2015/3/19

3287:チンクエチェント  

 私の左腕の関節の窪みに「寧々ちゃん」の首は収まりよく任せられていた。彼女は私の左側にいて、こちらに顔を向ける形で横になっていた。

 私は仰向けになって、視線を天井に向けていた。ホテルの一室の天井にはBOSE製の小さな黒いスピーカーが取り付けられていて、そこから部屋の中に有線放送によるBGMが流れ込んでいた。

 二人とも黙っていた。彼女の左手は私の腹部の上に置かれていた。彼女のその手の温もりが、ちょうど手の形に切り取られたように腹部に刻み付けられているかのようであった。

 その時ふと、ジョージ・ハリソンの「LIVING IN THE MATERIAL WORLD」のジャケットデザインのことが頭をよぎった。

 そのジャケットには手の写真が使われていた。手のサーモグラフィーのような特殊な写真であった。印象的て記憶に残っている。

 このアルバムのA面の1曲目に収められているのは、確か「GIVE ME LOVE」だった。その緩やかでどこかせつなげなメロディが思い起こされた。

 「そういえば、まだやり残していたいたことがあった・・・・」

 彼女が急に口を開いた。

 「やり残したこと・・・?」

 「Mitoの次の車が決まっていないでしょう・・・」

 「あっ・・・それね・・・そうだね・・・まだ決まっていなかったね・・・」

 今までに、二人で試乗した車は3台。アウディ A1、ルノー ルーテシア、マツダ デミオ・・・だがいずれも決定打を放つことはなかった。

 「そうだね、Mitoと同じセグメントとなると、他にはミニ、フィアット 500、それからシトロエンのC3くらいかな・・・」

 「フィアット500って乗ってみたい・・・かわいいよね、あの顔つき・・・癒されそう・・・」

 「今度試乗してみる・・・?フィアット500なら色はないがいいかな・・・」

 「今の流行は白でしょう・・・でも、イタリア車らしく赤もいいかも・・・」

 「そういえば、限定色かもしれないけど、チョコレート色みたいなものも出てたよ・・・これが意外と渋くてカッコよかった・・・」

 そういって私はベッドのサイドテーブルに置いておいたスマホを取り出して、画像を検索してみた。それはすぐに見つかった。その画像を彼女に見せた。

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 「これ、いいわね・・・あまり思いつかない色だけど・・・あとナンバーはやっぱり500ね・・・」

 彼女は乗り気なようである。

 「じゃあ、今度乗ってみようよ・・・チンクエチェント・・・」

 「チンクエチェント・・・?」

 「そう、500のイタリア語・・・チンクエチェント・・・」

 「名前もなんだかかわいいわね・・・」



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