2015/6/27

3387:対向法  

 スピーカーの設置方法にはいろいろな方法がある。もっともポピュラーなのが、二つ並んだスピーカを少し内側に向けてリスナーの耳に音を直線的に届けるような設置法。名前を付けるなら「内振り直線法」といったところであろうか・・・

 さらには、内振りをまったく付けずに真正面を向かせる設置方法もある。二つのスピーカーのフロント面が平行になるので「平行法」と呼ばれたりもする。これはスピーカー後方深くサウンドステージが展開しやすいようである。

 また、部屋のコーナーなどに置き、背面の壁に対して45度の角度を付けてセッティングする方法もある。スピーカーの正面から垂直に仮想ラインを引くと、リスナーの手前でそのラインが交差する。それゆえか「交差法」と呼ぶ方が多い。

 我が家のTANNOY GRFはコーナーキャビネットなので、必然的にこの「交差法」でセッティングしている。

 「我が家のリスニングルームのような狭い空間に大きなGRFを押し込んでしまったら、どうなるのであろう・・・相当息苦しいのでは・・・」と当初思っていたが、部屋のコーナーにすっぽりと収まってくれるので、以外と圧迫感は少なかった。

 今までいくつかのスピーカー設置法をOFF会などで実際見て聴いてきたが、今日はまったく新たなスピーカーのセッティング方法を目の当たりにすることとなった。場所はkikiさんのリスニングルームである。

 その部屋はマンションの一室。広さは6畳ほどであろうか・・・長方形の部屋を横長設置で使われている。比較的狭い長方形の部屋での横長設置・・・そうなるとスピーカーとリスニングポイントの距離は近い・・・そのニアフィールドなリスニングルームの様相を極めて特異なものにしているのが、スピーカーのセッティング方法である。

 左右の二つのスピーカーがお互い向かい合っているのである。完全に向かい合っているわけではなく、カタカナの「ハ」の字のように若干リスニングポイント側に開いているのであるが、その開度はわずかである。

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 使用スピーカーはQUAD ESL。サブ的なポジションでBrilonも低い位置に置かれていた。そのいずれもがほぼ向かい合っている。

 ESLは土台により比較的高い位置に置かれ、Brilonはインシュレーターにより強めの仰角が付けられていた。

 「これはまた・・・なんと言うべきか・・・」その第一印象は結構強烈である。「対向法」とでも命名すべセッティングに少々面食らった。

 kikiさんはオーディオ暦うん十年のベテランである。様々なスピーカーセッティングを試しているうちにこの方法に行き着き、それを継続・熟成されているとのことであった。

 少々あっけにとられながらリスニングポイントに置かれたリクライニングチェアに腰を下ろした。自然の河のせせらぎの音や野鳥の声を収録したCDが流されていた。脳波をα波にいざなうかのような音の響きが部屋を満たしていた。

 kikiさんはこういった自然の音でスピーカー位置などを調整されていらっしゃるようであった。「なるほど・・・そういった手もあるのか・・・」と感心して、目を閉じてみる。

 目を開けるとそのスピーカーセッティングのインパクト具合に、どうしても視線が奪われてしまうが、目を閉じれば、そういった外界からの刺激が遮断されるので、耳を澄ますことができる。

 するとスピーカーやオーディオ機器の存在感がふっと消え去っていき、実際にマイナスイオンが部屋を満たしているかのような森林浴気分になってくる。

 「確かに見た目と違って自然な感じがする・・・」

 ずっと自然の音に浸っていると脳波がα波からどんどんと下がっていきそうであったので、音楽をかけて頂くこととなった。
 
 まずはBrilonから・・・送り出しはSONYのCDプレーヤー。自作プリアンプ、京セラのパワーアンプ(京セラがオーディオ機器をかって出していたなんて知らなかった・・・)を経てBrilonは音楽を奏でる。

 クラシックを中心に聴かせて頂いたが、最初に聞いた自然の音同様、見た目のインパクトとは裏腹に自然な質感に心が和む。

 歪感は少なく、ピーキーな偏重もない。ごく自然で、澄んだ空気感が部屋全体を満たしている。「夜明けの音」という印象を受ける。夜の間の喧騒はすっかりと溶け去り、夜明けとともに街の空気がリセットされて澄んでいくような音の印象である。

 「それにしても不思議である・・・」、視覚的にはかなりアヴァンギャルドな前衛性を感じるが、聴覚的は自然な落ち着き感がもたらされる。二つの感覚には埋めがたいギャップが存在し続けた。

 ややあって、今度はスピーカがESLに切り替わった。こちらのシステムは送り出しがCECの5連奏CDプレーヤー(これは以前サンフラワーさんのお宅で見かけたことがある)。アナログはTRIO。プリメインアンプがサンスイである。

 ESLはコンデンサー型スピーカー。私も「QUAD熱」に侵されていた頃一時使用していた。コンデンサー型らしい爽やかな空気感が特徴のスピーカーである。

 ESLは独特の形状をしている。これが「対向法」で設置されていると、視覚的なインパクトの度合いはいやがうえでも増す。

 しかし、目を閉じれば背面の壁も顔を突き合わしているように見えてしまう二つのスピーカーもさっと消え去る。

 マジシャンの右手に握られていたはずの銀色のコインが消え、その左手の中から、なにくわぬ顔で再び表れるような、そんな不思議な感覚に陥りながら、CDやレコードを聴かせてもらっていた。

 時間は山あいの清流が流れていくように、淀みなく流れていた。結構な時間リクライニングチェアに座っていたはずであるが、それほど長くは感じられなかった。

 視覚と聴覚の整合性は最後まで噛み合わなかったが、kikiさんのお宅での「マジカル・ミステリー・ツアー」はチャイコフスキーの交響曲第4番第1楽章で幕を閉じた。

 その印象的な冒頭部のファンファーレは、この部屋に第一歩を踏み入れた時の私の驚きのようであった。

 その部屋を去る際、もう一度しげしげとそのセッティングを眺めた。QUAD ESLは澄まし顔であった。そして向かい合った双子の兄弟のように、二人にしか通じない言葉で会話しているように感じられた。



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