2015/1/16

3225:70年代  

 「お店に一緒に行きませんか・・・?」

 彼女は私がしげしげと古いラジカセの在庫リストを眺めているすぐ横でつぶやくように言った。私はその言葉を耳にしっかりとは捉えたのであるが、その意味合いをすぐには理解できずにいた。

 「お店って・・・?」

 彼女の言わんとしていることを計りかねて、彼女が座っている左側へ向き直って訊いた。彼女はアイスコーヒーをストローで飲んでいた。その液体が細い半透明の管のなかを上がっていくのが見えた。ごくっとコーヒーを喉の奥へ流し込んでから彼女は言った。

 「ラジカセの専門店です。渋谷にあるんです。場所はだいたいわかるんですけど、一人では入りずらい様な気がして・・・もしよかったら付いてきてもらえないかなって思って・・・」

 「ああ、そうだね・・・私も行ってみたいな・・・少しタイムスリップしたような気分を味わえるかもしれないな・・・小学生や中学生の頃、こういったラジカセには憧れたんだよね・・・お小遣いでは買える代物ではなかったからね・・・学校の帰り道に上新電機があって、その2階にラジカセコーナーがあって、飽きずに眺めてた・・・あの頃のような気持ちに浸れるかもしれない・・・私も1台買おうかな・・・」

 「このリストは全部ではないそうですよ・・・いまリペア中のものもあるそうです。そういったものは店に行くと教えてくれるそうです。渋谷の雑居ビルの中にあるみたいで、ちょっと女性一人では入るのはためらわれるというか、不安というか・・・」

 「それはそうだね・・・この手のものに興味を持つのは、いい歳こいたおっさんばかりだろうからね・・・」

 「でも最近若い人も興味を持っているみたいですよ・・・インディーズ系のグループがカセットテープで作品を出したりしてるくらいだから・・・」

 「まあ、確かにいい年こいたおっさんはインディーズなんか聴かないだろうからな・・・ファッションもそうだけど、古臭いものがかえって新鮮に映ることもあるからね・・・」

 「実は私70年代ファッション好きなんです・・・」

 そう言って彼女はスマホを取り出した。そして何枚かの写真を見せてくれた。それらには彼女がレトロな感じのするファッションに身を包んで自撮りした姿が映っていた。

 「可愛く撮れてるね・・・確かにレトロだけど、今見ると結構新鮮というか印象的な服装だよね・・・この色づかいや柄なんかサイケデリックな感じだな・・・それとこのでっかい襟・・・良い感じだしてるね・・・」

 「こういう服装をして自撮りしたものをその手に雑誌に送ったりしてるんです・・・採用されたことはないけど・・・まあ、趣味みたいなもので・・・」

 「いつか掲載されるんじゃない・・・良い感じだもの・・・」

 「そうかな・・・もうこんなことしてられる歳でもないんですけど・・・」

 彼女は自嘲気味に苦笑いをした。

 「『ゆみちゃん』は何歳なのであろうか・・・20代半ばに見えるが・・・童顔なので実際の歳よりも若く見えるのかもしれない・・・20代後半・・・あるいは30歳を超えているのか・・・」心の中でそんなことを思った。



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