2015/7/14

3404:小さな判事  

 工事による片側交互通行区間を抜けてから、少しづつペースを上げていった。ペースが上がるにつれて、体にかかる負荷も上がっていく。脚の筋肉や心臓、そして肺は「ヒルクライム態勢」に移行していく。

 「ヒルクライムは楽しいのか・・・?」という問いがどこからとなく発せられたとしたら、どう答えるべきか・・・

 趣味でやっているのであるから、楽しいのかもしれない・・・しかし、ヒルクライムの最中に楽しいと思えることは滅多にない。

 「また、上りはじめてしまった・・・この試練は上り終えるまで終わることはない・・・」「ヒルクライム態勢」に移行したばかりの頃合いには、そんなことを思ったりもする。

 ペースをそれほど上げることなく巡航していると、リーダーがいつもよりも早い段階でペースを上げていった。その背中はすっと前に出て小さくなっていく。

 「久しぶりのロングライドに、この暑さ・・・無理は禁物・・・」と、ペースはほぼ一定に保ちながら上っていった。

 やがて、もう一人のメンバーもペースを上げ始めた。「付いていくべきか・・・?」少し迷ったが、あまり離されない範囲内でその背中を追い続けることにした。

 巡航ペースよりも少しペースが上がったので、体のあちらこちらからは不平不満が湧き上がり始める。心臓は高い心拍数で、肺はそのうるさい呼吸音で、そして脚の筋肉はぴくぴくとした軽い痙攣のような動きで、現状の高い負荷に対する「軽減要求」を突き付けてくる。

 そういった「要求」に対応するのは、私の脳内に居座る「小さな判事」である。彼はその「要求」をきわめて冷静に見極める。そして多くの場合、「却下」というハンコをその要求書に押す。 

 私は「小さな判事」の判断に従って、ペースを保ったまま山伏峠を上り続けていった。すぐ前を上るメンバーの背中は20メートほど前にある。

 山伏峠をどうにか上り終えた。下りに入る。何度かカーブを曲がりながら下っていく。上りでは邪魔でしょうがない70kgの体重が下りでは有利に働く。前を行くメンバーとの差は詰まっていき、正丸峠の上りへ向かうため右に曲がっていく時にはすぐその後ろに密着していた。

 すぐ前を行くメンバーはヒルクライムに最適の体型をしている。細く軽い。斜度が厳しい場合には全く歯が立たないが、斜度が緩めであれば勝負になる。

 幸い正丸峠は斜度が緩めである。2台のロードバイクはもつれ合うようにしてハイペースで上っていった。

 すぐ後ろについたり、完全に並走したりを繰り返しながら、正丸峠の頂上を目指していた。体は限界付近でその強い負荷に耐えていた。

 「軽減要求」を却下し続けていた「小さな判事」はこんな時も冷静である。「1回だけならスパートできる。その持続距離はとても短い。最後の最後・・・タイミングを誤るな・・・」そう指示している。

 その「指令」は実に明確であった。ゴールまで残り200mほどになった頃、並走していたメンバーのペースが落ちたように感じた。

 そこからスパートした。ダンシングで一旦スピードに乗せた。シッティングに戻し、クランクをハイペースで回し続けた。そして、ゴール直前で再度ダンシングでもがいた。



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