2015/5/6

3335:落車  

 柳沢峠の標高は1472m。上り終えて時間が経過してくると盛大にかいた汗が冷えてくる。サイクルジャージ背面のポケットに忍ばせていたウィンドブレーカーを取り出して身に纏った。

 ウィンドブレーカーを着用しても体が冷えてきた。昨年は疲労と寒さで筋肉が硬直するような感覚にとらわれたが、今年は昨年よりも気温が高いうえ、疲労度もそれほどではなかった。

 下りは安全に走れる速度に抑えて慎重に下ることを心に決めていた。昨年の下りでの落車の際には運良く軽微な怪我で済んだが、下りでの落車はスピードが出ているので、転び方によっては大きな怪我に繋がる可能性が高い。慎重の上にも慎重を期さなければ・・・

 しばしの休憩後下り始めた。風が体を覆い尽くす。ウィンドブレーカーはバタバタと小刻みに揺れて音をたてる。右に曲がり、左に曲がり、斜度が緩み、やがてきつくなる。

 昨年落車したのは右カーブであった。右カーブに差し掛かるとブレーキングをしっかりとしてスピードをこれでもかというくらいに緩めた。

 昨年よりも寒くはなかった。ちょうど同じ時期であったが、今年の方が気温が高いのであろう。昨年は上半身の筋肉が寒さのためぶるぶると震えていた。

 峠道の下りはほぼ下り終えた。無事に下り終えたことに少し安堵した。奥多摩湖までは下り基調の道が続く。皆、上りが終わったのでガシガシと先頭を引いた。

 奥多摩湖を過ぎ、いくつものトンネルを潜った。古里駅そばのコンビニで最後の休憩を済ませた。補給食を口にして、空になったボトルに水を入れた。

 周囲は薄暗くなってきた。休憩ポイントを出発した。今日は青梅大祭があるので、いつものルートではなく。吉野街道を進むことになった。

 吉野街道は最初のうちは車も少なかった。しかし、ある程度進んでくると車のリアランプの赤い光が長い帯を作るようになってきた。ゴールデンウィークの行楽帰りの車が繋がってのろのろと走っていた。

 ロードバイクはその脇をスピードを緩めてすり抜けていく。吉野街道は道幅が狭い。車の脇のそれほど広くない隙間を通り抜けていった。

 ややその状態で進んでいくと渋滞の列の中にバスが1台混じっていた。バスの脇にはほんのわずかの隙間しかなく、ロードバイクでも通り抜けていくことは困難であった。

 そのバスにつっかえた形でのろのろと進むしかなかった。つっかえたまましばらく行くと、少し道の左側が広がっている箇所に出た。

 ここぞっとばかりにバスをやり過ごそうとした。バスの左わきには若干の隙間のアスファルト部分とコンクリートに覆われた部分があった。

 私はバスを手早くやり過ごそうとアスファルト部分からコンクリート部分へ向けてロードバクをやや斜め左に向けて走らせた。夜間走行で路面状況はよく確認できなかった。

 アスファルト部分とその左側のコンクリート部分には数センチの段差があった。コンクリート部分の方が若干高くなっていたのである。

 それに全く気付かなかった。ロードバイクの前輪はその段差にひっかかった。左斜めに進もうとしていたロードバイクは前輪が段差にとらわれてしまってバランスを維持できなかった。

 ちょうど加速しようとしていた矢先前輪をとられたかたちとなったロードバイクは左側に勢いよく倒れた。その際左の腰をそのコンクリートにしっかりとぶつけた。

 左腰に強い痛みを感じてすぐには立ち上がれなかった。数分間四つん這い状態で痛みが弱まるのを待ってからどうにか立ち上がった。

 「また・・・落車か・・・このルートの帰りには魔物でも憑りついているのであろうか・・・」

 全く予期しない出来事に少々落胆した。ロードバイクには走行に支障が出るような損傷はなく、私も左腰を打撲しただけでその他には怪我はなかった。

 今回の落車も幸いけがの程度は軽微なものであった。左腰の打撲もきっと明日以降数日間は痛みが残るであろうが、大したものではない。

 隊列を組み直して帰り道を急いだ。左腰は痛んだが、どうにかハイペースでのトレイン走行にもついていけた。

 岩蔵街道に出て、やがて旧青梅街道に辿りついた。もうすぐ我が家である。早朝の5時に家を出てから14時間以上の時間が経過していた。

 家に辿りつくのが待ち遠しかった。コンクリートに打ち付けた左腰が痛み、200kmほど走ってサドルに長時間押し付けられていた尻の坐骨部分が痛んだ。ダンシングを多用したために右手の手の平にはまめができ潰れて痛んだ。

 でも、家に辿りついたならそれらの痛みもすっと和らぐような気がしていた。もうすぐ我が家である。もうすぐ家族の暖かい笑顔に触れることが出来る。そんな何かしら随分懐かしいものに触れる時のような暖かい気持ちが自然に心の奥底から湧いてきた。

 長い一日は終わろうとしていた。今晩は深淵の底に沈みこむように眠りこけるであろう。たとえ、左腰が痛もうとも・・・泥のようになって眠るはずである・・・それだけは確かなことのような気がしていた。



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