2015/3/18

3286:ソナタ  

 私の舌先はうつ伏せに横たわっている「寧々ちゃん」の背中をゆっくりと下から上へ向かって移動していた。ぬるめのお湯に先ほどまで浸かっていた彼女の肌には熱がこもっていた。そして、うっすらと汗ばんでいるのだろう・・・舌先により拾い上げられていく感触は脳にゆっくりと伝達されてくる。

 彼女は肉食動物に捕食された草食動物のように横たわっていた。私は獲物を仕留めたネコ科の肉食獣のように、腰を上げ、頭を下げていた。両方の腕は肘のところで大きく曲げられ、捕食された動物の内臓をなめるかのように舌先を動かしていた。

 彼女の表情は見えない。しかし、その筋肉の動きや呼吸のテンポ、そして時折漏れ出る声の抑揚から、その表情を想像することが出来た。

 洗いたてのベッドの白いシーツは肌に心地よかった。羽毛が中に入っているのであろう、柔らかな枕が二つ並んでいる。その一つに彼女は顔をうずめるようにしていた。

 私の舌と唇はゆっくりと彼女の肌の上で陣地を拡大していく。そんな陣取り合戦に奔走していた間、この綺麗に整えられたホテルの部屋の中にはBGMとしてクラシック音楽がかかっていた。

 有線放送のチャンネルは「C13」に合わせられていた。このチャンネルはクラシック音楽のみを流すチャンネルである。本来の用途はレストランかなにかのBGMなのであろう。この手のホテルの一室で流されることはきっと想定していないのであろう。

 ちょうどバッハが流れていた。ヴァイオリンソナタ第3番である。ゆったりとしたテンポの第1楽章が部屋の中に響いた。

 そのヴァイオリンの響きと、時折漏れ出る彼女の声のみがこの部屋の空間を占有していた。「緩・急・緩・急」とテンポが変わる4楽章のソナタ形式で構成されているヴァイオリンソナタはやがて第2楽章に移っていった。私の舌先や唇、そして10本の手の指の動きが、流れが速くなる第2楽章に合わせるかのように、彼女の肌の上をテンポよく舞った。

 この部屋の中で過ごす約1時間ほどの時間の中で、彼女は何度か針が振り切れるように絶頂を味わう。それは継続していた彼女の声が途切れると共に下腹部の筋肉がきまって3度小さく痙攣することによりそれと分かる。

 緊迫から解かれた脱力感をしばし経過すると、飽くことの無い探求心を有する研究者のように、またそのテンションを高めていく。一旦下降した曲線はゆっくりとその頭を持ち上げ新たなる頂を目指す・・・そんなことがソナタ形式のように何度か繰り返されるのである。

 しっかりと閉じられた瞼の裏側の瞳は何を見ているのであろうか・・・何かしら具体的な映像を見ているようには感じられなかった。きっと色彩感のある抽象画のような景色でも映るのであろう・・・そんな風に感じられた。

 彼女は何度めかの、そして私は最初で最後の絶頂感を身にしたためて、ナイフにより二つに切り分けられたリンゴがごろっと真ん中から左右に分かれるように、重なり合っていた二人の体はベッドの上に分かれた。



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