している様を眺めながら「やっぱり絵になるレコードプレーヤだね・・・機能がデザインとして見事に昇華されている。でも、Marantz #7が戻ってきたら個性がぶつかりすぎてしまうかもね・・・時代的な整合性も取れないし・・・やっぱり、Marantz #7の脇にはTHORENSなんかがしっくりくるよね・・・」と話した。

 さらに続けて「真ん中のGTラックの上には、MARANTZ #7を置く。真ん中の下と左側の下にはMARANTZ #2が・・・すると左側の上が空くね・・・」とGTラックの左上部に視線を移した。

 「ええ、そこにはフルレストアが完了したTHORENS TD-124を置こうかと・・・」私はまだそこにはないTD-124の姿を思い浮かべるようにして、答えた。

 「するとMarantz #7を真ん中に挟んで、新旧のレコードプレーヤが相対する格好になるわけだ・・・なかなかない取り合わせだねそれは・・・見た目だけでも興味が沸くよ。」

 小暮さんは笑顔になった。

 「まあ、年内にMarantzが戻ってくれば、ちょっと楽しい正月休みになりそうです・・・でも、どうなることやら・・・Yさんは全然商売っ気が無いから・・・年を越すことになる可能性も高いですよ・・・」

 「そうそう、ああいった古い機器をフルレストアする人間って、かなり変わったところがあるからね・・・世間的な一般常識からかけ離れているというか、浮世離れしているというか、夢の世界に住んでいるようなところがあるから・・・トーレンスのフルレストアも時間がかかっているんだろ・・・?」

 「ええ、とても・・・Marantzと良い勝負ですよ・・・Marantzも揃い、THORENSも揃い、一時的かもしれないけどこの美しいレコードプレーヤもリスニングルームにあれば、結構楽しめますよね・・・」

 私はここには無い機器たちの残像のようなものを、思い描きながら、にたにたしていた。小暮さんもにたにたしていた。なんだか小暮さんの顔が猫のように見えた。小暮さんの目に写る私の顔ももしかしたら猫のように映っているのかもしれないと漠然と思った。



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