2014/12/2

3181:試練  

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 今日の目的地である都民の森の駐車場に着いた時には空は灰色の雲ですっかりと覆われていた。気温はかなり低い。汗で濡れた体は急速に冷やされてきた。

 ハンガーノック気味であった身体は、おにぎり一個では満足できずに、売店で売られていたおでんや団子も買って食べた。

 食料が胃に十分に補給され、体もしばしの休息で回復してきた。過酷な行軍を終え、少しばかりほっとしていた。帰りは下りがメインである。「もう、厳しい試練にさらされ続けることはないはず・・・どうにかこの体調でもやり過ごせるだろう・・・」そう思った。

 しかし、今日ばかりはそういうわけにはいかなかった。神様は思い上がりから慎重さを欠いた人間には、厳しい罰を与えることを信条としているようで、新たなる試練をしっかりと用意していた。

 寒さに追い立てられるようにして、下りの準備を始めた。ヘルメットをかぶり、サングラスをかけ、フルフィンガータイプのグローブをはめた。グローブの中は汗で濡れていた。指先がその冷たくなったグローブの内側に触れたとき、すっと背筋に寒気が走った。

 長い下りに入った。冷えた空気が強烈な勢いで体に触れてくる。腕の筋肉、脚の筋肉が急速冷却される。筋肉の一本一本の筋が強張り、固くなっていくようであった。

 下りながら、筋肉の柔軟さがどんどん失われていくのを覚えた。そして、やがて脚の筋肉には不規則な痙攣のようなものが走るようになった。

 脚の筋肉はその持ち主の意志とは関係なく、強張り、痙攣し、命令を拒否するようになってきた。そして痛みが・・・電気が走るように素早く、抜け目なく、襲うようになってきた。

 「まずい・・・太ももの筋肉が攣りそうだ・・・」そんな危惧感を抱きながら下りのカーブをいくつもやり過ごした。

 下り一辺倒のエリアを過ぎると軽めの上り返しも訪れる。その際には止めていた脚を回す。すると先ほどの電気のような痛みが容赦なく襲ってくる。

 痛みが走ると脚の回転を緩め、だましだまし走っていたが、とある上り返しの地点にきて、両足太ももの筋肉が同時に攣った。

 「脚が・・・攣りました・・・両方・・・」そう苦悶の表情で訴えて、ストップした。左足のクリートは外すことができたが、右足は痛みのため外すことができない。

 左足のみを地面に着いた状態で、両足に強烈に襲いかかる痛みに唸った。どうすることもできない。全く身動きできない。

 リーダーに右足のシューズを脱がせてもらって、どうにかロードバイクから抜け出るように降り、両足をマッサージした。時間の経過とともに攣っていた筋肉も少し落ち着きを見せ始めた。屈伸を何度かして、筋肉を伸ばした。

 少し落ち着いたところでリスタートした。筋肉の動向はまだ幾分不安定であったが、しばし下っていくとどうにか橘橋交差点までたどり着いた。

 ここを右折して武蔵五日市駅まで向かう。下り基調の緩やかな道が続く。普段であれば、上り終えた気安さも手伝って高速で飛ばすコースである。

 先ほど攣った太ももの筋肉にはまだ痛みが残っていた。その痛みは波のように大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。

 「また来るのか・・・」そんな嫌な予感がしてきた。すると戸倉のセブンイレブンが見えてくる少し前で、また両足に鋭い痛みが走った。

 「また、攣ったみたいです・・・」脚が全く回せなくなった。急遽セブンイレブンに立ち寄って休息した。メンバーの一人が「Mag-On」という筋肉の攣りを抑えるサプリメントを持っていたので、もらって飲んだ。この「Mag-On」・・・効果てきめんであった。痛みは残ったが、脚の筋肉はもう攣ることはなかった。

 今回のロングライドは試練そのものであった。風邪が完全に治りきらないうちに見切り発車したつけは予想以上に大きなものであった。

 試練の連続ではあったが、メンバーに助けられながらどうにかこうにか全工程を走り終えることができた。メンバーには心から感謝である。

 自宅にたどり着いてORBEA ONIXをサイクルスタンドに掛け終わると、大きく息を吐いた。玄関でしばし座り込んだ。痛みが残る両足の太ももをさすった。

 サイクルシューズに目をやった。小刻みに揺れているように見えた。MAVICのサイクルシューズはもう3年半ほど履いている。すっかり汚れて傷ついていた。

 「帰ったの・・・大丈夫だった・・・風邪本当に治ったの・・・」妻の声が背後に聞こえた。「あっ・・・ただいま・・・大丈夫だったよ・・・ちゃんと走れたよ・・・」努めて明るめの声で答えた。



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