2015/7/20

3410:四重奏  

 両脚の太腿が突っ張ったような状態でクランクを回し続けていると、道の左側でパンク修理に取りかかろうとしているメンバーが目に入ってきた。

 「ここでパンクとは・・・非情な試練と言える・・・」

 そんなことを思いながら、その横を通り過ぎた。

 「パンクですか・・・頑張ってください・・・」

 そう言葉をかけるのが精いっぱいで、私の脚にも襲いかかってきた別の種類の試練を引きずりながら、上っていった。

 しかし、左脚も右脚も筋肉の張りと痛みは感じるが、本格的に攣ることはなかった。本格的に両脚が攣ってしまったら、もうどうにもならない。一旦ロードバイクを止めて、脚を休ませるしかないであろう。

 ペースはとてもゆっくりとしたものになったので、心拍数は低い値で推移していた。160台前半の数値がサイコンに表示され続けていた。

 残り5kmほどになったあたりから、全く予期していないことが起こった。雨である。しかも本降り・・・降り始めて少しすると「本降り」という言葉では足りないくらいに強く降り始めた。

 「どしゃ降り」「豪雨」・・・そういった表現がぴったりとするような降り方である。そんな不意打ちにも会い、首を振りながらゆっくりと上っていった。

 こんなにも体と心に負担を背負うヒルクライムは随分と久し振りである。本当に長く感じた有間峠の上りもようやく終りを迎えた。

 ヒルクライムは終わりを告げたが、豪雨は終わらなかった。延々と大量の水分が空から落ち続けてくる。上り終えた直後は体温が高く、雨の脅威をそれほど強く感じなかったが、頂上で後続のメンバーを待っていると、徐々に体が冷えてきた。

 そして、やがて体は寒さで震えはじめた。峠の頂上は標高が高い。気温はその分低い。雨でずぶ濡れになった体は血の気を失い始めていた。

 雨は弱まる気配がない。下り始める頃にもバケツをひっくり返したような状況であった。ゆっくりと下り始めると、体はがたがたと震えた。

 ほんの少し前に暑さに茹だっていたのが嘘のような状況である。豪雨にさらされた有間峠の下り道にはところどころに川のような水が流れていた。多くの石や木の枝などの障害物が道に押し出されいて、恐怖を誘った。

 そんななかブレーキレバーを強く握りしめながら降りていった。寒さのため体が強張り、脚の筋肉は上っていた時とは別の試練にさらされていた。

 脚に強い力を加えていないのに、寒さで筋肉が強張ってまた攣りそうな痛みがあちらこちらから生じていた。

 下りは10kmほどである。標高が下がってくると気温が上がり始めるのが分かった。それが嬉しかった。まだ体は小刻みに震えていたが、どうにかこうにか無事下り終えようとしている頃であった。

 「バシュッ〜」という空気を切り裂くような鋭い音が、私のKUOTA KHANから発せられた。その音が何を意味するかはすぐに分かった。パンクである・・・

 「パンクしました・・・!」

 そう言って、ロードバイクを道路の脇に止めた。雨はようやく小降りになり止みそうになっていた。「もうすぐ下り終えるポイントでのパンク・・・試練の三重奏か・・・」そう心の中で呟き、天を呪った瞬間であった。

 パンク修理を始めるために屈んだ両脚の太腿の筋肉が攣った。試練は三重奏でなく、四重奏であった。激しい痛みのため、しばらく動くことができなかった。

 メンバーに手伝ってもらって、どうにかこうにかパンク修理を終えた。「なんという一日だ・・・」心の中に力ない言葉が漏れ出た。

 パンク修理を終えても、少し遅れて下り始めたメンバー数名が降りてこない。「どうしたんだろう・・・?同じくパンクか・・・まさか落車ではないだろうな・・・」そんなことを思いながら待っていたが、一向に降りてこない。

 もう少し降り切った先に釣堀と売店があり、トイレもあるので、そこまで降りて待つことにした。釣堀で待っていると後続のメンバーがやっと降りてきた。なんと下りで3回ものパンクに見舞われたとのことであった。

 今日は上り口に達するまでに1回、峠の上りで1回、下りで合計4回ものパンクに見舞われたことになる。さらにおまけもついてきた。下り切って「道の駅」に寄って休憩をした時に、さらに1名のメンバーのロードバクがパンクした。これで合計7回のパンク・・・これはチームのロングライドにおける最多パンク回数タイ記録とのことであった。

 猛暑・・・豪雨・・・寒さ・・・パンク・・・様々な試練が襲ってきた。私の両脚には攣った後の後遺症のような軽い痛みが刻み込まれていた。
 
 ようやくといった感じで自宅のそばまで戻ってきた。多摩湖の堤防で最後の休憩をしばしとって、多摩湖の向こうに広がる夕焼けの風景を目にした時、どっと安堵の波が心に押し寄せきた。

 あまりにもいろいろなことがあったので、朝自宅を出た時のことがとても遠い出来事のように思えていた。

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