2014/12/1

3180:行軍  

 拝島駅そばのファミリーマートでの休憩を切り上げて、檜原村を目指して5台のロードバイクのトレインは出発した。

 いつものように国道16号の下をくぐるトンネルを抜けて睦橋通りに出た。この通りを武蔵五日市駅にたどり着くまで進んだ。軽いアップダウンはあるが、ほぼフラットな道である。しかし、ここでも体の重さは増すばかりであった。

 「やはり、少し早まったのであろうか・・・風邪が完全に治りきらないうちにロングを走るのは・・・無理があったのか・・・」

 そんな思いが頭の中を右往左往した。しかし、引き返すわけにはいかない。武蔵五日市駅を左折して少し上りが続く道を進んだ。

 いつもよりも汗が盛大に溢れてくる。このくらいの負荷であれば、心拍数はこの程度・・・といった今までの経験則から割り出される数値よりも遥かに高い数値がサイコンには表示される。その数字を見て暗い気持ちになった。

クリックすると元のサイズで表示します

 しばし走った先にある公衆トイレでトイレ休憩をした。そこから川向うに見える里山には色づいた木々が静かに佇んでいた。穏やかな景色である。トイレを済ませると、私は疲れから座り込んでいた。

 「体調が悪いから、ここで引き返す・・・」という選択肢もあったかもしれない。しかし、そういう思いは不思議と沸いてこなかった。

 重い体を起してロードバイクに跨った。再スタートしてしばらく行くと檜原村役場が右手に見えてくる。その立派な建物を通り過ぎると、T字路に突き当たる。そのT字路を左折した。

 都民の森はここから21km先である。途中の「数馬」までトレインを維持しながら上り、そこで小休止を入れる。そこから先、ゴールまでの5km程の上りは各自のペースで上る。従前であれば、その5kmがバトルエリアとなった。しかし、今日は全く状況が違う。

 トレインを組んで上るためペースはゆっくりめであるが、私の脚はそのペースにもついていけないほど既に疲弊していた。

 汗はとめどもなく流れ落ちてくる。少し異常な量である。そしてその心拍数は170を超えてしまう。この斜度でこのペースで超えるはずのない数値である。

 メンバーは私のペースに合わせるために時折スピードを緩めながら上った。ようやく「数馬」に着いた。

 トイレに行こうとするが、脚がもつれる。トイレに向かう階段の途中で座り込んで休んだ。この段階で体力はほとんど底をついていた。

 ここから約5km・・・厳しい上りが続く。「足を着かずに上りきれるのであろうか・・・」不安であった。「これは厄介だな・・・とても・・・」そんな言葉が空を舞って落ちる乾いた葉のように降ってきた。

 そして、苦難の道をORBEA ONIXとともに上り始めた。とてもゆっくりのペースで上った。それでもほぼ底をついていた体力には厳しい行軍となった。

 2kmほど上った辺りからは、ハンガーノック気味の症状も現れ始めた。コンビニではいつも通りの補給食を口にしていた。通常であればハンガーノックになることはないはずである。しかし、空腹を感じ始め、脚に力が込められない。貧血気味に血の気が引く感じがあって、汗は流れるのに寒気がする。心拍数は今度は急に下がり始めた。数値は140以下になり、それ以上上がらない。

 文字通り這うように上っていった。途中から心配して降りて来てくれたリーダーに連れ添われながら、クランクを力なく回し続けた。

 意識がうっすらと曇る感じがあった。ハンドルがぶれて、道のなかほどに這い出てしまう。「足だけはつくまい・・・」その意識だけを持ち続けた。

 空はすっかり曇っていた。気温は標高が上がるにつれて下がっていく。風邪で体調を崩す前であれば前を行くメンバーを追って歯を食いしばって勢いよく坂を上っていたはずである。しかし、今となってはそんな事は遥か遠いことのように思われた。

 永遠のように思われた時間と距離にも終わりは来るものである。ふらつくようにしてゴールである都民の森の駐車場に辿りついた。

 ローディー達が多く来るここにはバイクスタンドが用意されている。そこに辿りつく前に座りこめる場所が目に着いたので、私は腰が抜けたように座り込んだ。

 血の気の通わない手でサイクルジャージの背中のポケットに忍ばせていたおにぎりを取り出して口に入れた。その味わいは痺れたようになっている舌に心地良く柔らかい刺激を伝えてくれた。



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ