2014/12/4

3183:Mimizuku  

 Mimizukuに入った。前回と同様四つ並んだカウンター席の一番奥の席に座った。店内には四人掛けのテーブルが二つあり、少し奥まったところに二人掛けのテーブルが一つある。二人掛けのテーブルには年配の男性が座ってコーヒーを飲んでいた。

 私は前回同様オリジナルブレンドを頼んだ。女主人は薄い茶色のペパーフィルターに曳いたばかりのコーヒーを入れて、ゆっくりとその真ん中に向けてお湯を注ぎ始めた。SONY CF-2580は前回同様カウンターに置いてある。

 「おまちどうさま・・・」女主人はそう言うとコーヒーカップをテーブルに置いた。カップには黒く光るコーヒーが揺れていた。

 「また、聴いてみていいですか・・・カセットテープ・・・?」

 私はそっと女主人に話しかけた。

 「ええ、いいですよ・・・小さめの音量でね・・・」

 そういうと、細長い箱を取り出してきて、カウンターの上に置いた。その箱の中にはかって市販されていたミュージックテープが十数本入っていた。

 クラシックのテープも何本か入っていた。小澤征爾指揮ボストン交響楽団の演奏でべートーベンの交響曲第5番のテープが目についた。TELARCのカセットテープであった。

 ケースを開けてテープを取り出す。テープのレーベル面には曲名や演奏時間などが綺麗に印刷されていた。TELARCのトレードマークも印刷されていて、れっきとした商品であることを主張しているようであった。

 それをCF-2580に入れてPLAYボタンを押した。あまりにも有名なフレーズが流れ始める。高音用と低音用に区分されたトーンコーントロールを調整してみた。思った以上に音が変わる。

 第一楽章が終わる頃合いであった。店の扉が開いて新たな客が入ってきた。扉が開いた音に何気にそちらに視線を向けた。

 女性であった。若い女性であった。この店の雰囲気にはそぐわない感じであった。20代半ばであろうか・・・

 「いらっしゃい・・・」

 女主人は静かに言った。その女性はちょっとためらった風であったが、カウンター席に座った。四つ並んでいる席の一番奥に私が座っている。その一番手前の席に座ったのである。

 CF-2580はカウンター席の真ん中に置いてある。そのCF-2580を挟む形で私とその女性が座った。CF-2580からはべートーベンの交響曲第5番の第1楽章の終盤が小さめの音量で流れていた。

 そのカセットテープのケースは私のほとんど空になったコーヒーカップのすぐ脇に置かれていた。その女性は席に着く間際に、ちらっとそのケースに視線を落としたように感じられた。



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